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傷跡と花の君  作者: 納涼
第三章 わたしと私の深まる関係
26/36

#25 友達と書いてライバルです

「..................」

「..................」

「あのー...おふたり?何か飲みますか?お茶と、コーヒーと、レモンティーがあります」

「わたし、お茶」

「...では、レモンティーをお願いします」

「う、うん。ちょっと待ってね」

(き...気まずい......確かに仲直りしろって言ったのは私だけど...)

 こんなに重い雰囲気の我が家は初めてだ。千秋も朝雛さんもお互い目を合わせないようあらぬ方向を見ている。


 ふたりの前に飲み物を置いて、私もベッドに座る。...これ、私が話進めないとダメなの?

「えーと...まず、朝雛さん?実は私、昨日のおふたりのデートを尾行してました。ごめんなさい」

「え...?そう、なんですか」

「千秋は私の彼女なので、朝雛さんがなにかよからぬことをしようとしたら、すぐに止めるつもりでした。千秋から話は聞きましたが、朝雛さんも千秋のこと好きなんですよね?」

「え、えーと...あの...」

「正直に答えていいですよ。じゃないとずっとこのままです」

「......まだ、好きかも」

「ですよね。じゃあ千秋、朝雛さんのこと、好き?」

「真冬ちゃんは...あの、嫌いではない...です」

「恋愛対象としては?」

「それは、未春のほうが好き」

「はい、聞きましたか朝雛さん。私の()()()好きらしいので、朝雛さんも完全に蚊帳の外ではないわけです。私としては腹立たしいですが」

「え...?ど、どういうこと...?」

「単刀直入に言うと、朝雛さんはまだ私から千秋を奪うチャンスがあるってことですよ」

「......」

「ちょ、ちょっと未春!今のは言葉の綾だって」

「千秋うるさい。私はぜーーんぜん怒ってないから心配しないで?」

「ぜ、絶対怒ってるじゃん...笑顔怖い...」

 本当に怒ってないので笑顔で答えたら逆効果だったらしい。浮気者にはお灸をすえないと。


「あの、未春ちゃんは...それでいいの?」

「ん?どういう意味?」

「もし私が本当に先輩を取っちゃっても、いいの?」

「いいですよ。その時はまた取り返しに行くので」

 まあ、そもそもあげるつもりもないけど。

「...あはは」

「むぅ、笑うとこですか?」

「いや、未春ちゃんって小学生なのにずいぶん肝が据わってるというか...面白い子だなって」

「...まあ、誉め言葉として受け取っておきます。それで、朝雛さんにふたつお願いがあります」

「はい?」

「ひとつめ、千秋と仲直りしてください。良くも悪くも同じアパートに住んでるんですから、これから顔を合わすたびに気まずいのは私もヤです。ほら、千秋ここ座って」

 千秋を朝雛さんの前に座らせる。

「せ、先輩...」

「あはは...あのね、真冬ちゃん。わたし、未春が好きなの」

「そう、ですよね」

「でもね、真冬ちゃんのことも、とっても可愛いって思う。昨日のデートの勝負服もすごい美少女だったし、素敵なお店も教えてくれたし」

「...」

「真冬ちゃんがわたしを好きでいてくれることはほんとに嬉しい。だから、わたしはその気持ちに応えられないかもしれないけど、逃げたりしないって約束する」

 朝雛さんの目尻がうるうるしている。あ、これは泣く(千秋比)。

「だから、これからもわたしと仲良くしてほしいな...って泣かないで真冬ちゃん...」

 おろおろしつつ千秋がちらとこちらを見る。まあ、今日は許してあげよう。

 私がうんと頷くと、千秋はえんえん泣きじゃくる朝雛さんを胸に抱いた。


 お手洗いから帰ってくると、朝雛さんが鼻をちーんとかんでいた。目が少し赤いが、落ち着いたようだ。

「お騒がせしました...」

「いえいえ。それじゃ、私からのふたつめのお願いです」

 朝雛さんの前に、手を差し出す。


「私とも、お友達になってください」


 朝雛さんは、ぱちくりと私の顔と差し出された手を交互に見ている。そんなに意外なこと言ったかな...

「だ...だめですか?」

「い、いえ!急でびっくりしたので」

 おっかなびっくり、両手で私の手を取った。

「えへへ、これで4人目です。あの、私も真冬ちゃんって呼んでもいいですか?」

「は、はい...」

「じゃあ真冬ちゃん、浮気がちな悪い人はほっといて一緒におやつ作りませんか?今日はフルーツ盛り盛りホットケーキです」

「え?え、あの」

「やっぱりまだ怒ってるじゃん...わたしも手伝う~」

「はいはい、千秋はいつものタネ作ってね。ヨーグルトも入れて」

 よく分からないままキッチンに連れてこられた真冬ちゃんも、頭に?を浮かべつつりんごの皮をむいている。なかなか上手だ。やるな。

 わちゃわちゃと作り進めるうち、次第に真冬ちゃんの顔にも笑顔が見え始めた。少し安心する。


「ちょっと、千秋いちごひとつ多いよ」

「あ、バレた」

「真冬ちゃん、コーヒーは苦いのと甘いのどっちがいい?」

「えと、じゃあ苦いので」

 切り分けたホットケーキを前にみんなでいただきますをした。

「...あれ、クリームいつもと違う?」

「千秋も舌が肥えてきたね。商店街のケーキ屋さんに教えてもらったんだけど、美味しい?」

「うんうん、おいしいよ。ね、真冬ちゃん」

「はい、とっても!」

 真冬ちゃんにも喜んでもらえたようでよかった。今度はスポンジのレシピも聞き出してこよう...



 夕方ごろに、真冬ちゃんは帰っていった。

「また遊びに来てもいいですか?」

「うん、もちろん」

「今度は一食フルコースです」

「あはは、楽しみ。未春ちゃん、私も負けないからね」

「千秋はろりこんなので、ちっちゃくなるとこから始めるといいですよ」

「何言ってるの!?」


 真冬ちゃんを見送って、ベッドにダイブする。今日はつかれた...

「未春、もう眠い?」

「うん...ごはんより眠気がすごい...」

「そっか。じゃあおやすみ」

 千秋が布団をかけてくれると、一気に眠気が襲ってくる。


「ほんとに、ありがとね」


 意識が途切れる前、そんな言葉を聞いた気がした。


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