#19 揺蕩う愛の逢瀬
目が覚めると、見慣れた天井があった。時計を見るとまだ朝の4時を過ぎたところだけど...何か違和感がある。
昨日は...愛華たちと買い物に行って、カフェで話して、それから...どうしたんだっけ?
まだ寝ぼけてるからかな、とひとまず布団から出て顔を洗いに洗面所へ。鏡に映る私は髪も少しぼさぼさで、どうやら昨晩お風呂にも入っていないらしい。
顔を洗ってリビングに戻り、ベッドですーすーと寝息を立てる千秋の顔を見た瞬間、昨晩の記憶が蘇ってきた。
そう、愛華たちと別れた後、路地に入って、千秋が私にキスを...んん?
いつもの千秋はそんなことしないだろうし、さっき見た夢が記憶とごちゃまぜになってるのかな。
...ま、いっか。千秋が起きたら聞けばいいや。
お腹までずり落ちた千秋の布団をかけ直してから、お風呂に向かった。
久しぶりの朝風呂はとても気持ちよかった。頭もすっきりしたし、髪もきっちりいつも通り。
そろそろ朝ごはん作らなきゃ、とリビングに戻ると、千秋がぼーっと座っていた。
「千秋、おはよ」
「......おはようございます」
うつろな目をしたまま千秋は私に向かい、
「申し訳ありませんでした......」
「え、ええ......?」
額が床につくほどの綺麗な土下座をした。
「......なるほど。それで千秋は土下座してるわけね」
「本当にすいませんでした...なんでもします......」
千秋いわく私が夢だと思っていたのは本当にあったことで、千秋が私を路地に連れ込み無理やりキスを繰り返したあげく、私は倒れてしまったらしい。そして千秋が私をおぶって帰って布団に寝かせて、私はそのまま朝までぐっすりと。
「まあ、千秋が積極的になってくれるのは私も嬉しい。ちょっとその、よかったし」
「.........」
「でも、意識がなくなるまでちゅーするのは流石にダメ」
「全くもってその通りです......」
うなだれる千秋。まあ正直私は全然怒ってないけど、なんでもするって言ってるしここはひとつ聞いてもらおう。
「まあそのことはもう許します。代わりにひとつお願い」
「なんなりと...」
「今、千秋から私にちゅーして。えーと、じゃあ10回」
「え!?それは......うん、わかった...」
「よろしい。じゃあ来て」
千秋の前にぺたんと座って、じっと目を見る。
一瞬びくっとしつつも観念したようで、千秋も私を見る。
私の肩に両手が添えられ、ゆっくりと顔が近づく。
すっと目を閉じると、くちびるにふにっ...と何かが触れる。数秒ののち、それは離れていき、次は右の頬に触れる。今度はちゅっ、と感触だけを残すキス。次はおでこに。そして首筋に。触れた場所に残るじんわりとした感じが、私という存在を蝕んでいくように。千秋の所有物になっていく感覚が、たまらなく心地いい。
最後にまたくちびるがちゅーっ...と吸い上げられて、ついに離れた。閉じていた目を開けると、上気した千秋がとろんとした目をしていた。その表情は...ずるい。
我慢できなくなり、千秋の首に手を回して押し倒すように唇を奪った。千秋に与えられた唾液を、私のそれと一緒に返した。吸い上げ、押し付けて、食んで、貪った。
乱れる呼吸を整えながら千秋を抱え起こして、もう一度だけキスをして。
「千秋、大好き。愛してる。ねえ、千秋も言って?」
「...私も...私も愛してるよ、未春」
「えへへっ。じゃあ大好きな千秋のために、朝ごはん作ったげる」
「うん、嬉しい。私も手伝うよ」
一目見た時、恋をして。
途方に暮れる私を拾ってくれて、居場所をくれて。
身体の傷も、心の傷も包み込むような癒しをくれたあなたが好き。
私の全てを受け入れてくれて、生を共にしてくれるあなたのことが好き。
少し天然で、おっちょこちょいで、どこか抜けてるあなたが大好き。
恋を唄うふたりから、愛を囁くふたりへと。