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傷跡と花の君  作者: 納涼
第三章 わたしと私の深まる関係
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#18 親愛と恋慕

 話し合いの結果、電車で1時間弱ほどのところにある海水浴場に来週の半ば、千秋の大学が終わる次の日に行くことになった。そして週末、私、千秋、愛華、小夜の4人でいつものショッピングモールに来ている。


「未春、これとかフリフリで可愛いよ~。これもおなかのところ開いてて可愛いし...ちょっとエッチだけど」

「はいはい、試着してみるね」

 おおよそ想像通りの展開になっている。愛華と小夜も慣れたもので、千秋に目もくれずふたりで水着を選んでいる。千秋何しに来たんだっけ?


 更衣室のカーテンを開けると、スマホを構えた千秋が待っていた。だいぶ不審者だな...

「フリフリのやつ、いいかも」

「可愛いよぉ~~写真撮っていい?」

「可愛く撮ってね」

 まあ、されるがままの私も悪いかもしれない。

「お客様、こちらもお似合いかと」

「ナイスです店員さん。買います」

「千秋、落ち着いて。お金、大事」

「未春のために使うお金はノーカン!」

 これはダメだ。助けを呼ぼうと愛華と小夜を見ると、ふたりともお互いの水着を選び終わったようだ。

「ふたりはどんなのにしたの?」

「これですわ」

 愛華はワンピースタイプの赤い水着。いかにも愛華らしい。対して小夜は白いビキニ。...ふと小夜と愛華の胸のあたりを見比べてしまう。

「なにか失礼なことを考えていません?」

「いや、愛華って胸ちっちゃいなって」

「オブラートに包む気もありませんの!?」

 愛華の胸は確かにぺったんこだが、それより小夜の胸がすごい。普段は気にしなかったが、12歳女子の平均をかなり上回っている気がする。

「そ、そんなに見ると恥ずかしいよ~」

「あ、ごめん」

 ちなみに、私は小夜みたいに大きくないけど、愛華ほどぺったんこでもない。発展途上なのでよし。


 しばらく千秋による私の水着選びに付き合った後、3着買おうとした千秋をなんとか制止してフリル付きのを1着買ってもらった。これで3人の水着は買えたが、今回はこれで終わりではない。

「じゃ、次は千秋の番ね」

「へ?」



「うぅ~...わたしビキニとか着たことないし恥ずかしいよ...」

「ほら千秋、胸隠さないで。ちゃんと立たないと似合ってるかわかんないでしょ」

「でもでも、おなかとか出てない...?」

「肌着着てるからわかんない。いいから、はい立って」

 わたしが選んだのはオレンジ色の水玉ビキニ。う~ん、我ながらよく似合っている。

「千秋さん、似合ってるよ~」

「ほ、ほんと?」

 愛華は千秋の胸を恨めしそうに見ている。歳が違うでしょ歳が。

「ほんとにかわいいよ、千秋」

「そ、そっか...じゃあこれにする」

 わたしも千秋に着せ替え人形よろしく色々着せたかったところではあるけど、お店の迷惑も考えてやめておいた。すでに千秋がだいぶ迷惑かけてるので。



 千秋の水着も買い終え、みんなでカフェに入ってティータイム。ショートケーキやパンケーキを前にして、テンションが上がらない女の子はいないのだ。

「千秋さんのチーズケーキもおいしそ~。ちょっと交換しませんか~?」

「うん、いいよ。はい」

 千秋がチーズケーキを切り分けて、小夜の皿に乗せる。

「ありがと~。じゃあこれ、あ~ん」

「え」

 小夜が切り分けたショートケーキを乗せたフォークをテーブル越しに千秋の口に近づける。千秋は少し戸惑いつつも、ぱくっと食べた。

「......おいしい」

「よね~。チーズケーキもおいしい」

 むぅ。千秋ったら...

「千秋、私のパンケーキも交換しよ」

「う、うん」

 クリームの乗った部分を切り分けて、フォークに乗せて千秋の口に近づける。

「はい、あーん」

「あ、あー、んぅ」

 クリームが多すぎて、少し口の端に付いてしまっている。んー...

「千秋、クリームついてる。とったげる」

 両手で千秋の顔を固定し、そのまま口を近づけて...


