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女の子って大変

前回のあらすじ

 ケーキ食べた

唐突の生理ネタ、非常にすまない。嫌な人は読まなくていいよ


 【勇者】ハリベルとうっかり遭遇してから数日。

 ヤツらは支部長リカルドから出禁を食らったらしく、最近は姿を見かけない。

 王都近くで上位の竜族を見かけたという噂話も流れているから、恐らく今はその調査や対処に追われているんだろう。

 冒険者ギルドの受付にいるハミルトンに何か良い仕事でもないか聞こうとした矢先だった。

 お腹にきりきりとした痛みが走る。


「ん? カイン、どうしたの?」


 壁に手をついて、お腹を押さえた俺をエルザが心配そうに見ていた。

 その気遣いはありがたいが、反応できる余裕もなく。

 段々と顔から血の気が失せるのが分かるほど、痛みは強くなっていく。

 なんだこれ?

 食あたりとは違う類いの痛みだ。

 まるで、筋肉ではなく、内臓を攣ったような断続的な痛みが何度も走る。


「……貧血?」


 俺の顔色を伺っていたエルザが呟く。

 エルザから見ても分かるほど今の俺の顔は青ざめているのだろうか。

 冷や汗がどばどば額や首筋を伝い落ちていく。

 客観的に見るとただ事じゃないのは一目瞭然だ。


「今日は休みにした方が良さそうね」


 そう言ってエルザはヒョイと俺を抱え上げた。

 たしかにこの痛みを抱えながら仕事は無理だ。

 すぐに治る保証もないし、なにより何故痛むのかも分からない。


「ごめん、エルザ」

「んー? 別にいいよ」


 周りの冒険者が囃立てる声を無視してエルザはゆっくり歩き出す。

 もしかして俺のことを案じて、だろうか。

 体勢が変わったことで、痛みが少しマシになった。

 さらにエルザにもたれかかるとラクなので、俺はついつい甘えてエルザに身体を預けてしまう。

 途中、エルザが何処かに寄っていたような気がしたが、俺は痛みを堪えるのに精一杯で目を瞑っていたから詳しいことは知らない。

 下ろされた場所は宿屋の一室で、エルザはもう片方の手に持っていた紙袋を俺に渡してきた。


「今、生理痛に効くっていうお茶を淹れてくるね」


 そう告げてエルザは部屋を後にした。

 紙袋の中にはいつの間に買ったのか、いわゆる女性用の品物が入っていた。


「……マジで?」


 蘇るのは、医療協会で受けた健康診断。

 『女性としての機能は分からないが、数年単位での生命維持に支障はない』という医師の言葉。

 エルザの買ってきた品々と、医師の言葉と己の状況。

 今まで逸らしてきたとある問題に俺は直面することになったのだ。


 衝撃的な現実と慣れない痛みに四苦八苦しているとエルザがコーヒーカップを片手に戻ってきた。


「お腹、あっためると痛みが和らぐよ」

「ん、ありがと……」


 エルザが勧める通り、お茶を飲むと確かに痛みが和らぐ気がした。

 身体の芯からポカポカあったまる感じは心地良い。


「夜ご飯までまだ時間あるから、横になって休むといいよ」

「そうするわ……なかなかしんどいものなんだな。知らなかったわ」


 横になると腰に力を入れなくて済む分、痛みも和らぐ。

 エルザに甲斐甲斐しく布団をかけてもらうと目蓋が重くなってきた。

 それでも睡魔に抗っていると、ぽんぽんとエルザの手が俺の頭を撫でる。


「眠いなら寝ても大丈夫だよ。生理中はよく眠れるからね」

「そっか……なあ、エルザ」

「なあに?」


 エルザの目は柔らかく弧を描いていたので、俺は思い切って甘えることにした。

 何と形容すべきは分からないが、心に開いた穴をエルザなら埋めてくれる気がしたのだ。


「一緒に寝たい」


 俺の要望にエルザはパチクリと瞬きをしてから、「しょうがないな」と呟く。

 いそいそと靴を脱ぐと俺の隣に潜り込んできた。

 服の上から伝わる体温が妙に心地良くて、俺はエルザの胸板に顔を寄せる。

 不安とか悲しさはどこか遠いところに消えて、俺は聴こえてくるエルザの心臓の音に耳を傾けているうちに寝てしまった。





 それから約一週間後。


「やったー! 生理がついに終わったぞ!」

「良かったね」


 初めてということもあって、四日ほどは貧血と痛みで碌に動けなかった。

 さらに今日に至るまで、貧血でフラフラしていたのだ。

 ようやく終わりを迎え、体調不良も改善したので前のように活動できる。

 それもこれも俺の為に世話をしてくれたエルザのおかげだ。


「エルザ、ありがとな」

「べ、べつに。感謝されるようなことなんてしてないし」


 口ではツンケンしているが、俺がダウンしていた時のエルザはそれはそれは優しかった。

 強請ったら「あーん」もしてくれたし、俺を寝かしつけるついでに頭も撫でてくれた。

 気分の浮き沈みでエルザのことを振り回してしまったが、文句の一つも言わずに側にいてくれたことがただひたすら嬉しい。

 今度、どこか美味しいお店に連れて行ってあげよう。

 俺に感謝されて赤くなったエルザの横顔を見ながら、俺はそんなことを考えたのだった。

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