堕天使令嬢クララ 爆誕
「大天使チカガータよ!
堕落の罪によって、そなたの天界からの追放を言い渡す」
天界大神殿の祈りの間に、統一神様の声がこだました。
突然降ってわいたような冤罪によって、私は天界から追放されてしまった。
確かに天界大神殿の聖堂の一部を崩壊させたのは、私の大雷だったけどさ。
だからと言って、追放なんて酷いよ。
そう、私の名前はチカガータ。
天界に住む大天使だった。
……だった。追放されちゃったから。
言いたいことは山ほどあったけど、あきらめちゃった。
ホントは、私のお陰であんな少ない被害で済んだのに。
アピールしたけど誰も聞いちゃくれねえし。
さらに聖堂の破壊じゃなくて、堕落の方で追放だよ。
この宇宙には、無数の異世界が存在する。
その秩序を保ち、そこに住む魂を出来るだけたくさん幸せに導く。
そのために存在する天界。
最近、地球でよく聞く「異世界転生」
この大部分は、天界の采配によって起こっている。
最近数が多いのは、適当な采配も多いからだね。
統一神様も、そんな沢山の生き物の面倒を見ていられない。
天使たちが、独断で行っているんだね。
「存在X」の正体も、天使かもね。
※存在X
パワハラおやじを、幼女の大隊長に転生させたと言われている存在。
天界に住むには、それぞれの世界で天使として多くの実績をあげて、大天使以上にならなきゃいけない。
私も、もう少しで主天使ドミニオンの称号をもらうと言われていた、すごい天使だったんだけどなあ。
まあ、普通の大天使の魔法じゃ、天界大神殿の壁に傷一つ付けられないはずだからね。
私の真の実力が、分かるってもんさ。
あの大神殿の聖堂の見事な崩れよう。
やっぱり、私すごかったんだよ。
悪だくみする人からしたら、脅威だったのかな?
見事に陥れられちゃったなー。
あーあ、天界追放かー。
仕方ないので、下界に降りてきて森の上をプカプカ浮いていた。
「あー、お腹すいたー」
声に出してみたが、何か食べ物が出てくるわけでは無い。
天使は、生き物の魂を食べる。
こう言うと恐ろしい響きだけど、別に生き物が死ななくても、心が動けば魂のかけらが湧いてくるんだ。
下界の生き物には見えないけど、空中にプカプカと。
怒りで辛く、悲しみで苦くなり、神に対する信心や感謝の心で甘い味になる。
疲れているし、甘いのが食べたいなー。
でも、この森に信仰心を持った人が、都合よくいる訳もない。
とりあえず、木の実でも食べようか。
命はつなげないけど、お腹の足しにはなるし。
左腕に付けている、素魔法が振動した。
お友達からのメッセージだ。
天使の輪が少し前に移動して、顔の前にスクリーンを出す。
『メッセージ』の文字に目線を移して、右目をパチッと閉じる。
メッセージアプリが立ち上がる。
「チカちゃん。
天界からいなくなっても、私達はずっと友達だからね。
あなたのエンジェル プリニーより」
ああ、持つべきものは友だなー。
でも、お腹の足しにはならないけど。
私は、あてもなく飛び続けた。
正に青天の霹靂。
雨がザーザー降って来て、雷が鳴りだした。
これだから、下界は嫌なんだよね。
森の中に降りていった私は、木の陰で濡れない場所を探した。
「あった」
と飛んで行くと先客がいた。
傷ついた魔物だ。
「ワ、ワシはもうダメだ。
この怪我では、もう先が無い。
いっそ殺してくれ」
「仕方ないですね。
では、魂をいただきまーす」
魔物の脳天に、チョップをかまそうとすると、魔物の姿がみるみる変化していく。
6枚の羽を持つ、最高峰の熾天使が現れた。
「そ、そのお姿は、セラフィム様」
「チカガータ、私はあなたの心根を試したのです。
生き物を殺して魂を食べることは、絶対の禁忌。
しかも、魔物の魂を食べるなど言語道断。
覚悟は、よろしいですね?」
「ちょ、ちょっとお待ちを。
魂を救済しようと、って言うか、ヒエーッ」
ゴロゴロ、ドシャーン
私は雷に打たれて、身体が光に包まれていきました。
さすが、焔の天使様。
体が、浄化というか燃え尽きていきます。
意識が薄れてい、き、ま……す……
ああ、私の一生は、何だったんだろう?
私のいた天界は、科学技術も進んでいるし、魔法も普及している。
異世界についても凄く研究が進んでいて、多分色んな異世界の知識を活かしているから、便利で秩序ある世界になっているんだよね。
全宇宙の異世界の頂点に立つような、上位の世界だとか天使長様が言っていたなあ。
素直じゃない私は、「全宇宙だなんて大げさな」なんて思っていたけど。
ある時、下界の女の子たちが、すごく楽しそうにしているのが見えちゃった。
ああいうのに交じって、楽しんでみたいなって考えちゃった私は、魔法を使って、女の子の姿になった。
色々楽しんだけど、まず女の子になったのが拙かったみたい。
そもそも天使は、分裂して増えていくので、性別が無い。
私、きっと前世は女の子だったと思うんだよ。
だって、女の子と仲良く遊びたかったもん。
それで、女の子に変身したんだ。
さらに、色んなお店でお金を使って、美味しいものを食べたり、アクセサリーを買ったり、そのお金を稼ぐために飲食店でアルバイトしたりした。
最高に楽しかったけど、全部天使としては堕落した行為だって。
「ああ、あの頃が一番楽しかったなあ。
私には、天使なんか向いてないんだよ。
次があるなら、絶対に都会で女子高校生になりたい」
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ハッと気づいたら、野原に一人寝そべっていた。
どうやら、木から落ちたらしい。
こ、これは生まれ変わりというやつだ。
異世界転生だな。
前世の記憶あり。
前世の知識を使って、チートの様に勝利者の人生を送るわけだ。
やったぜ、私!
前世を思い出した私は、今の自分の答え合わせをする。
私、私は堕天使チカガータ、じゃなくて、クララ。
あれ、私はクララだよね。
よし、女の子だ。
森のはずれの一軒家に母と二人で住んでいる。
全然都会じゃ無いじゃん。
この世界は、学校なんてほとんどない。
貴族のお坊ちゃまやお嬢様のいく貴族大学か、お金持ちが魔法を学びにいく魔法学園位しかない。
しかも、どちらも15才入学だったように思う。
私、今10才。
そして、森のはずれで木に登って遊んでいた。
貴族なわけが無いし、金持ちのはずもない。
学生になるのも無理。
死ぬ間際の願いで叶ったのは、女子だけかよ。
大天使まで登り詰めて得た、世界の成り立ちの知識。
活かせねー!
堕天使として、俗世間で得た女子高校生の生活知識。
役立たねー!
この世界って、何でも力と魔法で解決する世界だよね。
この世界に、素魔法とかエンタメを実現する科学技術があるとは思えない。
前世の知識では、異世界って別の恒星系の惑星上の世界らしい。
私、次の人生があるなら、地球って星の日本という国の、21世紀の女の子になりたかったんだけどな。
全然かすりも、していないみたい。
敗者の人生に入りましたか?
今日は、あと一回1時間後に更新いたします。
ぜひ読んでください。