 ぺろっ、と口の端のクリームを舐め取った。

「ふふ。とれたよ」


 真っ赤な顔で驚く千秋と、見てはいけないものを見たような愛華。

「そ、外ではこういうのダメって...!」

「はーい、ごめんなさい」

 てへっと笑ってみせると、千秋は呆れたようにはぁとため息をついた。

「違うの愛華ちゃん、これはね」

「やっぱり...本当ですの?」

「え」

「千秋さんと未春さんは...本当に恋人同士ですの?」

 目の前でキスまでしたのに、まだ疑っていたらしい。本当だよ、と言いかけて千秋の顔を見ると、千秋もちらとこちらを見た。そして何かを観念したように、

「......本当、です」

 俯いたまま耳まで真っ赤にしてそう言った。かーわい。

「愛華、千秋いじめちゃめー、だよ」

「い、いえ、ご、ごめんなさいですわ!」

「こちらこそ、なんかごめんね...」

 小夜はにこにこと私たちのやりとりを見ている。マイペースだなあ。


「ねえ愛華、女の子同士で恋するのはおかしいと思う?」

「......おかしい、とは言いませんが」

「普通じゃない?」

「...そうですわね」

「まあ、そうだね」


 私たちは、「普通」ではない。

 この世のほとんどの男の人は女の人が好きで、女の人は男の人が好き。それが「普通」。


「でもさ、普通じゃないことって、そんなにいけないことかな?」

「それは......」

「たしかに、普通の人にできることができなかったりするけど、そんなことはもうわかってるの。好きなんだからどうしようもないの」

 千秋が、私を見ている。

「普通じゃないって理由だけで、避けられたりばかにされたりするのは、悲しいな。悲しいし、つらい」

 千秋は私を救ってくれたひと。たいせつなひと。

 愛華だって、大事な友達。だから理解はできなくても、知ってほしい。


「愛華は、どうかな」

「......そんなの、決まってますわ」

 少し息をついて、まっすぐ私を見る。


「何があっても、未春さんはわたくしの友達ですわ。もちろん、千秋さんも」

「......そっか。嬉しい」

「このわたくしの友達なんですから、少し変なぐらいがちょうどいいんですのよ」

「えへへ。愛華も変な人だしね」

「聞き捨てなりませんわよ!?」

 ほっとしてつい軽口が出てしまった。

「大好きだよ、愛華」

「はいはい、わたくしも大好きですわよ」

「ふたりで仲良くしてずるい~!わたしも大好き~!」

「小夜も大好きー!」

「わ。えへへ~」

 愛華も小夜も、大事な親友だ。



「じゃ、また来週ね」

「楽しみにしてますわ!」

「またね~」

 2人と別れて、千秋との帰り道。カフェを出てからというもの、口数の少ない千秋。やっぱり今日はちょっとやりすぎたかな...と反省していると、

「ねえ、未春」

「!うん、なに?」

「......手、繋いでもいい?」

「も、もちろん!」

 願ってもない。水着の入った袋を右手に持ち替えて、左手で千秋の右手をぎゅっとつかむ。

「千秋からそういうこと言うの珍しいね」

「うん...そうだね」

 なんとなく、いつも通りの千秋ではないような気がする。いつもの千秋はもっとおどおどしてて...

「愛華ちゃん、納得してくれてよかったね」

「ん、うん。大事な親友だからね」

「あの時、わたしも思ったことがあってね」

「うん...?」

 なんだろ。見当がつかない。

「わたし、もう我慢しないことにした」

「え?」

「わたしが思ってたより、未春は本当にわたしを好きみたいだし。未春が本気なら、わたしも本気で応えなきゃなって。だから、もう我慢しない」

「え、え、」

 ぐいっと手を引かれ、路地に入る。こんなに強引な千秋は初めてで、焦る。

「ち、千秋、ちょっと落ち着いて」

「ダメ。もう無理。キスするね」

「ま、まって、んっ...」

 言う前に千秋の唇が私の唇を塞いだ。壁を背にして、手首を掴んで壁に押し付けるような形での強引なキス。だがその強引さと裏腹に触れる唇はとても柔らかい。私の唇を優しく食むように溶かしていった。


 どれくらい経っただろうか。唇が離れた時、私の意識は朦朧としていた。お互いに息も絶え絶えで、顔を見つめ合うだけ。

 私と千秋の唇を伝っていた唾液が切れて、私の口の端を濡らすと、千秋がそれを舐め取った。

「.........おかえし」

 薄れゆく意識の中で、最後に聞こえた言葉がそれだった。





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