表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
傷跡と花の君  作者: 納涼
第ニ章 わたしと私の共同生活
11/36

#11 スマホ大作戦

 あまり時間がなかったので、洗濯物だけ急いでベランダに干しておいてから家を出た。いつものように依玖を迎えに行き、一緒に大学へ向かう。

 わたしは工学部なので、比較的女の子より男の子のほうが生徒数が多い。道すがらわたしのことを知っているらしい男の子(わたしは覚えていないので、たぶん授業で一回ペアになったとかそれぐらいの関係)から挨拶されたりするが、わたしは苦笑いで返すのが精いっぱいだ。対照的に依玖は一言二言会話を交わしたりしている。

「今日もモテるね、千秋。羨ましいぞ」

「え?でも男の子って胸の大きい人が好きだって見たよ」

「ばっ...女同士じゃなかったらセクハラだからねそれ」

 依玖はいけいけな雰囲気とは裏腹に意外にピュアな子なのだ。高校時代に男の子からもらったラブレターをどうしたらいいか分からず半泣きでわたしに相談してきたのがとてもかわいかった。ちなみにその子はフラれた。



「で、未春のぶんの布団とかを買わなきゃいけないから土曜日は依玖も手伝ってほしいなって」

「うん、おっけー。元から行くつもりだったしね」

 午前の講義が終わり、多くの生徒で賑わう食堂の隅で昼食を取りつつ作戦会議をする。わたしはうどん、依玖は白身フライ定食。

 入学してからほぼ毎回うどんを頼んでいるので、食堂のおばさんに顔を覚えられてしまった。わたしが注文カウンターに近づくともううどんが出てくる。わたしがうどん以外を頼んだらそのうどんはどうなるんだろう...と思うと罪悪感でうどんしか頼めなくなる。なんという策士。おいしいからいいけど。

「あんたさ、毎食未春ちゃんに作らせてるの?」

「人聞き悪い言い方しないでよ~、わたしもちゃんと手伝ってるもん」

「メインが未春ちゃんなのは否定しないのね。でもいいなー、ご飯作ってくれる人がいるの。昨日のも美味しかったし」

「またいつでも来てよ。未春も喜ぶと思う」

「ほんと?じゃあ、たまにお邪魔しようかな」

 未春と住むようになってから、やっぱり人と食べるごはんはおいしいと実感する。小さなお母さんにすっかり胃袋を掴まれてしまった。



 それから、特に問題もなく平日を過ごし、土曜日の朝。なんとなく目が覚めて携帯を見るとまだ7時だ。隣を見ると未春がすやすやと寝息を立てて寝ている。白い肌、ぷにぷにのほっぺた、やわらかそうなくちびる。さ、触ってみたい...。

 そーっと、人差し指でほっぺをつついてみると、ぷにっと指が沈み、ぷしゅーと口から吐息が漏れる。やわらかい弾力に押し返されて...なんだこれ...ハマりそう...。

 未春はむにゃむにゃと口を動かしつつもまだ目覚める様子はない。今ならくちびるに触れてもバレないのではないか、とわたしの中の悪魔がささやく。

 ごくりと息を飲み、人差し指を近づける。どくどくと心臓の音が聞こえる。

 指先が触れる刹那、未春が「んぅ」という声とともに寝返りをした。驚いたわたしは声にならない声を上げつつベッドから転げ落ちて腰を打ち、「ぎゃあ」と悲鳴を上げ、その声で未春が目を覚ました。

「ん...ちあき?だいじょうぶ?」

 起き抜けのふにゃふにゃの声もかわいいなあ、と思いつつ腰の痛みで動けないわたしであった。



 ぱぱっと朝ごはんを済ませて、ふたりで依玖を迎えに行く。

「お待たせー。おはよ、ふたりとも」

「おはよー」「おはようございます!」

 依玖と会うからか、今日の未春はずいぶん気合が入っている。残念ながらわたしがなるはずだった理想のお姉ちゃんポジションは依玖に奪われてしまった。


 まず駅前の携帯ショップにやってきた。店員のお姉さんにいきさつを話すと、どうぞーと笑顔で店の奥へ通してくれた。

 店員さんの話を聞きながら頭に?を浮かべるわたし。店員さんと依玖の懸命な解説の末、どうにか未春用のスマホを確保することができた。

 サービスでスマホのクリーニングもしてくれたので、見た目は新品同然だ。未春に渡すと、満面の笑みで「ありがとう!」と言われ、つい顔がほころぶ。店員さんもよかったですねとにこにこしていた。


 店を出てからも、未春は興味津々でスマホを操作している。歩きスマホはダメだよーと言いつつも、わたしも初めてスマホを持った時はこんな感じだったので気持ちはよくわかる。

 お昼どきだったので依玖行きつけのパスタのお店に入り、料理を待ちながら未春のスマホにLINEをインストールし、わたしと依玖の連絡先も登録した。

「これでいつでも連絡できるね」

「うん!千秋に晩ごはんのおつかいいっぱいお願いするね」

「あはは、どっちが子供なんだかって感じ」


 談笑していると、料理が運ばれてきた。わたしはカルボナーラ、未春はミートスパゲッティ、依玖は和風きのこパスタ。

「あ、依玖のやつもおいしそう。ちょっとちょーだい」

「私も食べたいです!」

「はいはい、じゃあみんなで交換会だね」

 店員さんに取り皿をもらい、みんなで少しずつそれぞれのパスタを食べた。さすが依玖の行きつけ、どれもすっごくおいしい。わたしもまた来よう。

「未春、口にミートソースついてるよ。拭いたげる」

「ん。千秋もホワイトソースついてるよー、ほら」

 ここまでくるともうわたしにお姉ちゃんムーブは無理なのかもしれない。

 少し離れた席の女の子二人組がこっちを見て「あそこの姉妹?かわいい~」「妹さん、お人形さんみたいだよね」とか話しているのでふふん、うちの妹かわいいでしょ。と思っていると、「なんであんたが得意げなのよ」と依玖につっこまれた。心を読まないでほしい。


 みんなお腹いっぱいになり、大満足でお店を後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