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12. 閣下と殿下

アンケートにご参加、ありがとうございます。

前回の結果、アリスティアは近くから聞こえてくる声に気をとられることに……。

https://twitter.com/usagi_ya/status/1222131464067616768


さて、声の主が誰だったかは、以下をお読みください。

 アリスティアは途方にくれたが、そのとき、すぐ近くの部屋から、聞き覚えのある声がするのに気づいた。


「……から、……裏切り者……」

「いえ、……」


 ――裏切り?


 背筋がぞくっとした。それは、倒れていた乙女の口から出た言葉だ。

 部屋の扉はうっすらと開いているが、中が見えるほどではない。さらに近寄ると、もっとはっきりと声が聞こえた。


「口で否定しても、事実は変わらんだろう」

「ですから、その事実というのが、いいがかりです」


 そこへ、聞き覚えのない声が割って入った。


「まぁまぁ、ことを荒立てる必要もありますまい」

「荒立てたくはないが、こうまで隠し立てされるとな」

「はは、神殿にも神殿の事情があるのでしょう。殿下やわたしにも、事情がございますように」


 ――殿下って……あっ!?


 思いだした。昨日、ちらりと見かけたというか……アリスティアの顔を無遠慮に覗き込んできた男だ。そうだ、こんな声だった。

 ごく短時間ではあったが、印象的過ぎる出会いだったから、よく覚えている。昨日はいろいろな事件が山盛りあったせいで、なかなか思い返す暇もなかったけれど……。


「しかし、立ち聞きはよくないくらいのことは、神殿でも教えておいていただきませんとな」


 はっと気がついたときには扉が開いて、アリスティアは中に引きずり込まれていた。


 室内にいたのは、男が三人。

 向かって左側には、灰色の〈飾り帯(スーラ)〉をかけた神官。あの、崩れた建物でも見かけたひとだ。

 右側には、黒髪の男。やはり、昨日の男だった。黒を基調にした装いには、華やかに赤や金、青が差し色として使われており、男のはっきりとした顔だちや、体格のよさを引き立てている。

 そして、アリスティアの腕を掴んでいるのは――。


「閣下、ご無体はおやめください」

「人聞きの悪い申されようは、ご遠慮いただきましょうか。わたしは、曲者をとらえたまで」


 閣下と呼ばれた男は痩身だったが、アリスティアが腕を引こうとしても、びくともしなかった。首元でゆるく結んだ灰色の髪は、ところどころに白髪が見える。目元にも、はっきりと笑い皺があった。若いとはいえないが、老人にはほど遠い。

 笑みをたたえたままアリスティアを見る、その眼差しは冷徹だ。


 ――なんだか……不思議な色の眼。


 青、翠……いや、紫?

 まっすぐに見返していると、神官がまた声をあげた。


「閣下、その者は前を通りかかっただけです。関係ありません」

「なぜそうわかる? 見たところ、巫女ではないようだが」

「そいつ、昨日も見たな。たしか〈試練の乙女〉だ」


 殿下の方が話に入って来た。そればかりか距離を詰め、アリスティアの顔を覗き込む――まるっきり、昨日と同じ。いや、さらに近い。


「セレスティオが特別扱いしていた娘だろう?」


 身を引きたかったが、腕を掴まれていては、これ以上は無理だ。


「お……おはようございます」


 口をついて出たのは、朝の挨拶。

 神官は真顔のまま。閣下は口元を少しばかり歪め、そして殿下は吹き出した。


「おはよう? ああ、おはよう」

「あの、わたしは通りがかっただけで……」

「そうかそうか。わかるぞ。通りすがりに、つい覗いてしまったんだな?」

「なにも見えませんでした」


 再度、三人が同じ反応をした。

 吹き出したついでに咳き込んでしまった殿下が、そうか、とうなずいた。


「なにも見えなかったんだな!」

「あの……これから〈試練の乙女〉を集めての講義があるそうなので、その……」

「見えなかったということは、見ようとしたわけだ。で、実際どうだ? ここにいる三人を見て、なにを思う?」

「えっ……」


 本音をいえば、怖い、と思った。

 だが、怖いひとに面と向かって怖いです……とは、なかなかいえないものだ。

 次に印象的だったのは服装だ。田舎育ちのアリスティアは、かれらが着ているような豪奢な服は、まず見たことがない。しかし、服が凄いですといえば中身を馬鹿にしているみたいだし、と困ってひねりだした表現は――。


「皆さんすごくかっこいいなって、思いました」


 アリスティアの回答は、殿下を大いに面白がらせたらしい。ついに、声をあげて笑だした。

 閣下の方は、笑ったりはしなかった。彼は眉根を寄せ、神官に尋ねた。


「これはどういう素性の娘だ?」

「本人が申しておりますように、〈試練の乙女〉です。今回、もっとも遠くから参加した者で」

「遠く……ゼネティオ司教区か?」

「はい」

「なるほどな。そうであれば、常識がないことも納得はいく。さりとて、看過もできぬ。〈試練の乙女〉よ、わたしはこの国の宰相だ。そして、そちらは我が国の王子、ザナーリオ殿下にあらせられる。そなたが軽々しく口をきいてよいおかたではない」


