04.武器を買おう
鑑定屋から外に出ると、もうすっかりあたりは夜になっていた。
このまま武器屋に行って、手に入れた鉄鉱石を売り込もうかとも考えたのだが、
さすがに下水道での労働でくたくたなので、今日は家に帰って寝ることにした。
(家と言っても、本当に俺の家なのかどうかも分からないけど)
初めて魔法を目にして興奮していたからなのか、自分が空腹なのをすっかり
忘れていた。俺は、パン屋のおばさんにもらったパンを頬張り、
空腹を満たすと、ベッドに倒れこんで頭の中の整理を始めた。
ああ。こんなに疲れたのは初めてかもしれない。
なにせ、元から俺は体力に自信が無い。というか普通に生きていたのなら
こんな経験することは無かったか。だいたいあのクソネズミは何なんだよ……。
っていうか、なんでハゲのおっさんなの?俺は……
などと何故こうなってしまったのかと考えているうちに、
俺は睡魔に負け、まどろみの中へ落ちていった。
――翌日。残っていたパンを食べ、所持金の確認をする。
昨日鑑定に50銅貨も使ってしまったので、残りは10銅貨。
初日の1銅貨しか持ってません状態に比べれば、はるかにマシだが、
このままでは、パン屋のおばさんから毎日安いパンを買う羽目になる。
よし。手に入れた鉄鉱石を売って、とりあえず武器を買おう。
そうすれば、下水道でもっと稼げるかもしれないし。
俺は街に出ると、またパン屋に向かって一番安いパンを買った。
顔を売っておくのも大事。この街には俺のこと知ってる人が全然いないからね。
大通りにある武器屋を見つけると、早速中に入ってみた。
武器屋の店主は俺の想像とは違って、感じの良さそうな青年が店番をしていた。
武器屋の店主って言ったら、ハゲ頭で、ヒゲ生やしていて、筋肉隆々の
おっさんが定番だと思ったんだけどね。まあそれを言ったら今の俺の姿
の方が武器屋のおっさんか。
「いらっしゃいませ。何か武器をお探しでしょうか?」
「いや、ちょっと見てもらいたい物があってな。これなんだが……」
武器屋の青年に鑑定で入手した鉄鉱石を渡すと、青年は少し驚いていた。
「重いですね、これ!ちょっと見せてもらいますね」
青年は頭に拡大鏡を装着し、鉄鉱石を様々な角度から見ている。
「これは凄い純度の鉄鉱石ですよ!こんな物初めて見ました。
ここいらでも鉄鉱石は取れることは取れますけど、不純物が
結構混ざってるのでそれを分離するのが大変なんですよね。
お客さん、これをどこで?」
「ああ、これは家宝だ。家にずっとあったんだがな、
金に困ってるんで売れるところを探している。それで、ここで買い取ってもらえるのか?」
「そうですね……純度高いからなぁ。では、30銀貨でどうでしょう?」
銀・貨!!!銅貨じゃなくて、銀貨って言ったぞこいつ!
ちょっとまて、銀貨っていったいいくらくらいなんだ?
というかケルってなんだ?
「俺は田舎から出てきたばかりでな、銀貨の価値が分からないんだが、
銅貨にするとどれくらいになる?」
「銅貨に換算すると、300枚ですね。銅貨の方が良いですか?
あんまり銅貨が多いと、持ち歩くのも大変だと思いますけど」
俺は頭の中で金額の計算を始める。
1銅貨が多分100円くらいだったな。ってことは、30万円!?
ほほう。これはいい商売ができるかもしれんぞぉぉぉ!!
