#15 未春の悩み
第三章スタートです。今回は未春視点
千秋と恋人になって、数週間が経った。
気温も高くなり、教室の窓の外はもうすっかり夏模様。今日もセミが元気に鳴いている。
千秋のおかげで特に不自由ない生活を送れているものの、私にはひとつ不満があった。
毎日のように千秋にちゅーしたりベッドに潜り込んだりしているのだが、未だに千秋のほうから手を出されたことがない。
奥手でいじらしい千秋もそれはそれでかわいいけど、せっかく恋人になったんだからもうちょっといちゃいちゃしたい。
何かいい方法ないかな...と考えていると、
「未春さん!遊びにきましたわよ!」
「こんにちは〜、未春ちゃん」
教室のドアをすぱーん!と勢いよく開けて入ってきたのは隣のクラスの愛華と小夜。昼休みの教室中の注目を集めているが気にせずずかずかと私の席に近づいてくる愛華の代わりに、小夜がうるさくしてごめんね〜と手を合わせている。
どうやらふたりともわたしと家が近いらしく、登下校がよく一緒になる。一緒になるだけで私は特に気にしていなかったのだが、ある日愛華に「あ、あなたが未春さんですわね!?私とお友達になってください!」と語尾がぶれぶれになりつつもお願いされて今に至る。小夜はお嬢様っぽい愛華のお付きの人みたいな感じ。めっちゃマイペースだけど。
「あら、今日はいつもより元気がないですわね。どうかしました?」
「愛華はいつも元気だね...うーん、ちょっと悩みごと」
当然のように私の前の男子の席に座る愛華。小夜も隣の席の椅子を引っ張ってきた。
「もしかして〜、恋の悩みとか〜?なんでも相談乗るよ〜」
小夜、するどい。ぽわぽわした雰囲気ながら、その眼鏡の奥でなんでもお見通し...という感じには見えないが、たまにこうして心をのぞかれているような発言をすることがある。
「まあ、そんなとこかな。私はその人のこと大好きでずっとアタックしてるのに、その人は全然私に構ってくれないの」
「み、未春さん意外と肉食系ですのね......」
「意外だね〜。でも、未春ちゃんがアタックしてなびかない男の子なんているんだ〜」
「男の子じゃないよ」
「「え?」」
愛華と小夜がハモった。
「年上の、女の人」
「「え!?」」
声が一段階大きくなった。
「あ、ああ、好きってそういうことですのね。勘違いしてましたわ」
「あ、そっか。びっくりしたよ〜」
「いや、ほんとに好きだよ?」
「「............」」
愛華と小夜が固まってしまった。ふたりの反応がおもしろいので、追い打ちをかけてみる。
「ちなみに、今一緒に住んでる」
「...............な、」
「な?」
「なんなんですのーーーーーーーーーー!?」
職員室まで届く大声を出した愛華は、先生に連れて行かれた。なむ。
授業が終わり、帰る支度をする。晩ごはん何にしようかな...今日も暑いし冷やし中華とか作ってみようかな。
材料を考えつつ歩いていると、校門前で愛華と小夜が待っていた。
「未春ちゃん、一緒に帰ろ〜」
「うん。愛華、大丈夫?」
「.........けっこう怒られましたわ」
「なんで私睨むの...よーしよし、愛華は悪くないよー」
「あ、頭を撫でないで下さい!」
またお嬢様が抜けている。愛華の口調は家柄がほんとにお嬢様なのかキャラ作りなのかは知らないが、とりあえず聞かないことにしている。
「昼休みの話がまだ終わってませんわ」
「うん?どこまで話したっけ...千秋と住んでるとこまで?」
「そうですわ。その人、千秋さんと言いますのね。安全な人ですの?」
「安全って...まあ、人畜無害って感じはするかも。そんなに気になるなら今日うち来る?」
「「え」」
愛華と小夜は後ろを向いて何やら相談し始めたので、校門から離れたことを確認してスマホを取り出す。今日はもう千秋は家にいるはずなので、電話をかける。
「もしもし、未春?」
「あ、千秋?今学校の帰りなんだけど、私の友達ふたり家に呼んでもいい?」
「え!?未春の友達!?もちろんいいよ!!いいけど......ゆっくり帰ってきてね!」
「あはは、わかった。晩ごはんの買い物して帰るから、部屋の片付け頑張ってね」
電話を切り、ふたりを見ると視線が私の手元のスマホに釘付けになっていた。
「スマホだ〜。いいな〜未春ちゃん」
「あ、先生には内緒ね。バレたら没収されちゃう」
まあ、ふたりはそんなことしないだろうけど。
「で、ふたりとも来る?」
「お邪魔しますわ」「行きた〜い」
「わかった。私、今から晩ごはんの材料も買って帰るんだけどふたりも食べてく?冷やし中華にするつもりだけど」
「それは...お母さまに連絡を入れないといけませんわね」
「未春ちゃんが作るんだ〜。すご〜い」
小夜がマイペースすぎる。暴走機関車みたいな愛華とマイペースな小夜で割とバランスが取れているのかもしれない。
「うちの電話使えばいいよ。じゃ、行こっか」
こうして、私は初めて友達を家に招くことになった。
愛華 小夜 と読みます