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傷跡と花の君  作者: 納涼
第三章 わたしと私の深まる関係
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#17 夏休み到来

 終業式が終わり、今日から夏休み。

 クラスの大半は先生の話が終わるやいなや教室を飛び出していったが、私はいつものように愛華と小夜と教室に残っていた。


「やっぱり夏といえば海ですわ!山は虫が多くて、歩くのも大変ですし」

「え~、海もくらげとかいて危ないよ~。山にしようよ~」


 教室に飛び込んできた愛華が「遊びに行きましょう!」と言うのでどこに行くか話し合っていたのだが、海に行きたい愛華と山に行きたい小夜がお互いのプレゼンを始めてしまったので私は依玖さんに借りた推理マンガの続きを読んでいる。ちょうど、知り合いの別荘に遊びにやってきた主人公たちが海と山を満喫している。そろそろ誰か死んじゃいそう。


「こうなった小夜は頑固ですし、このままではらちがあきませんわ」

「それ愛華が言うんだ...」

「ね〜」

「う、うるさいですわ。じゃあ、未春さんはどちらがいいと思います?」

「私?う〜ん...」


 正直どっちでもいい。こういうのはどっちみち行けばそれなりに楽しいものなのだ。

 メリットとデメリットで考えてみると、山は虫とかいそうだけど川とか滝に入れるなら楽しそう。海は日焼けが大変かも...あ。


「海行くなら、水着買わないと」

「あら、そうですわね。みんなで選びに行きましょう」

「まだ海とは決まってないよ〜」


 小夜がぶーぶーと抗議している。

 海かあ...いつから行ってないんだろ。昔お母さんと一回だけ行ったことがあるけど、もうその時の記憶は曖昧になってしまった。行きたくないと言えば嘘になる。ひとつ気になるのは...


「ねえ、千秋もついてきてもいい?」

「もちろんですわ」

「じゃあ、私は海に一票」


 即答した。千秋の水着姿、見たいし。


「え〜、じゃあ海に決まり〜?」

「あの...ずっと思ってたんだけど、なんでどっちかしか行かないってことになってるの?両方行けばよくない?」

「.........それもそうですわね」

「たしかに」


 ふたりとも、本気で考えていなかったらしい。今日も暑いしね。私も深く考えるのはめんどくさい。


「じゃあ、両方行くってことで...あとのことはまず千秋に相談してからでいい?」

「わかりましたわ。水着を選びに行く時も、千秋さんがいれば心強いですけど」

「千秋なら喜んで来ると思う。うーんと...ふたりは明日ひま?」

「午後なら大丈夫ですわ」

「わたしはいつでもひまだよ〜」

「そっか。じゃあ明日の午後、うちで作戦会議しよ。

 お菓子作って待ってるね」

「了解ですわ!」

「おっけ〜」



 予定を取りつけて帰宅すると、まだお昼を過ぎたあたりだった。千秋は大学でいないので、久しぶりにひとりのお昼ごはんだ。

 いただき物の素麺があったので、錦糸卵とねぎを刻んで簡単に済ませた。


(おいしいけど...やっぱりひとりで食べるのは寂しいかも)

 そうめんをちゅるちゅるとすすりながら、すぐ千秋のことを考えてしまう自分に苦笑いした。



 宿題の計算ドリルを進めつつ千秋の帰りを待っていると、玄関の鍵を開ける音がした。手を止め、玄関へぱたぱたと走る。

「ただいま〜...あ、未春おかえrんむっ」

 肩を捕まえて、おかえりのちゅーを敢行。ちょっと汗の塩っぽい味がする。

「おかえり、千秋っ」

「も、もう...せめて玄関のドア閉めてからにしてよ」

「ちゅーすること自体はいいの?」

「だ...ダメでは、ない」

 いつも通り顔を赤くしてしどろもどろになる千秋。いつまで経っても慣れないのがまたかわいい。もっといじめたくなっちゃう。

「千秋、明日ひま?」

「え?まあ土曜日だし、何もないけど」

「じゃあ、まず晩ごはんの買い物一緒に行こ。行きながら話すね」



「へ〜、愛華ちゃん達と?もちろんいいけど、わたしついてっていいの?」

「私が千秋に来てほしいの。逆に、千秋はもし私が行った先で何か事件にあってもいいの?」

「それはやだ」

 ふふふと笑い、千秋の押すカートにトマト缶を入れる。

「でね、明日の午後愛華と小夜がうちに来るけど、大丈夫?」

「うん、いいよ。部屋は片付けなきゃだけど...」

「私も手伝うよ。毎日千秋に襲いかかって布団とかぐちゃぐちゃにしてるの私だひ...ひゃべえあい」

「外ではそういうこと言わないの」

 千秋にぐにーとほっぺをひっぱられる。猛アタックの甲斐あって(?)少しずつ千秋から私に触れてくれることが多くなって、私はうれしい。にこにこしてたら、もっとぐにーーーとひっぱられた。

「ひ、ひあき、ほめんあはい、はんへいひへはふ」

「は。ごめん...あんまり柔らかいから」

 解放されたほっぺをさすりながらふと千秋の後ろを見ると、買い物客の女の人が微笑ましそうにこっちを見ていた。仲の良い姉妹だな、とか思われてるのかな。実は恋人同士だけどね、と頭の中でつぶやいて甘酸っぱい秘密を味わった。

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