#12 わたしの気持ち
次はこの前未春の服を買いに来た店があるショッピングモールにやってきた。かなりの種類の店が入っているので、大抵のものはここで揃えられてしまうのがとても便利で助かる。
「とりあえず布団は大荷物になっちゃうから最後に買うとして…依玖はなんか買い物しないの?」
「あ、いいの?じゃあ本屋行きたい」
というわけで書店にやってきた。依玖は漫画コーナーに一直線なので、買い物が終わったら合流することにした。
「未春、なんか欲しい本あったら買ったげるよ」
「うーん…」
欲しい本を探す未春についていく。料理の本。手芸の本。ガーデニングの本。
「なんというか、未春って小学生らしくないよね…」
「え…」
「あ、いや、全然いいんだけどね」
未春はショックを受けている。思わず口に出てしまったが、別に小学生らしくないからどうということでもない。知見が広いのはとてもいいことだ。
「料理も、手芸も、お母さんが教えてくれたから」
「なるほど…それでかあ」
「うん…千秋、これにする」
未春が手に取った本は「余った食材を無駄なく!誰でもできる簡単時短レシピ集」だった。
「これ、千秋も一緒に見ながら料理しよ」
「わかった。教えてね、未春シェフ」
未春はにひひと笑う。結局わたしのために本を選んでくれるあたり、この子は優しすぎる。
目当ての本を買い終わった依玖と合流し、店内をぶらつく。
「依玖その漫画好きだよね。どういう漫画なの?」
「うーん...中学生の男の子が主人公なんだけど、テニスで世界一目指すぞーって感じ」
「あ、私それ知ってます。相手選手の骨が見えたりするんですよね」
「骨!?」
「そうそう。なんていうか、能力バトルテニス...みたいな」
「なにそれおもしろそう...わたしも今度読ませて」
「うちに全巻あるから好きなだけ読みな。あ、クレープ屋さんあるよ」
「ほんとだ。未春、クレープ食べる?」
「うん!」
クレープを食べつつ、晩ごはん会議をする。
「依玖さん、何かリクエストありますか?」
「え、あたしもいいの?じゃあ...唐揚げが食べたいかな」
「はい、メインはからあげに決定です。千秋は何食べたい?」
「え...メインじゃないもの...焼きそばとか?」
「千秋の中では焼きそばはサイドメニューなんだ...」
「千秋、昔から麺類大好きだからね」
なんとなく食べたいものを言ったが、さすがに焼きそばは無理があったか。
「まあ、量を少なめにすればいいかな...あとはサラダと汁ものを...味の濃い物が多いからお吸い物にしよっか」
「すごいね、未春ちゃん。千秋がお母さんみたいって言ってた意味が分かった」
「いえいえ、これぐらい朝飯前です!」
「もう夕飯前だけどね」
「もー、千秋うるさい!」
ぷりぷり怒る未春がかわいいのでついからかってしまった。日に日に距離が縮まっている感じがして、もっと仲良くなりたいなと思う。
晩ごはんの材料も買い終え、最後に寝具店に来た。荷物が多いので依玖は店の外で待ってもらっている。わたしの部屋はそこまで大きくないのでもう一つベッドを置くのは厳しい。というわけでほどよいサイズの敷布団と毛布を店員さんに見繕ってもらい、購入した。
「すごーい、ふかふかだよ未春。気持ちよく寝れそう」
「うん、そうだね...」
「未春?もしかしてこれあんまり気に入らなかった?」
「いや、違うの、違うけど...私はべつにふたりでベッドで寝るのも嫌いじゃないかも...なんて」
わたしの顔が一瞬で真っ赤になった。火が出そうなぐらい熱い。未春も自分で言っておいてもじもじと頬を紅潮させている。
「千秋が嫌ならしょうがないけど...」
「そ、そんなことなひっ」
勢いあまって噛んでしまった。深呼吸して、素数を数えて、よし。
「未春がそうしたいときは、言って。わたしは大歓迎だから」
「...わかった」
納得いただけたようだ。こういうのは心臓に悪いのでたまにでいい。
「おかえりー。...なんかふたりとも顔赤くない?」
「な、なんでもないよ」「なんでもないです」
「?まあいいけど。じゃあ帰ろっか」
店の外に出ると、夕暮れ時の風が火照る顔を冷ましてくれた。
夕食を済ませた後、依玖は帰っていった。
「今日はありがとね。助かった」
「楽しかったです!」
「あーい、ご飯ありがとね。あとはふたりでごゆっくり~なんつって」
「なっ」
「じゃね」
言い返す前に扉を閉められた。依玖もうすうす気づいてるかも...いやもうダメかな...
ここ数日、悩んでいたことを決行することにした。
「未春、明日の事なんだけど」
「うん」
「未春のおばあちゃんに会いにいこっか」
「...うん。わかった」
いつかは話さなければいけないことなら、早めがいい。わたしもいつまで未春と一緒に過ごせるか分からないのだから、帰る場所は多い方がいい。
わたしと住んでるって聞いたらどんなこと言われるか分からないし、最悪一緒に暮らせなくなるかもしれない。でも未春にとって本当にいいのはそっちかもしれない。
未春という女の子の人生は、まだ18のわたしが背負うには大きすぎる。
新品の布団で眠る未春を見ながら、わたしはどうしたいのだろうと考えていた。