聖女の行進
主天使が一人、石に変えられた。
もう一人の主天使は、完全に戦意を失って泣きながら命乞いをしている。
鐘が12回鳴った所で、石になってしまうだろう。
可哀そうだけど、エレナさんは許す気は無さそうだ。
パンドラもカルデラも、そちらを注視してしまっている。
「援軍って言っても、ちょっとこれは反則過ぎでしょう。
クララの中のチカガータを解放するだけで、互角に戦える算段をしていたのだけど、エレナの戦力は予想のはるか上を行ってるよ」
カルデラは、笑ってしまっている。
私も相当の苦戦を予想していたから、笑ってしまいそうだ。
「えへへへ、パンドラさん。
アンタ達って、もしかして弱いんじゃね?」
軽口をたたいてしまう。
「チッ、こんな罠にかかってしまうとは、しくじった」
パンドラが、棒読みで言ったと思うと、大きな箱を召喚した。
パンドラの箱だ。
「出でよ、厄災。
この精神世界を、災いで埋め尽くせ!」
パンドラの箱のフタが開く。
箱の中から、魔物たちが這い出て来ようとする気配があふれる。
「まずい!
こんな所で、天界の神器を使って来るなんて」
カルデラが焦った声を出す。
私は、龍人たちの精霊の神器である剣が、稲妻の形をしているのを見逃さなかった。
雷魔法を、剣に込めてみると物凄く帯電した感じがする。
その思いっきり魔力のこもった剣で、パンドラの箱を一刀両断してみた。
ドシャーン、バリバリ
雷が落ちたような音がして、パンドラの箱は真っ二つになった。
魔物たちは這い出てくる暇もなかったようだ。
「き、貴様ーッ、天界の神器を破壊するとは、何という暴挙!」
パンドラは叫ぶけど、そんな大切なモノなら戦いの場で出しちゃダメだよ。
「リボンでも掛けて、押し入れの奥にしまっておけばよかったね」
ニッコリ、笑いかけてやった。
真っ二つになった箱から、焼け焦げた悪魔の幼生や卵が転がり出た。
その中に、極彩色の派手な卵がひとつあった。
「あ、あれは、大魔王テンヤイバーの卵!」
オムニスさんの言葉を聞いたカルデラが、ピューッと飛んで行って確保した。
パンドラは一歩出遅れた。
あきらめたのか、転移魔法を唱えるとその場から姿を消した。
「逃がしちゃったね」
精霊の間に戻って来て、私が言うとカルデラが残念そうに返す。
「チカガータとあの魔法を使うエレナで迎え撃つチャンスなんて、そう無いだろうからね。
でも、大魔王の卵も神器の箱も失って、盛り返すのは相当難しいはずだよ」
パンドラも、大人しくなれば良いけどね。
もうジークガルトでは好きなようにはさせないと、カルデラが息巻いていた。
主天使を凝縮した宝石は、ものすごい魔力を秘めているらしい。
メドインさんの勾玉の力で、指輪にしてもらった。
友情の証に、私とエレナさんで一つずつ持つことにした。
この宝石のもとは、私を天界から追放するために暗躍した二人らしいから、仇を取れたのかな?
「大魔王の卵を手に入れたのは、大収穫です。
これで、世界の終わりを迎えずに済みそうです」
オムニスさんが嬉しそうだ。
卵は、この精霊界で厳重に管理することになった。
カルデラは、安心して実体化を解いた。
もう会うことは無いだろう。何かよっぽどなことでも起きない限り。
ベルエスさんが、また大司祭に仔細報告をしたようだ。
精霊界で起こったことは、他言無用とか言ってなかったっけ?
エレナさんの心の中だから、ノーカウントとか?
精霊界から出た私とエレナさんは、大歓待を受けてしまった。
また、パーティーを開きそうだ。
ただ、エレナさんは大魔法を連発したせいか、消耗していて立ち上がれない。
それを言い訳にして、早々に引き上げさせてもらった。
後日終戦祝賀パレードが行われた。
女神教会主催なので、聖女が主役らしい。
まだ、エレナさんは体力が戻っていなくて、一日中寝たきりだけど、頑張ってみんなの前に出る。
私を一人で出すのは心配だそうだ。無理しなくてもいいのに。
砦の司令官とか、聖女の人気に相当悔しがっているらしいね。
特設の馬車で、街と砦の周りをそれぞれ一周する。
私とエレナさんは、オープントップの座席に手をつないで座って、観客に手を振る。
「聖女様ー!」
「クララさまー、エレナさまー」
すごい歓声と拍手の中、二人で顔を見合わせる。
「こんな日が来るなんて。
クララ様と二人で晴れ舞台に立てるなんて。
もう、明日死んでも思い残すことはありません」
「馬鹿なこと言ってないで、長生きしてよ。
エレナさんのいない世界なんて、私いやだからね」
幸せって何なのかよく分からないけど、この日、この時が幸せだってことだけは間違いない。
本当に心の通い合う人がいるってことは、きっと最高の幸せなんだろうな。
こんな時間が少しでも続いてくれたら、うれしいな。
その日は、ずっと心からの笑顔を続けることが出来た。
というか、気付いたら笑顔だった。
エレナさんも同じ気持ちだったら良いなと思ったけど、多分同じ気持ちだろうな。
エレナさんは、立つのもやっとだけど、私は一緒に踊りたい気分になった。
あとがき
心が結びついたクララとエレナさん。
特にエレナさんは、強力な魔法に目覚めました。
二人はこの後も幾多の困難を乗り越えていくことになります。
興味を持たれた方は、二人のその後が分かる
「ばくやく令嬢しか勝たん」
の第2部も是非ご覧ください。




