05.生活費を稼ごう
さて、武器と防具を揃えた俺が向かったのは道具屋だ。
怪我をした時のために、薬草っぽい物を買っておこうと思ったのだ。
(決して可愛い店員さんと話がしたかったわけではない)
中に入ると昨日鑑定屋の事を教えてくれた可憐な店員さんが出迎えてくれる。
「いらっしゃいませ、あら?昨日のお客さんじゃないですか。
あれから、どうでした?鑑定できましたか?」
「あ、はい……。おかげさまで金になるアイテムをゲットしたので
この通り、装備を揃えることができましたよ!」
俺は鼻の下をのばしながら、買ったばかりの装備を店員さんにお披露目する。
(何度も言うが決して可愛い店員さんと話がしたかったわけではない)
「あら、それは良かったです!それでは、本日はどのような御用でしょうか?」
「ああ、薬草とかランタンとかを買おうかなと思って」
「薬草と、ランタンですね。薬草はここの街では下位レベルの物しか
置いておりませんが、それでもよろしいですか?ランタンは、油を使うもの
と魔法石タイプ、どちらがよろしいですか?」
うーん。また分からないことが出てきたな。薬草は分かる。恐らく
そのレベルによって傷の治りが違うんだろ。
というか、魔法石!?なにそれ。
「えーっと、魔法石っていうのは何です?」
「はい、魔法石とは、その名の通り、魔法の力を宿した石のことです。
このように、息を吹きかけるだけで、ほら、こんなに明るくなるんです」
店員さんがランタンの扉を開け、真ん中に備え付けられた石のような
物に息を吹きかけると、驚いたことにその石は光を放ち始めたのだ。
「消したいときは、同じようにもう一度息を吹きかけるだけです。油で
火をつけるランタンと違って、壊れない限り半永久的に使える、凄いアイテムなんですよ」
「ほぉぉぉ!!……んでおいくらなんですの?」
「魔法石タイプですと、50銀貨となります。油タイプなら60銅貨ですね」
……ですよね。そんなに便利なアイテムなら高いだろうと思ってたよ。
ここは素直に買える油タイプにしておくか。
「ランタンは油タイプでお願いします……。薬草は1個いくら?」
「では、油はサービスでお付けしておきますね。
薬草は1個5銅貨になります。おいくつお求めでしょうか?」
「それじゃ、薬草は5個ください」
「はい、お買い上げ、ありがとうございます!」
店員さんは満面の笑みを向けてくれた。可愛いなぁ……。
決めた。50銀貨貯めてこのお店で魔法石のランタンを買うんだ。
そして、また店員さんのとびっきりの笑顔を見る。よし、がんばろ。
薬草とランタンを買った俺は、再び昨日の掲示板の前に来ていた。
そして、とある仕事を探す。
……あった!『地下下水道の清掃 1日10銅貨』!!
早速紙を取ると、昨日と同じ集合場所に向かう。
そこにいたのは、昨日と同じ5人のおっさんと威勢のいい説明係のおっさんがいた。
おい……同じメンツかよ。まあいい。昨日と違うところを見せてやるさ。
「ん?お前は昨日のハゲ頭じゃねえか!いっちょまえに剣なんて装備
しやがって。それだけ揃えられる金があるのに、またこの仕事をやりに来たのか!?」
「ああ、ちょっと臨時収入があってな。今日も掃除をしにきたぞ」
「ふん。どういうわけだか知らんが、よっぽどくせえところが好きみたいだな。
まあいい。条件は昨日と同じだ。期限は夕刻の鐘が鳴るまで。途中で逃げた奴には
報酬無し。行ってこい!」
俺はある考えがあって、黙って従った。
俺の考えはこうだ。
昨日みたいに人食いネズミが現れた場合、この剣があれば
楽に倒せると見込んだのだ。倒せてまた不確定アイテムを落とすなら
それを集める。他の5人が昨日同様に逃げてくれれば、報酬も
独り占めしたうえに、不確定アイテムもがっぽり、という手はず。
だが、これには欠点がある。この俺の装備を見て、他の5人は
俺に倒してくれ、と頼んでくると思ったのだ。その場合、
俺は掃除をやらない代わりに5人の護衛をやることにする。
1人あたり2銅貨もらえば報酬の10銅貨と合わせて20銅貨は
確実に稼げることになる。
一番最悪なのは、人食いネズミが全く出ない場合。そのときは
また臭い地下道でひたすら掃除だけをしなければならない。
まぁ、入ってみれば分かることだ。話はとりあえずそれから。
昨日は必死だったのであまり周りを見てられなかったのだが、
中は結構暗いのだ。ところどころに火の付けられた、たいまつが掛けてあるので
完全な暗闇、ということはないのだが、自分の周囲が常に明るくはない。
そこで、先ほど買ってきたランタンに着火すると、ひとまず腰に装備する。
明るいな。油タイプのランタンは油が切れたら使えないけど、
足せば良い話だし、何よりもコストパフォーマンスがいい。
さて、肝心のクソネズミが出れば良いんだけどね。
30分ほど掃除をしていると、昨日俺に『あとは任せた』とか言って
逃げ出したやつが話しかけてきた。
「なぁ、あんたその装備、どこで手に入れたんだ?