 後半は、アリスティアに向けて発せられた言葉だ。

 殿下とか閣下とか、日常ではまず使わないような言葉が飛び交っていたから、多少は警戒していたが、王子と宰相だったとは。

 ついでにいうと、王子や宰相も日常では縁がない。殿下、閣下とあわせて、おとぎ話の中にしか登場しないものだと思っていた。


「……ご無礼があったなら、お許しください。あの……どうか、手をはなしてください」

「ください、ください、と要求ばかりか? 今、教えてやったはずだ」

「閣下、お願いします」

「もう一回、教えてやらねばわからぬようだな。軽々しく口をきいてよいと思うな。こちらから発言を求めるまで、そなたは黙っておれ」


 アリスティアは、そんな、といいかけたが、声にする前にやめておく程度の知恵はまわった。

 これは、喋れば喋るほどまずいやつだと察したのだ。


 ――逆らったら駄目だ。


 服従以外を、彼は許さないだろう。理屈もなにもない。そういう相手なのだ。

 彼を圧倒する強さでもあれば、話は違うだろうが――アリスティアの味方をしてくれそうなのは灰色の〈飾り帯〉の神官だけだ。彼にそんな力はあるだろうか?


「閣下、その娘を自由にしてやってください」

「自由に盗み聞きさせろと?」

「通りすがりに少々覗いたばかりのこと、その者に他意はありません。〈試練の乙女〉を集めて教育をほどこすのは、事実です。この先の講堂で、これからはじまる予定になっております。聖女候補に必要な教育ですので、どうか」

「いや、教育なら王宮でしてやろう」


 ふたりの会話に、王子が割って入った。

 宰相が口をつぐむのを見て、アリスティアは直感した。


 ――王子様が……。


 宰相を圧倒するだけの力がある存在。

 政治権力のことなど考えたこともないが、宰相のこの反応を見れば、王子はかろんじてよい相手ではないこともわかる。


「この娘に限らず、〈試練の乙女〉を何名か、王宮に寄越すがよい。それで勘弁してやろう」

「無理です。聖女候補は、神殿で――」

「国が保護すべきだ。神殿の護りも万全ではないことは、昨日、わかったではないか」

「逆です。神殿ですら万全でないなら、王宮など、もってのほか」

「ほんとうに、そうか? そもそも、神殿はあの失態をどう償うつもりなのだ。もし、あの娘こそが聖女の魂の持ち主なのだとしたら、今代の聖女は失われたことになろう。ならば――」


 王子は、酷薄な笑みを浮かべた。


「――この世はもう、(しま)いだぞ」


 部屋の中に、ひやりとした空気が満ちた。

 神官は言葉を返せないでいる。王子はアリスティアの肩に手をかけた。


「こいつは俺が連れて帰る。ディナーモ、あとはうまくやってくれ」

「御意に存じます、殿下」

「待ちなさい。その娘は――」

「我々には聖女が必要だ。なんとしても」


 宰相の声を背に、王子はアリスティアの肩を抱くようにして外に出た。


「あ、あの……困ります」

「大丈夫だ、なにも困ることはない」

「いえ、でも」


 こちらから声をかけてはならないことは、さすがに理解した……つもりだ。

 それでも、このまま連れ去られるわけにはいかない。

 アリスティアの必死の顔を見下ろして、王子はふっと笑った。


「ゼネティオから来たといったな。ダレンシオ老師にお会いしたことはないか?」

「ダレンシオ……わたしがいた孤児院をみてくださっていた神官様が、たしか、ダレンシオ様とおっしゃいましたが」

「おお、そうか。老師はご健勝か?」

「たぶん、はい」

「なんだその『たぶん』というのは」

「旅立ってから何日もたっていますし、近頃、体調を崩しがちでいらしたので……。あの……ええと……」

「なんだ?」

「お知り合いなのですか?」

「昔、老師は大神殿にいらしたのだ。我が師と呼べるのは、あのかただけだ」


 孤児院の神官が、そんなに偉いひとだったとは、知らなかった。


 ――いや、そんなことに感心している場合じゃ……。


 なにをする暇もなく、どんどん歩かされている。大神殿の構造に詳しくはないが、これはもう一直線で出口に達する勢いではないか? 行く手には、正門のようなものが見えている。


「あの、困ります」

「大丈夫だ」


 王子はそうだろうが、アリスティアは違う。全然、大丈夫ではない。

 悪いことに、大柄な王子の陰に隠れてしまって、すれ違う人たちにはアリスティアは見えていないようだ。

 みるみる門が近づいて来る中、アリスティアは――


1)誰か助けて! と声をあげた

2)王子を突き飛ばして逃げようとした

3)反抗することができなかった

アンケートは、いつものように twitter でおこないます。ご参加のほど、よろしくお願いします。

https://twitter.com/usagi_ya


今回は、きっちり選択肢までしか書いておりませんので、どれをお選びいただいてもわたしの心理的なアレがアレすることはありません。

宰相閣下の外見をあんまり書けなかったのが残念です……アリスティアが近過ぎて、見えないんですよね。全身が。服とか、「たぶん豪華でオシャレ」と思っているだけで、ちゃんと見えてるわけではないです。

王子様は全身見えてるので、オシャレで間違いありません。

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