「あの、お客さん?どうかされましたか?」
武器屋の青年に言われてハッとなる俺。どうやら金の事を考えて
意識が飛んでいたみたいだ。いかんいかん。
「すまんすまん。では、30銀貨で買ってくれ。ついでに
その金で武器を買いたいんだが、何が置いてある?」
「分かりました。それでは、こちらが代金の30銀貨になります。
武器ですが、どのような形状をお探しですか?こちらで販売しているのは
ショートソード、ロングソード、スピア、ナイフ、など種類は色々ありますね」
「ふむふむ。ロングソードは振れる自信が無いし、槍は邪魔になるな。
ここは無難にショートソードを見せてくれ」
「分かりました。材質は青銅なら80銅貨、鉄なら2銀貨となります」
「鉄製は高いな。ちょっと振ってみても良いか?」
まず、青銅製のショートソードを手に取って振ってみる。
うん、そこまでは重くないけど、青銅ってのが気になるな。
ゲームで言えば最初の武器はこん棒とか、木製で次は銅って感じだから
木よりは強い……くらいのイメージしかない。
次に鉄製のショートソードを持ってみた。
結構重い。というより、この俺の身体の筋肉がそこまで鍛えられて
いないからかもしれないが、かなりきつい。
「街で見かけた冒険者はほとんどがこの鉄のショートソードを持っている
みたいだったが、大体それが標準なのか?」
「ええ、青銅は安くて購入しやすいのですが、いかんせん強度は
鉄には劣ります。冒険者さんは魔物と戦うことも多いと思いますので
やはり強度は大切なのではないかと。鉄はこのあたりでは
希少価値が少し高いので値段が張ってしまうのは致し方ありませんね」
うーん。どうしようか。安物買いの銭失いという言葉がある。
もしここで青銅製を買っておいて、あのクソネズミに壊されたら話にならないしなぁ。
「よし、鉄製のショートソードを買おう」
「お買い上げ、ありがとうございます。切れ味が落ちてきたら
お持ちください。格安で研ぎますので!」
武器屋の青年はそう言うと、ニコニコしながら鉄製のショートソードを
渡してくれた。腰に装備してみたのだが、重量が結構あるので慣れるまできつそうだ。
さてさて、これで冒険者の端くれみたいになれた俺に足りないものがまだある。
防具だ。というか、新しい服が欲しい。
ただでさえやつれていたのに、ネズミとの戦闘でいたるところに穴が空き
とてもみすぼらしいぞ、この格好。
丁度、武器屋の隣が防具屋になっており、武器屋を出た足でそのまま
防具屋へと入っていく。すると、さっきの店員と同じ顔が立っていた。
「いらっしゃいません。なにか防具をお探しでしょうか?」
「お兄さん、さっき隣の武器屋にいたよね?店2つやってるのか?」
「ああ、隣の武器屋は兄です。僕たち双子なんですよ」
「なるほどね……。防具一式を買いたいんだけど、どんなのがある?」
店の中には様々な服や、鎧、盾などがおかれていた。
奥にある鎧一式は一際輝いていて、俺の目をくぎ付けにした。
「あ、あれは鉄製のプレートアーマーですね。一式で20銀貨です。
かっこいいですし、防御力も高いのですが、冒険者さんであれを
着ている人は見たことありませんね……」
目をキラキラさせてプレートアーマーを見ている俺を見つめ、
ちょっと小ばかにしてくる防具屋の青年。兄の方が感じ良いぞ。
「いや、あんなのは着ても動けないだろうな。
5銀貨くらいでだいたいどこまで揃えられる?」
「5銀貨ですか。うーん、お客様の装備はショートソードですね。
そうすると上下の服と青銅製のチェストプレート、
皮製のニーガードくらいが良いのではないでしょうか?
これら全てで4銀貨でいかがですか?」
うん、剣が重いからね、動きやすさ重視で防具は軽いに越したことはない。
「じゃ、4銀貨で頼む」
「お買い上げ、ありがとうございます!このまま装備なされますか?」
「ああ、ちょっと奥を借りるぞ」
鉄製のショートソードと簡易ではあるが防具一式を揃え
とりあえず冒険者っぽい恰好になることはできた。これで誰がどう見ても
職無しのハゲ親父には見えまい。あ、ハゲ親父に見えるのは変わらないか……
金額設定を訂正しましたので本文も訂正致しました。