2・桜の花の満開の
4月───
桜の花の満開の元、私は高校の入学式を迎えた。
ピンク色の花のアーチの下をこれからの三年間に期待しながら、足取りも軽く校門へと進んだ。
ふいに背後からざわめく声が聞こえてきた。振り返って辺りを見渡せば、きらびやかとしか言い様のない一団が後方から歩いて来るのが見えた。
背が高くて足の長い顔面偏差値の高い男子生徒を先頭にして、風を切るようにして颯爽と歩く五人の集団が校門に向かって歩いて来るのが視界に入った。
───関わってはいけない。
そう判断した私は、道の端に避けるようにして彼らに道を譲っていた。
足の長さが明らかに一般人とは違う彼らは、私や他の前を歩く生徒達をすんなりと追い越して校門を通過して行った。
先頭を歩く生徒は、御堂琢磨。今年2年生だが、成績優秀で武道館全般の心得もあるこの学校の生徒会長でもある。昨年の生徒会選挙で1年生ながらも、生徒会長に当選したのだ。
少し癖のある金髪に青い目のキラキラしているイケメン。
───自信家は嫌いではないけれど、でしゃばり過ぎなのは好きじゃないなー。
私の好みだけで言えば、今期は副会長か会計あたりを務めて、次期で生徒会長に当選くらいがちょうど良かった気がするのだけど。
とりあえず今は、私の好みは関係ない。
正統派の王子様といった感じの御堂会長の右側を歩くのは、三年生で副会長の月岡海翔。会長とは幼なじみ。
生徒会には興味がなく、役員の選挙の時にも立候補していななった。しかしそれにも関わらず、会長から是非にと請われて副会長におさまった経緯がある。
(この辺りは説明すると長くなるので、また別の機会に)
華やかな御堂会長とは、対象的に真面目が服を着て歩いている感じ。文系の硬派というのかな?クセのない濃い青い髪に琥珀色の瞳のインテリ系イケメン。
会長の左側は、弥高光希。文化系部副統括。やはり会長の幼なじみ。生徒会役員ではないが、それに準じる部門に属しているために行動を共にしている事が多いみたい。ふわふわのクセ毛で、クリーム色の髪に緑色の瞳の持ち主。右目の下に泣き黒子があり、高校生らしからぬ色気のあるイケメン。
前を歩く三人は先輩であり、後ろの二人は私と同じ新入生。
右側が弥高尚希。光希とは年子の弟である。
明らかに成長途中と分かるくらい手足が長くて大きい。先月まで中学生だった幼い顔立ちとのアンバランスな感じが、母性本能をくすぐるらしい。これは、一般的な意見ね。
髪は緑色で瞳は黄緑色。可愛い弟キャラなイケメン。
左は葛城梨陽人。日本人の父とフィンランド人の母を持つハーフである彼は、紫色の髪にグレーの瞳を持っていた。
若き天才ピアニストでもあり、何度も個展を開くほどの天才画家でもある彼は芸術の神に愛されているイケメンだった。
そして簡単に言えば、この五人は幼少期からのご友人。仲良し幼なじみなのだ。
それも彼らの一族は、この国での上流階級に属しているため───お金持ちのお坊ちゃまグループでもある。
何故、今年の一新入生である私がこんなに彼らに付いて詳しいのかと言えば、理由は簡単である。
私、広見桃華は私立月見里学園高等学校の情報処理科にトップ入学する身分なのです。
この学校は「普通科」「体育科」「情報処理科」の三科から成るが、実はどの科も普通の高校とは大きく違っている。
「普通科」は、良家の子女が「普通の一般常識を学ぶ科」であり、お金持ちのお坊ちゃんお嬢ちゃんが世間からかけ離れまくっている常識を少しでも一般人に近づけるために開設された。
故に、在籍する生徒は少しくらいのお金持ちから、奨学金を利用している苦学生までと様々だった。
各業界から子女が集まっているため、奨学生達は将来の就職先を見つける目的もある。
奨学生達は、非常に優秀な生徒が多いのでこの高校に在籍していると言うだけで就職先が決まったり、援助を受けて大学に進学できたりするのだ。
クラス数も各学年で3クラスずつある。A、B、Cクラスがそれにあたる。
「体育科」は、その良家の子女達をガードするボディーガード養成所。と言った方が早いかもしれない。
大きな声では言えないが、この学校の地下には実弾の撃てる射撃場があるという噂があるくらいだ。
火のないところに煙は立たない、とだけ言っておこうか。
