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追放、そして再会

タイトルがあらすじのてんこ盛り欲張りセット作品がこちら


9話まで毎時一話更新するよ


 日も登らない早朝、俺は寝ていたところを叩き起こされて身支度も整える時間すら与えられずに部屋の外に立っていた。

 俺の目の前に立っているのは【勇者】とその仲間たち。

 勇者ハリベルは俺の顔を見て盛大に舌打ちする。


「俺たちはさ、世界を救うために頑張ってんの。分かる?」


 それは、俺がハリベルと出会ってから何度も繰り返し聞かされてきた言葉だった。

 最初は「カインも頑張ってるからな、俺たちも頑張らないと」というポジティブなニュアンスだったそれは、今では俺を口撃するために行使されている。


「それなのにさ、お前は俺と出会ってから五年間も何してたの?」

「ご、ごめんなさい……」

「【賢者】なんだからさ、もうちょっと自覚を持てって」

「…………」


 勇者ハリベルの仲間である【戦士】バーリアンや【聖女】ルミナス、【魔術師】ルチアの活躍は王宮内でも噂されているほどだ。

 それに比べて、【賢者】の俺は噂にすら登らない。

 いや、名前を知っている人の方が珍しいぐらいだ。


 攻撃魔術の腕は魔術師に劣り、回復魔術の速度は聖女に及ばない。

 戦士のように力に秀でたわけでも、勇者のように万能なスキルがあるわけでもない。


「神の預言だろうがなんだろうが知ったことか。お前みたいな無能が仲間として報酬を受け取っていると思うと不愉快でたまらない。今日、ここで宣言する。カイン、()()()()()()()()()()()()()()()()


 ハリベルの言葉を諫める人は、この場所にいない。

 きっと、誰もが心の底ではずっと俺を邪魔だと思っていたんだろう。

 それでも、俺は期待されていると思いたかった。

 期待に応えるだけの実力を、努力すれば身につけられると思っていた。

 自分にしかできないことがあるはずなのだと、そう願いたかった。


 しかし、時というものは残酷なもので。

 魔術の本を読み解けば読み解くほど、練習を重ねれば重ねるほど、仲間との差を思い知らされるばかり。

 努力では埋められない溝というものが、確かにそこにあった。


 その最たる例が、【スキル】というものだった。

 生き物はみな、スキルというものを持っている。

 修行したり、あるいは血で受け継がれたりするもので、スキルを発動することで一定の効果が期待できるのだ。

 そんな俺が生まれ持って獲得していたスキルは【導き手】。

 どんな効果なのかも分からないスキルだったが、それはただ生きているだけならどうでも良かったんだ。


 問題は俺が世界を救う勇者の仲間に選ばれたこと。

 授かった称号(やくわり)は賢者というもので、そのせいで謎のスキル【導き手】は過大な期待が寄せられた。


 勇者の成長を助けるものか

 最適な答えを提示するものか

 それとも神の言葉を預かるものか。


 教皇から学者までその話題で盛り上がって、勇者からも頼りにしていると言われてから五年。

 みなが期待するような飛び抜けた才能はなく、どこまでも平凡な俺がそこにあるだけだった。

 期待に満ちた眼差しはすっかり冷めたものになって、突きつけられたのは追放。


「お前をあのシケた村から連れ出したのが間違いだった。教会や魔術師ギルドには既に話を通してある。荷物をまとめてさっさと帰れ」


 そう言ってハリベルは何枚かの紙を俺の胸に押し付けると、マントを翻しながら廊下の角を曲がって消えていく。

 言い返す言葉が見つからなくて、ぎゅっと唇を噛み締める俺をかつての仲間たちは冷めた目で見て、そして何も言わずにハリベルを追いかけていった。

 部屋に戻って、紙の内容を確認する。


「……っ!」


 ハリベルが押し付けていった紙には『ライセンス剥奪』と『称号【賢者】の剥奪』が角ばった字で書かれていた。

 その下につらつらと書かれた文章を読もうとして、視界が滲んで読めないことに気づく。

 鼻の奥がツンと痛くなって、ボロボロと涙が勝手に目の蓋から零れ落ちる。

 俺の他に誰もいない部屋でひとしきり涙が枯れるまで泣いた。

 そんな時に限って思い出すのは、幼馴染のことだった。

 目を閉じれば、数年前の事でも昨日のことのように思い出せる。




『なになに、カイン。見せたいものってどこにあるの?』


 そう言ってアイツは緑色の目をきょろきょろさせてたっけ。

 あの時の俺は、村の中でたった一人だけ魔術を使える人間だったから有頂天になっていた。


『見てろよ、エルザ……えいっ!』

『わっ、水だ! カインの手からお水が出た!』


 水魔術の初級、ウォーターボール。

 威力も速度も術式も中途半端な、出来損ないの魔術をアイツは毎日褒めてくれた。

 出来た日も出来なかった日も、飽きもせずに毎日。

 思えば、なんの打算もなく褒めてくれていたのはアイツだけだった。


 数年前に村を出てからそれきりだから、もう五年も会っていない。

 無性にアイツに会いたくなった。

 そう思ったらいてもたってもいられなくなって。

 少ない荷物を纏めて、気づけば俺は王宮を飛び出していた。





 五年ぶりのパイポカ村は、いつもと変わらない長閑な風景が広がっていた。

 山と林に囲まれた、平和な村だ。

 王都から寄り道もせずに真っ直ぐ歩いてきたので、なんとか月が昇る前には村に辿り着けた。

 幼馴染のエルザを見つける。

 どうやら、村の人と話しながら樽を運んでいるようだった。

 懐かしさに駆け寄ろうとして、俺は足を止める。


 遠目から見ても分かるほど幼馴染が成長している姿にショックを受けたのだ。

 俺が知らない間に、エルザはすっかり大人びて村の一員として村に馴染んでいた。

 五年前から変わっていないのは俺だけ。

 ────帰ってくるんじゃなかった……。


 一時の感情に流されて、村に戻ってきたことを心の底から後悔する。

 村を飛び出した俺に、居場所なんてない。

 野宿でもして一晩明かしたら、王都に戻って細々とやっていこうかと考えていると、背後から聞き覚えのある声が聞こえた。


「おかえり」


 振り返ると、少し離れていた位置にいたはずのエルザがいつの間にか近くに立っていた。

 視線の位置は俺のものと近くなっていて、改めて成長の証を突きつけられて狼狽(うろたえ)る。


「エルザ……おれ、は……」


 いつもならぺらぺらと喋れた言葉が、今じゃ喉奥に詰まって出てこない。

 情けない俺の姿を見ても(なお)、エルザは涼しげな表情を変えることはなかった。


「カイン、おかえり」

「ぁ、た、ただいま……」

「ん、おかえり」

「あ、ああ……」


 拍子抜けするほど、あっさりとエルザは俺に背中を向けて歩き出す。

 質問責めも、中傷も、期待も、失望も、エルザからはなかった。

 その背中を見送りながら、俺は苦虫を噛み潰した思いで道の小石を蹴る。

 小さなことでいちいち不安に駆られている自分が、心の底から嫌いだった。

もし面白かったらブクマよろしくお願いします(雄叫び)

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