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傷跡と花の君  作者: 納涼
第ニ章 わたしと私の共同生活
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#5 芽生え

 まずは現状把握とこれからどうするかの作戦会議をしようということになり、未春ちゃんは電話で学校を休む旨を伝え、わたしも依玖に代返を頼んだ。


「なにから始めよう...まず未春ちゃん」

「なんでも聞いて、千秋」

「未春ちゃんが通ってるのは矢形小だよね?そのための費用はどうしてるかわかる?授業料とか、給食費とか」

「たしか、お父さんのほうのおじいちゃんとおばあちゃんが出してくれてるの。私6年生だから中学校のことはまた相談しなきゃいけないんだけど、おばあちゃん達はお母さんたちがこうなってることもたぶん知らないからその説明が先かな」

「頭が痛くなるね...それについては後々考えようか」


 とりあえず目下一番問題だったお金の部分が7割ぐらい解決したのは大きい。未春ちゃんのお祖父さんたちに事情を説明しに行くときってわたしも行かなきゃダメかな...もしかしてわたしけっこうやばいところまで足突っ込んでる?


「日が高いうちに未春ちゃんのものを揃えて足りないものは買いに行こうと思うんだけど...未春ちゃんの家、開けてもらえるかな」

「どうだろうね。とりあえず聞いてみよっか」

「わたし、ずっと隣は空き部屋だと思ってたんだけど」

「まあ、特に新聞もとってないし表札も出してなかったもんね。あいつ最近はほとんど家にいなかったし」

「そうなんだ」


 未春ちゃんが暗い顔になってしまったので話題を中断する。今のはうかつだったな、と反省。

 しかしわたしがここに越してから1か月以上経っているが、隣から声が聞こえたことすらない。あまり考えたくはないが、未春ちゃんの泣き声とか悲鳴とか。未春ちゃんの腕にはまだ日の浅い傷もあるので、最近まで暴行を受けていたことは確かなのだが...


「千秋、私ね」

「はい?」

「泣かなかったの。殴られても、蹴られても、物をぶつけられても。泣いたらあいつに負けたみたいで嫌だったから、絶対泣いてやるもんか、って思って我慢したの」

「...強いね、未春ちゃん」

「私があいつに負けちゃったら、お母さんともう二度と会えないんじゃないかって思ったの。結局あいつはいなくなって、私は負けなかった。だから、またいつかお母さんは帰ってきてくれると思う」

「そうだと、いいね」


 本当に強い子だ。幸せになってほしい。


「私、泣いたの昨日の夜が初めてだからね」

「え」

「千秋には私を泣かせた責任、取ってもらうんだから」


 そう言って笑う彼女の笑顔を見た瞬間、何か胸のあたりに違和感を覚えた。

 なんだこれ?苦しいような、気持ちいいような。

 鼓動が早い、彼女から目が離せない。


 これはいった「―秋」なんなの「千秋」「千秋!」


「は、はいっ!」

「あらいい返事。どうしたの?急にぼーっとして。顔も真っ赤だし、調子悪いの?」

「な、なんでもない、大丈夫...」

 未春ちゃんがわたしの額に手を当てる。ひんやりして気持ちいい。

「うーん、熱はなさそうだけど調子悪かったらちゃんと言ってね。もう家族なんだから」

「は、はい...」

「じゃ、私の服が乾いたら大家さんのところに行きましょ。それまで部屋の掃除でもしよっか」

「う...汚い部屋でごめんなさい」

「へ?いやそういうつもりじゃなかったんだけど、私のもの置く場所ぐらいは空けないとね。ほらそっち持って、千秋」


 未春ちゃんと部屋を掃除しつつ、まだ収まらない動悸について考えていた。

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