Dクラスは通称「defense」クラスとも呼ばれていた。
そして私の通う予定の「情報処理科」も普通ではない。
学年でのクラス数は体育科と同じ1クラスだが、所属人数が明らかに少ないのだ。
1クラスは3~5名となっている。
実は情報処理科だけは、一般受験がない。すべて推薦入学の上、学費は全額免除、生活費すら毎月10万円程支給されている。
もっともこれらに関しては、入学時に交わした契約書に他言無用の項目があるため、他の生徒は知らないはずである。
契約書にいくつかある項目の中には、大学進学や留学も可能とあるが、その行き先には多少の制限がかかる。つまり私達の頭脳を他所に流出させたくないので、学校側の息の掛かった場所に留めておきたいのだ。
私達情報処理科の平均知能指数は130を越えている。
因みに私は、入学式の後に行われる情報処理科の特別試験を受ける予定でいる。この試験は、情報処理科の生徒が希望すれば、いつでも受けることができる進級試験である。
情報処理科にのみ、飛び級制度が設けられているのだ。
理由は簡単である。
どの企業も───それが公的な立場の機関であっても───人材確保が難しい昨今において、私達のような人材は希少なのである。
即戦力としての人材である。
飛び級制度を利用すれば、学生の身分のまま大手企業に就職、もしくは内定が約束されるのだ。
一応、私も大手企業からの打診を頂いている。
今回の試験で飛び級が決まれば、私はその企業の秘書課への就職が約束される。
というか、企業からの要望で学生との兼業になる。
私の仕事は、先ほどのキラキラ五人組の観察とその報告。彼らに近づく、女性の監視とその報告である。
現代社会における隠密活動とでも言えばいいのか、私は女子高生の中に紛れて彼らの様子を観察して報告することになっているのだ。
飛び級制度は、短期間で必要単位の習得が可能になる。卒業資格さえ貰っておけば、授業への出席率が低くても何も言われない。
隠密活動に専念できるというものだ。
目指せ大手企業就職!
15歳1ヶ月になったばかりの、私の最大目標である。
さて、ここで少し自己紹介をしようと思う。
広見桃華、先月の3日に15歳になったばかりの新高校1年生である。
現在の身長156cm、体重は秘密。髪は癖のないストレートの赤毛のセミロングのボブ。
出掛ける時はコンタクトだけど、学校では黒縁のメガネを愛用している。(一応、隠密活動用に)
コンピューターのシステム関係にめちゃめちゃ強いので、情報処理科に進み、大手企業就職を目指しているのだ。
私がコンピューターにどれくらい詳しいかというと、はっきり言ってチートレベルなのだ。いや、チートそのものなのだ。
実は前世の記憶と能力を持つ私───この世界においてラノベやネット小説で馴染み深い、異世界転生者なのだ。
私が元生きていた世界にもゲームは存在はしていた。が、今の世界程は乙女ゲーは盛り上がってはいかなかった。
というより、過去に流行っていたゲームのジャンルで今は廃れている、という認識が強い。
私がこの乙女ゲーを知ったのは、元々はコンピューターウィルスの追跡調査をしていた時に偶然見つけたものである。
だからタイトルも覚えていないし、ゲームクリアも「御堂琢磨ルート」を一度だけである。
実はここでバッドエンドだったので、二度とやる気になれなかった。ってことなのだけど。
ヒロイン役の少女が頭悪すぎて、感情移入ができなかったのも続ける気をなくさせていた。
えっと、確か名前はランダムチョイスで選んで……
あ───「可愛寧々」だったはず。
うん。すごい名前よね。
私が面白いと感じたのは、ゲーム中のお助けキャラになっていた「ヒロミちゃん」である。
役割は、情報屋かな?アイテムの販売もしていたから、便利屋なのかな?
かなりユニークなキャラだったみたい。
バッドエンドにムカついて、攻略サイトを調べまくっているうちに判明したのだけれど、こヒロミちゃんとの関わり方によってエンドが変わってくるらしかった。
攻略のヒントを得たけど、二度とやらなかったけどね。
まさかその後、自分が急死するなんて思っていなかったし、その「ヒロミちゃん」───「広見桃華(フルネームなんて知らなかった!)」に転生するなんて想像もしてなかったわ~。