08.初めてのお客
「ん?客かい?悪いな、話し込んじまって」
ヘクソンが入口に立っていた剣士に声をかけると
やっと気づいてくれた、という感じでその剣士は俺たちに近づいてきた。
見たところ、歳は俺と同じくらいだろうか。
(もちろんおっさんということである)
だが、ハゲてもないし、やつれてもいない。
精悍な顔をしており、装備はしっかりと鉄製であろうプレートメイルを
胴体から足にかけて着ている。
背中にはロングソードを装備しており、手には剣らしきものを持っている。
「いや、話の腰を折ってしまっては悪いと、思って……な。
これの、鑑定を、お願いしたいのだけれども。どうかな」
この剣士、見るからにベテラン感が凄いのに、
話し方が変。というか、また!おっさん!なんでおっさんばっかり
出会うんだ!?
おっさん剣士が手に持っていた剣らしきものを中央の机に置いた。
見たところ、灰色だ。つまりこれは、不確定アイテム。
「おお、剣の不確定アイテムなんざ珍しいな。剣だと5銀貨かかるが、
良いか?」
「ああ、問題ない。10銀貨払ったら、確実にできるか?」
「お客さん、悪いんだが鑑定魔法に確実ってのは無い……いや待てよ。
おい、エイジ。この仕事、お前がやれ」
「ええ!?初仕事でそんな責任のある仕事をいきなり任せる!?」
「修行の成果を見せてみろ。お前なら失敗しないはずだ」
……確かに、1か月も失敗無しでやってきたんだ。
鉱石系じゃないけれど、結果は同じはず……!
「剣士さん、失敗しても俺を恨まないでくれよ?」
初めての鑑定の仕事ということもあり緊張しながら
俺は机の前に立つ。そして剣の不確定アイテムに手をかざし、呪文を唱えた。
『インスペクション!!』
輝きが落ち着き、机の上を見ると、剣は消滅していなかった。
見た感じ、ロングソードだ。多分、剣士のおっさんが装備している
剣よりもランクは上に感じられる。
そして、不思議なことに鑑定が終了したとき頭の中にこの剣の
名前が浮かび上がった。
「お、おお。成功させやがった。お客さん、その剣を抜いてみてくれ」
ヘクソンに言われた通り、おっさん剣士が鞘から抜き放つと、
刀身は青白い金属で作られていた。
武器屋でみた鉄製のロングソードとは全く異なる色だ。
「こりゃ、おそらく、Aランク相当の剣だ。とんでもない物持ってきやがったな。
エイジ、早くこの剣の名前は?」
「多分、ミスリルソードだ……なぜだか分からないが頭の中にその名前が浮かんだ」
「やはりな。お客さん、これは希少金属のミスリル製だとさ」
こうして俺は初めて客のアイテムを完了する、という仕事を終えた。
「感謝する。ここに代金の10銀貨を、置いておく。では」
机に銀貨10枚を置くと、おっさん剣士は去ろうとする。
しかし!金儲けの匂いを感じ取った俺は一旦引き留めようとする。
「ちょっと待ってくれ!この不確定アイテムを一体どこで手に入れたんだ?」
「この街から北に行ったところに、古い地下神殿がある。
そこで、手に入れたのだが」
ふふーん。街の外にはこんなレアアイテムが眠っているのか。
これ……自分で手に入れてきて、鑑定して売れば、かなり儲けられる
んじゃないか!?
「地下神殿ねぇ。ありがとう!」
「あそこは、なかなか手ごわい魔物が多い。もし行くならば
万全の準備をしていったほうが、良い」
「ご忠告ありがとう」
「また、鑑定したいものがあれば、頼む。では」
そう言うと、剣士は去っていった。
「おいエイジ。おまえ、一人でそこに行くつもりか?」
「もちろん。あんなお宝が眠ってるんだ。行かない理由が無い」
「止めはせんが、そもそもこの街の外に出たことがあるのか?」
むう……。確かにヘクソンの言う通りだ。
俺はこの世界に来てからこの街を出たことが無い。毎日毎日、
街の中と地下下水道を行ったり来たりするだけで、
外の世界を知らなかったのだ。
「いや……無いけど。ま、危なそうだったら引き返せば良いだけだ!
というわけで、明日からしばらく外に出るから修行はお休みでお願いします」
俺は新しい不確定アイテムを手に入れることに頭がいっぱいになり、
そそくさと店をあとにした。
「おいエイジ!……ったく。正式に弟子として認めてやるって言ったのに
いきなり修行をほったらかすとは。あいつらしいというか……。
初めて仕事で貰った銀貨まで置きっぱなしか。
……バカは身をもって危険を分からせんとダメか」
日頃から無理をしているとは思っていたが、ますますヘクソンは
エイジが心配に思えるのであった。
俺はヘクソンの店を出てから、道具屋へと向かっていた。
時間はまだ昼前。今からでも道具を揃えて街の外を冒険したくてたまらなかった。
「あ、エイジさん、いらっしゃいませ。本日はどのようなごようでしょうか?」
店員さんにも名前を憶えてもらっていた。毎日どこかしら怪我をしていたので
頻繁に薬草を買いに来ていたせいでもある。
「いやあ、ちょっと街の外を冒険しようと思いましてね。
薬草を多めに買っていこうかと。あ、地図とか売ってたりします?」
「街の外に行かれるんですね。確かに備えはたくさんあったほうが良いと思います。
地図ですが、街の周辺しか記されていませんが、それでもよろしければありますよ」
「じゃあ、薬草を20個とその地図を買います」
「はい、ありがとうございます。魔物も出ると思いますので気を付けてくださいね」
「はい!たくさん気を付けます!」
ああ……こんなに可愛い子に心配してもらえるなんて……。
俺、この道具屋で働きたかったな……。
そんなこと考えていても仕方ない、と俺は頭をぶんぶんと振って
雑念を振り払い、街の門へと向かっていった。