俺たちは昨日人食いネズミが現れてから逃げ出した。
それなのにあんたは残って仕事をやり遂げたんだろ?
それって、あのネズミを倒したってことか?」
「ああ。お前らが逃げ出したおかげで、散々な目にあったんだからな。
またあの人食いネズミが出ても自分たちで対処しろよ。
……おっと、あそこにいるのはそのネズミじゃねえか?」
俺たちが作業しているほんの少し先を照らしてみると
確かに動く大きな動物がいる。人食いネズミだ。
他のおっさんたちも気づいたようで、また逃げる準備をしているところ
だった。
「ひぃぃぃ!出たあ!!」
そして、昨日さっさと逃げ出した4人はまたしても逃げたのだ。
根性ねえなあ、あのおっさんたち。あんなんでちゃんと食べていけんのか?
お?こいつは今日は逃げないみたいだけど。
俺と話していたおっさんは足がガタガタ震えてはいるが、しっかりと
棒を持ってネズミを見つめていた。
「お、俺も今日は戦うぞ。あんたにもできたんだ。きっと俺にも
倒せるはずだ」
ちょっと俺が下に見られた気がしたので、ちょっとむっとした。
「俺にもってどういうことだよ。じゃあ、ランタンで照らしててやるから
やってみるんだな」
そう言って俺はおっさんの後ろに下がって前方を照らしてやる。
相手の人食いネズミもこちらに気付いているようで、シャー!と
声を出しながら、威嚇をしている。
「う、うおー!」
おっさんは叫び出し、人食いネズミに向かって走り出した。
(そんな度胸あるなら、昨日からそうしてればいいのに)
棒を振りかざし、ネズミの頭に向かっておもいきり棒を
振り下ろす。しかし、ネズミはそれを軽々とかわし、
おっさんに体当たりをして吹っ飛ばした。
吹っ飛ばされたおっさんは、あまりの痛さに立ち上がることもできない
ようだった。
「おい、大丈夫か?」
「なんとか……。悪いが、あとはお前さんにお願いできないか?」
「じゃあ、報酬のうち8割は俺が貰うからな」
さて、せっかくの武器の性能を確かめるチャンスだ。
悪いが練習台になってもらうぜ!クソネズミ!
俺は腰に差してあるショートソードを抜き放つと、人食いネズミと対峙した。
軽装ではあるが、昨日よりマシな装備、そしてかなり重いが鉄製の剣を
持っているからか、ある程度余裕をもって構えることができている。
ネズミが昨日のように突進をしてきたので、俺はその頭に対して
剣を突き立てる。重くてまともに振れないので、相手のスピードを
利用して攻撃しようと思ったのだ。
そして、見事にネズミの顔面に剣は突き刺さった。
いきなりの出来事に人食いネズミは断末魔をあげる間も無く
黒い霧となり、消え去った。
おお!1撃で倒したぞ!まさかこんなにうまくいくとは思わなかったけど。
人食いネズミが消えたあたりを探したのだが、何も無い。
どうやら、あの不確定アイテムは必ず落とすわけではないようだ。
「あんた、そんなに強かったのか。とにかく助かった」
「いや、剣の切れ味が良かったからだな、俺は剣士でもなんでもない」
「剣士じゃないにしても堂々とあんな化け物と渡り合えるんだ。
すごいってもんよ」
ま、まぁ本当に偶然なんだけどね。
それはそうと、ちょっとこいつに提案してみるか。
「ところでおっさん、俺はもう少しネズミを探すけど
あんたはどうする?このまま帰るか?」
「ここまで来て帰るかよ。もう金も無いんだ。今日逃げたら、
飢え死にしちまう。掃除は俺がやるから、あんたはやつが出たら倒してくれないか?」
そう言ってくれて良かった。臭いもきついけどドロドロしたもの
見てると……ちょっとね。
「そういうことならいいぜ。じゃ、逃げたやつらの報酬のうち
30銅貨はおっさんにやるよ。その代わり、俺は一切掃除しないからな。
あのドロドロしたのを見てると本当に吐きそうになる」
「30も貰っていいのか!?あんたがいいならそれで構わん。
さっきから気になっていたんだが、おっさんおっさん呼ぶのはやめてくれ。
あんたも十分おっさんだと思うがな。俺の名は『ダン』って言う。
よろしく頼む」
「ああ、悪いな。俺もおっさんだったな。俺は、いけ……エイジだ。
宜しくな、ダン」
なんとなくフルネームを名乗るのはやめておいた。
こんなファンタジーな世界で日本の名字と名乗ったら不思議がられるしな。
それにしても、この世界で初めて自分の名前を名乗る相手がおっさんとは。
なんか、こっちに来てからおっさんとばっかり縁があるような……
そして、俺とダンはこのあと地下下水道で掃除とネズミ退治を続け
無事に今日の仕事を終えることができた。