6話
アルティメ.....長いからアルと呼ぼう。
犬種は...チワワかな。首輪が凄いゆるゆる。
可哀想だが、一旦小さい檻の中に入れた。
めっちゃ走り回っている。そして自分の尻尾を追いかけてぐるぐる回っている。
かわいい。
...じゃなくて、なんで犬が召喚されたのか考えなければ。
本当の勇者さんが飼っているペットなのかな。勇者さんを召喚させようとしたら、アルが魔法陣に思いっきり走って行ったとか。
だとしたら勇者さんびっくりだろうな...。
...そうじゃないなら、アルが勇者.....いや、勇、犬.....?
──な、わけないか。
「...連続で勇者召喚を行うことは無理だ。明日にもう一度行うが、この犬はどうしようか...」
王太子様、まだ居たんですか。仕事どうしたんですか。
まあ、アルをどうするかは僕も気になるけど。
...もういっそ、僕が世話しようかな。勇者さんが来るまで──というか来てもらっても色々複雑だけどね。
「じゃあ、僕が面倒見ます。いいですか?」
「タカナシが?別に構わんが...」
「では、檻からまず出してあげてください...。普通に可哀想なので。...いえ、凄い走ってますけど、可哀想なので!!」
「あ、ああ」
王太子様が護衛人さんに指示をだし、檻の扉を開けてもらった。
それと同時に、アルが僕に突撃して来た。
と思ったら、僕の周りを走り始めた。
これは、どうしたら良いだろう?
「ワン!」
「はいっ!?」
びくっとして思わず返事を声に出してしまったが、懐かれ...たのかな?
「...あれ?そういえばキースさんはどこに?」
「あいつなら犬が苦手だからどっかの部屋に逃げたぞ」
あんな真面目そうな人が...?
キトラさんはイメージ的に犬なのに...!?
「王太子様、さすがにもう時間がありません。行きますよ」
「えー」
「が、頑張ってくださ〜い...」
そうして、王太子様は護衛人さん達に連れて行かれた...。
他の魔導師さん達も明日の準備の為に戻って行った。
「やっ...ほぉーー!!!」
「ぎゃあああ!!?」
後ろから肩を叩かれ、絶叫してしまった。
「き、キトラさん...!?驚かせないでくださいよ...!!」
「シグレって面白いねー!ところで、あの犬どうなったの?あ、真下にいた」
キトラさんがアルで遊び始めた。
「アドルは〜?」
「...え、居ない...?キースさんの様子でも見に行ったのかな...?」
「兄さんの?犬苦手だからなー」
あ、本当だったんだ...。
「キトラさんは、好きなんですね」
「うん!かわいいし、動物はみんな好きだよ〜」
「...えぇと、キトラさんも勇者召喚に携わっていたんですか?」
「うん、ちょっとだけ。でも、犬が召喚されるなんて誰も予想できなかったよねぇ」
「そ、そうですよね...」
キトラさんはまだアルの頭をなでなでしている。
「ねぇねぇ、ボクもこの犬お世話していいかな?」
「いいと思いますけど、宮廷魔導師って仕事とかないんですか?」
「あるけど、ボクは下っ端みたいなものだからそんなに仕事来ないんだ〜」
「なら、一緒にお世話しましょう!」
「やった〜!...ん?この首輪、何か書いて...」
あっ、ついに気づいてしまいましたか。
「あるてぃめっとぶりざーどっぐ?もしかして名前...?」
「...自分は心の中で『アル』って呼んでます」
「アル?いいね、それにしよう!」
「どこでお世話...というか、飼いますか?僕の部屋でもいいですけど」
「ボクの部屋は散らかってるからシグレの部屋〜」
「了解です」
...了解とか言ったけど、僕の部屋で飼うってことはキトラさんが僕の部屋に来るっていうことだよね...?別に何も無いけど、用心しとこ...。(ばれないように)
***
「おっじゃましまーす」
アドルさんとキースさんは放ってきちゃったけど、多分後で来る。多分。
抱き抱えていたアルを床にそっと降ろした。
にしても、飼い主さんはどんなネーミングセンスを持っているのだろう。僕もそんなにセンスないけど。
「ねぇ、この服なぁに?」
「それは、僕が召喚された時に着ていた服です」
「へぇ〜」
キトラさん...犬!犬を一緒に世話するんですよ!なんで僕の部屋の方に興味持っちゃってるんですか!!
