表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
傷跡と花の君  作者: 納涼
第ニ章 わたしと私の共同生活
9/36

#9 それほんとは違う意味らしいよ

 買い物を終えて外に出ると、もう日が落ちかけていた。お腹も空いたし早く帰ろう。


「未春、重くない?」

「うん、大丈夫。千秋こそごはんの材料、重いでしょ。辛かったら持つからね」

「未春の方がお姉ちゃん力が高い...」


 未春に袋の取っ手を片方持ってもらったりしつつ、なんとか帰宅した。


「つ、疲れた...」

「お疲れさま、千秋」

 ベッドに倒れ込むわたしの隣に未春もやってくる。顔が近い。どきまぎしているとスマホが着信音を鳴らした。

「依玖かな...やっぱり」

「友達?」

「うん、ちょっと電話してくるね」

 一言断ってベランダに出た。

「もしもし、依玖?」

「あ、やっと出た。昼間LINE送ってたのに反応ないから心配したよ」

「え、ほんと?ごめん、気付かなかった。調子悪いとかじゃないから大丈夫だよ」

「よかった。今朝言ってた用事ってなんだったの?」

「え、えーと...」

 チラッと未春の方を見ると、どうしたの?と小首をかしげている。

 依玖もわたしの大事な友達なので、秘密にするのは罪悪感がある。うーん...

「ちょっと、後でかけ直すね。すぐ済むから」

「?よく分からんけど、りょーかい」

 電話を切る。

「あの...未春、相談が」

「千秋の友達に話すんでしょ?いいよ、べつに」

「え、エスパーだ」

「それぐらい分かるもん。あと、千秋の友達ならわたしも会ってみたい」

「そっか、ありがと。実はその子このアパートに住んでるんだけど、ここに呼んでもいい?」

「そうなの!?晩ごはんの作りがいがあるね!」

 未春シェフはもう依玖にもハンバーグを振る舞うつもりのようで、さっそく手を洗ってエプロンを付けている。


 ベランダに出て、電話をかけ直す。

「もしもし、依玖?」

「あーい、で?」

「詳しい話はうちでするから、19時ぐらいに来て。あと、晩ごはんまだなら食べないでね」

「お、いいね。じゃ19時にそっち行くー」

「待ってるね」


 さて、わたしもハンバーグをぺちぺちしますか。



 1時間ほど経ち、チャイムが鳴った。依玖が来たようだ。

「いらっしゃーい」

「お邪魔しまーす。ん?」

「依玖、はやくー」

「いや、この靴誰の?誰か来てんの?」

「いいからー。ごはん冷めちゃう」

「なんなのよ、もう...え?」

依玖は未春を見て固まった。それはもう見事に脳が動いていない感じだ。

「はじめまして、依玖さん。未春といいます」

「あ、どうも...皆森依玖です」

「じゃあ自己紹介も終わったし、食べよっか。ほら依玖も座って手合わせて」

「「「いただきます」」...なんだこれ?」



「......というわけで、一緒に住むことになりました」

「どういうわけよ!?」

 順序通り全部説明したので、しっかりご理解頂けたようだ...あれ?

「1日会わないうちにまさかそんなことになってるなんて思わないわよ!...あ、ハンバーグおいしい」

「よかったです!」

「わたしもこねたよ、依玖の前のおっきいやつ」

「これはあんたが食べな。そうじゃなくて、なんでそんなことひとりで決めちゃったのよ。相談してくれればよかったのに」

「いや、なんというか...流れで」

「はー、あんたってもう...」

 頭を抱える依玖。実際、あの状況を一番手っ取り早く解決するのがわたしと未春の同居だったので、しょうがないと言えばしょうがないので許してほしい。


「ま、こうなっちゃった以上はあたしもできることなら手伝うから何でも言って。未春ちゃん携帯とかって...小学生だしまだか」

「はい、持ってないです」

「わたしは高校生からだったなあ」

「うーん、でも状況が状況だしいつでも連絡できるようにしてあげたいよね」

「わたし、前使ってたスマホそのまま置いてあるよ。これにテレビのCMでよくやってるカヤクスシム?みたいなやつをインストールすればいいんでしょ?」

「いろいろ違うけど、やりたいことは分かったわ。説明するから紙とペン持ってそこに座りなさい」

「未春たすけて~依玖が鬼教師モードになっちゃった~」

「依玖先生、スープのおかわりいかがですか?」

「ありがとう、いただくわ」

「聞いてよ~(泣)」



「千秋、お風呂あいたよ...うわ」

「み、未春だすけて...」

 未春がお風呂に入ってる間、依玖にたんまりお説教された。ついでに一番おっきいハンバーグも無理やり食べさせられた。げぷ。

「まあ、今日はこのぐらいにしといてあげる。明日も学校だし、週末にでもまた来るから。未春ちゃんのご飯美味しかったわ、ありがとう」

「おそまつさまです」

「あたし下の102にいるから、何かあったら言ってね。じゃ、おやすみ~」

「おやすみなさい」「おやすみ~」

 週末またお説教されるのかな...今のうちに逃げる言い訳を考えておかないと...うぷ。


「依玖さん、良い人だね」

「でしょ?わたしの自慢の親友なんだ~」

 いつもより少し多い洗い物をしながら話す。未春も依玖とすぐ打ち解けられたようでよかった。

「よし、じゃあ明日の準備して寝よっか。わたしは8時起きだけど、未春は?」

「7時半には出ないとダメだから、6時半かな」

「小学生ってそんなに朝早いんだ...」

「千秋のぶんも朝ごはん作ってラップしといたげる」

「なんかわたしが情けないのでわたしも6時半に起きます」

「千秋ひとりで起きられる?ごはん出来たら起こそっか?」

「善処しますが、その時はよろしくお願いします...」

 11歳に起こされる18歳、ああなんて情けない。スマホのアラーム5つぐらいかけとこう。


 さあ寝よう、と思った時に問題は起きた。

「そういえばベッドひとつしかないね...わたし座布団敷いて寝るから、未春はベッドで寝ていいよ」

「え?一緒に寝ればよくない?」

「え?」


 草木も眠る丑三つ時。窓からは月光が差し込み、隣にはすやすや寝息を立てる美少女。女の子同士なのだがなぜか意識してしまってなかなか寝付けない(未春はベッドに入るなり2分ぐらいで寝た)。未春が落ちないようにわたしと壁で未春を挟む形なのだが、未春の方を向くと美少女の顔が目の前にあるし、背中を向けると首筋に寝息が当たってこそばゆい。逃げ場のなくなったわたしはついに天井のシミを数える体験をすることになるのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