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堕天使のクララ  作者: 御堂 騎士
伯爵令嬢になって、貴族の仲間入りするよ!
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帝都の市民権

「あら、クララ、どうしたの?」

 馬に乗った騎士4人と男の子を連れて帰ってくると、お母さんは家の前でまきを割っていた。

 お母さんは、ひ弱なエルフ族だけど森で暮らしているせいか、体力があるんだよね。


 ナタを置いて、額の汗を拭くと、男たちに向き直った。

「ウチの娘に、何か御用でしょうか?」


「クララさんのお母様。

 我々は、怪しいものではありません。

 わたくしは、第2帝国騎士団団長 ファビオ・パレルモと申します。

 本日は皇帝陛下の命を受けて、クララさんをお迎えに上がりました」


(あの砕けた感じの人、偉い人だったんだ)


「あなたが、帝国騎士団の団長だと言う証拠は、ございますでしょうか?」

 お母さんは、毅然きぜんとして返した。


「わたくしの帽子についている紋章もんしょうは、第2帝国騎士団のものです。

 この紋章もんしょうを皇帝陛下の許しなく付けた者は、死罪となります。

 また、この剣にはナードハート帝の印が刻んであります。

 騎士団団長以外のものは、持てない剣でございます」


「分かりました。

 うちの娘を招致しょうちされる理由を、お聞かせ願えますでしょうか?」


「クララさんがお描きになったなった絵画かいがが、陛下のお心を大層たいそう動かしたためにございます」


 お母さんが、私の方をジッと見る。

「お母さん、ごめんなさい。

 私、調子に乗って大変な絵を描いちゃったみたい」


「絵を描いただけで、あんなすごい料理、おかしいと思ったのよね。

 ファビオ様、私も同行してよろしいでしょうか?」


「はい、森のはずれに馬車を用意しております。

 そこまで、歩いていただけるのであれば」




 私は、お母さんと手をつないで、森のはずれまで歩いた。

 そこからは、馬車に揺られて1時間ほど走った。


 帝都は城塞都市じょうさいとしだ。

 城壁に囲まれた町の中心に、大きな塔のあるゴシック調の城が建っている。

 近隣諸国の城を遥かに凌駕りょうがするその威容いようは、皇帝の権威を示していた。


 帝都の門を通るのに少し手続きをして、馬車は大きいお城に入って行った。


 ファビオさんは、

「心配しなくても良いよ。

 おめの言葉をもらえるだけさ」

 と勇気づけてくれたが、気が気じゃなかった。


 馬車の中にいる間、ずっとお母さんの手をギュッと握っていた。


 お城の車寄せで馬車を降りて、城の中に入って行った。

 ファビオさんが先導して、槍を持った門番がズラッと並んでいる横を、通っていく。


 テディとアランさんも、私達の後ろを付いて来る。


 階段を登って、2階に着いた。

 そこからさらに廊下を進んで、謁見えっけんの間に着いた。


 天界大神殿ほどでは無いけど、結構広い。

 まあ、この世界で一番立派な城らしいから、当たり前か。




 私とお母さんは、ひざまずいて沙汰さたを待った。


 玉座に皇帝が座る気配を感じる。


 大臣の

おもてを上げよ」

 の言葉で、皇帝陛下を見上げた。


 皇帝陛下の横で、男の人が私の絵を捧げ持っている。


(おっ、こうして見ると、私の絵結構いい線いってるんじゃない?

 なんて思ってる場合じゃない)


 皇帝陛下と私の絵の間に、ひげもじゃのお爺さんが立った。

「この絵を描いたのは、そのほうか?」

 お爺さんが聞いて来る。


 私は、ちょっとぎこちなく答えた。

「は、はい、その通りです」


「ワシは、この年まで本物の天使を見たことは無い。

 一体、そのほうはこの絵のイメージを、どうやって思い浮かべたのだ?

 そして、そのイメージをここまで力強く描く表現力は、どのように手に入れたのだ?」


(もうこうなったら、ヤケだ)

「イメージは、突然頭の中に湧いてきました。

 恐らく、私の中に芸術の神が降りて来て描かせたのでしょう。

 私の実力では、ありません。

 私自身は、本当に平凡な10才の女の子です」


 お母さんが、私の方をジッと見ている。

(うっ、昨日と言っていることが違うよね。ゴメン)


「ウーム。

 自分で自分のことを『平凡な10才の女の子』と言うとな。

 やはり、凡人では無いのだろうな」


「いえ、めっそうもございません。

 生まれてこの方、森の中しか知らぬ田舎ものですゆえ」


 ひげもじゃの人は、皇帝陛下の方を向いて言う。

「皇帝陛下、やはりこの子は普通ではございません。

 天才としか言いようのない、絵の才能。

 陛下を前にしての、この堂々とした受け答え。

 早熟などという言葉では、説明がつきません」


 皇帝陛下は少し考えた後、お母さんに聞いた。

「クララの母よ。

 そちは、娘に英才教育のようなものを行ったのか?」


「いえ、そのようなことをした覚えはございません」


「では、そちの娘は、まごうことなき天才という事になる。

 そのような才能を森の中で眠らせておくのは、国としての損失だ。

 帝都に移り住む気は無いか?」


(な、何と帝都の市民権がもらえるの?

 これって、やったんじゃない?

 いや、でも、天才として迎えられたら、後々困りそうだな)


 お母さんが、かしこまって答える。

「光栄なことではございますが、私達親子は日陰者として生きる者。

 そのような恐れ多いことは、ご遠慮いたしたく存じます」


(そうだよ、遠慮しておいた方が平穏に暮らせるよ)


「エルフが群れを離れて、単独で森で生活していること。

 事情があることは分かるが、せっかくの娘の才能が無駄になるぞ。

 なに、都会暮らしが合わなければ、元の暮らしに戻ればよいではないか」


 お母さんが、私に聞いてくる。

「クララはどうしたいの?」


(確かに、変な期待は重荷になる。

 でも合わなきゃ戻れるなら、おいしい所だよね。

 ちゃんと、予防線だけ張っておこう)


「私、そんな才能なんか無いと思う。

 でも、それでも許されるのなら、都会に住んでみたい」


「では、決まりだな。

 この天使の絵の代金として、家と市民権を与えよう」


 ここで、テディが前に歩み出てきた。

「では、父上。

 私は今後、クララに絵を習うという事でよろしいでしょうか?」


(な、何ー?

 父上? 皇帝が父上?

 なにこいつ、皇帝の息子だったの?

 ありえねー)


「よし、ではクララ、エドワードの絵の先生もお願いする。

 その給金があれば、生活に困ることはあるまい」


「はっ、つつしんでお受けいたします」

(都会暮らしには、お金が必要だからね)

 私は、切り替えだけは早いんだよ。


次回更新は、7月7日16時の予定です。

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