「餌となんかいろいろ」
突然椅子に座ったキトラさんがそう告げた。
びっくりした。
あ、必要な物ですね。犬用のトイレとかないとダメですもんね。
「ペットショップ...って、あったっけ...」
「ぺっとしょっぷ?動物販売店?」
「なんか怖いです...」
「...あ!もしかしたらあるかもしれない」
「え?」
すると、キトラさんは目を瞑って黙った。
え、なに、瞑想?
「あった!カゴ!」
「わっ、あ、何がですか」
ガコン!
キトラさんの目の前に、大きなカゴが出現した。
アルも驚いて固まった。
「異空間に色んな物入れてるんだけど、なんか、あった!」
「そ、そうですか。良かったです」
「餌もあったけど、賞味期限切れだった!」
いやそれ、廃棄しましょ。
「餌は...王城にあるわけないし、買いに行かないと」
「動物飼育所にたくさん売ってるよ〜?他にも飼うために必要な物も」
「...マジですか、買いに行きま──...っ!?」
立ち上がった瞬間、視界が歪んだ。
やばい、今日は一気に動きすぎたから、体ももたなかったんだろう。
「気分悪いの?休んだ方がいいよー?」
「平気ですよ、ただの目眩ですし」
「...餌とかはボクが買ってくるから、シグレはアルを見てて。動いちゃダメだよー!」
真剣な顔でそう言い、キトラさんは部屋を出て行った。
遠回しに「休んでて」と言われた気がして、僕は再び床に座り込んでアルを撫でていた。
***
数分後、アドルさんが戻ってきた。
キースさんが完全復帰するまで一緒にいたと説明され、謝られたが全力でそれを止めて、キトラさんやアルのことを僕も説明して、アドルさんは部屋の前に仁王立ちしていった。
その後、アルをガン見していた途中にキトラさんが帰ってきた。
「ただいまぁ〜。餌とその他諸々買ってき...って、なんでそんなにアルをガン見してるのー?」
「ナンデモナイデス。あ、いくらでしたか?僕も払わないと...」
「別に、ボクはお金いっぱいあるからいいよー?武器庫でイタズラした時のお詫びだと思ってくれれば」
それはそれでなんか困るような...。
...またその後、買ってきた物を2人でカゴの中にセッティングして、アルを投入した。
うわぁ、餌に猛突進した...。
数秒で完食した。そんなにお腹減ってたの?ごめんね...。
「...寝ちゃった」
「...寝ちゃいましたね」
満腹になって眠くなったんだろうか。
おやすみ、アル。
「あー、僕もお腹減ってきたな...」
てか思い出してみれば、僕朝食摂ってないな...。アドルさんもつっこまなかったし、すっかり忘れてた...。
昼食は騎士さん達とお弁当を食べたけど、分けてもらっただけでちゃんとした食事提供されてなくないか...!?
「失礼します。食事を持ってきました」
アドルさんがタイミングを計ったかのように食事を持って部屋に入ってきた。
「申し訳ありません、私は普段朝食は摂らないものでして、小鳥遊様も腹を減らしている様子が見えなかったので気付かず...!」
うん、確かに僕は朝食も食べないこと結構あるけど、そんなにいりません。
アドルさんが持ってきたのは、大盛りの豪華な肉料理だった。
「キトラの分もあるから、さっさと食え」
態度の差...。
「アドルさんのは...?」
「私は後程頂きますので」
「.......」
あー、どうしよう。
アドルさんにちょっと分けようと思ったけど、これ1人で食べないと駄目か〜...。
あーー、キトラさんがもう半分は食べたぞ。
大食いだ...。いつの間にか起きてたアルもガン見してるぞ...。
「...い、イタダキマス」
こんな量食べたことないけど、頑張れ、僕!!
***
「うぅ...なんとか食べ切った...」
「え〜?シグレって少食だった?ボクに分けてくれればよかったのに」
「その手があったか...うっぷ...」
「事前に量を確認していれば...。本当に申し訳──」
「いえいえ!アドルさんは、悪くない、ですよ!料理長さんに、美味しかったと伝えて、おいて、ください」
言葉が途切れ途切れになってしまうが、なんとか言えた。
「はい」
食器を持って、アドルさんは部屋を出て行った。
「.......ホントに大丈夫なの?」
割とガチめにキトラさんが心配してきた。
このシリーズ、早く終わるかもしれないな...と不安になってきた柊でございますどうも(๑´• ω• )۶




