#14.5 はじめて
無事これからもふたりで暮らすことが決まり、帰宅した日曜日の夜。
未春が入れてくれたコーヒーを飲みながら、波乱の一日を思い返していた。
ついさっき未春に告白めいたことをして、その...キ、キスまでしてしまったので今未春にどう接すればいいのかいまいちわからない。今のわたしたちは...恋人?家族?そもそも未春にそのつもりがあったのか...考えるほどよくわからない。
「ねえ千秋」
「ひゃいっ!?」
「だ、大丈夫?」
つい声が裏返ってしまった。平常心平常心。
「大丈夫、ちょっとびっくりしただけ」
「そっか。あのさ、気になることあるんだけど」
「なに?」
「千秋ってさ、いつから私のこと好きだったの?」
飲んでいたコーヒーを噴き出した。未春はにやにやとわたしを見ている。小学生でこの小悪魔っぷり、数年後にはわたしは未春の尻に敷かれているだろう。
「うーん...最初からかわいい子だなーって思ってはいたけど...気づいたら好きになってた、みたいな」
途中から恥ずかしくなってきた。じわじわ顔が熱くなる。
「ふ~ん...わたしはね、最初から好きだったよ、千秋のこと」
「最初...出会った時からってこと?」
「うん。一目ぼれってやつ」
まじか。いざ面と向かって言われるとわたしでいいの?という気分になるが、まあ嫌なら一緒に住まないか。
「未春は、その...恋愛対象としてわたしを好きなんだよね?」
「うん。千秋もそうでしょ?」
「う、うん...」
完全に未春のペースだ。勝てる気がしない。
「その...女の子同士だけど、いいの?」
「好きになっちゃったらしょうがないでしょ」
なんて男らしい。女の子だけど。
考えてみると、男の子が苦手な私が女の子を好きになるのは当然かもしれない...たぶん。
「そっか...じゃあわたしたちって恋人?」
「でも、千秋は私の家族になってくれるんでしょ?じゃあもう夫婦かもね」
「ふ、夫婦って...」
「ちなみに私がお嫁さんね」
「あ、ずるい」
「えへへ」
夫婦かあ...頭の中にウエディングドレスを着た未春が浮かぶ。タキシードを着たわたしが手を引いて誓いのキス...なんて。はずい。わたしいつからこんなお花畑思考になったんだろ。
「千秋もドレス着てもいいよ」
「あ、それもいいかも...ん?わたし今なんか言った?」
未春は鼻歌を歌いながら、コーヒーのおかわりを取りに行った。依玖といい未春といい、わたしの思考を読むのはやめてほしい。
「じゃあ、もう寝よっか。電気消すよ」
「うん...」
ベッドに入って毛布を被ると、一気に睡魔が襲ってきた。今日はいろいろあったしなー...
うとうとしていると、何かが毛布の中でもぞもぞと動いている。
「...未春ー?」
「あ、ばれた。今日は隣で寝ていい?」
「いいよー...ふぁぁ」
眠いからなんでもいい。
「じゃあ、ちゅーしていい?」
「うん...」
「やった」
よく聞こえないが、寝言のように返事をする。
首筋に何かが触れる感触があった。鎖骨、頬、おでことそれは次々に触れていく。
そして、それがわたしのくちびるを塞いだ時、やっと理解した。
「...ぷは。未春...ダメだよ。明日も早いんだから...」
仰向けに寝るわたしの上に、未春が覆いかぶさっていた。
「やだ。今日は私が満足するまでする」
「......もう」
ちゅっ、ちゅと軽いキスのあと、ちゅーっとくちびるを吸い上げるような長いキス。わたしという要素を隅々から未春に染め上げられてしまうような、キスに次ぐキス。時には首筋をぺろりと舐められ、耳を甘噛みされて、思わず身じろぎしてしまう。
未春からの愛情が心地よくて、夢心地のわたしは安らかに眠りに落ちた。
翌朝。体の重みを感じて目が覚めた。目を擦ってよく見ると、未春がわたしの上ですーすーと寝息を立てている。なんで...?まあいいか。
「未春、未春起きて。朝だよ」
「ん...」
未春が体を起こす。なんでわたしのシャツ着てるんだ...
「おはよ、みは、え?」
がしっと肩を掴まれ、そのまま引き寄せられる先は起き抜けでもつやつやな未春のくちびる。
ちゅーっ...と息が苦しくなるほどの長いキス。くちびる同士が離れると、目の前には恍惚とした表情の未春。
「おはようのキス。やってみたかった」
そう言って未春はそのままふら~っとベッドに倒れ、また寝息を立て始めた。
「え!?今の流れから寝るの!?ダメだよ未春、起きて!」
耳まで真っ赤になりながら、こうして未春に振り回される生活が始まるのが幸せで仕方なかった。