23話
いつもより、人が増えた。子供が多いかと思ったが、大人も結構いる。
「ワタアメ食べよー」
綿あめを売っている店の前で、キトラさんがぶんぶん手を振っている。
綿あめか⋯⋯、小さい頃興味本位で一口食べてみたら、ヴェェ⋯⋯となってしまった記憶がある。それ以来避けてきた。
もう何年も経つし、美味しく感じられるよね⋯⋯!?
「250Gでーす」
やる気の無さそうな店員が綿あめを差し出しながらやる気の無い声で言った。
てか、案外安いな。
橋良さんは甘い物苦手だそうなので、橋良さん以外綿あめを買った。
「ありゃたったー」
店員の挨拶が早口すぎてよく聞こえなかった。
多分『ありがとうございました』だ。
大丈夫かあの店員。
「しゃっしゃっせー」
後ろの方でまた挨拶が聞こえる。
これはよく聞く。
そしてリーナさんがあの店員の挨拶を聞く度に「ブフッw」と吹くのだが、ツボ浅いのか?
綿あめは小さくちぎって食べてみたけど、普通に美味しかった。全くあの頃の僕ったら。
「お!そこの兄ちゃん姉ちゃん!射的やってかない!?」
突然The・おっちゃんな人が声をかけてきた。
射的に綿あめ⋯⋯完全に日本のお祭りだ。
時々よくわからない店もちらほら見えるが。
「じゃあ、私やってみます⋯⋯フッ⋯⋯ww」
思い出し笑いって怖いよね。
パンッ!⋯⋯パンッ!⋯⋯パンッ!
三発中三発命中。すご。
熊⋯⋯っぽい人形と、多分腕時計と、お菓子を抱えたリーナさんはご満悦である。
「兄ちゃんもどうだ?」と言われたので、やってみよう。
一発しか当たらなかった件について。
貰ったのが、シャーペンみたいなのが入った細長い箱。
「そりゃ、魔具だよ。空中に文字を書けるんだ」
おっちゃ⋯⋯店員さんはそう言う。
つまり普通に紙に字は書けないので??
ていうか空中に書けるって⋯⋯使い所が見当たらん⋯⋯。
「魔具の中でもレアな方だと思うよー。良かったね〜」
キトラさんが軽く拍手する。
あ⋯⋯レアな方なのね⋯⋯なのに他の人がそれ狙わないってことはやっぱり特に使い勝手ないのでは!?
「⋯⋯?それは⋯⋯」
アドルさんが魔具を見て顔をしかめた。
「どうかしました?」
「いえ⋯⋯なんでもありません」
凄い気になりますね。
「え!?何、イケメン〜!!これから私とデートしません!?」
違う店に寄ろうと思った時、成人したくらいの女性四人が逆ナンしてきた。
「あたしあの可愛い子タイプ〜」
僕を指さしている。
「私はあの明るい子!」
キトラさんを指さしている。
「ウチは男前そうなあの人!」
アドルさんを指さしている。
「眼鏡男子好きなワイ、大歓喜」
橋良さんを見つめている。
一人のネット民混じってた?この世界歪みすぎてない?
「でもあの女の子は?誰かの彼女?」
「私は男よ」
「「「 」」」
「女装男子も大歓喜ナリwww」
一人だけ違う世界に行ってらっしゃいますね。
「⋯⋯え、嘘!!何あのイケメン!!」
「やっば!!行こ!」
「王子様オーラパないー」
「王子様キャラも大歓喜でござるwww」
とりあえず四人目は好きなタイプを統一しましょうか。
とにかくあの人達が離れてくれてよかっ⋯⋯⋯⋯。
⋯⋯王子様オーラ?
王子??Prince??
女性達が向かった方を見ると、変装した王太子様と、ユキトさんがいた。きっと他にも護衛の人が紛れてると思う。
「面食い多いな」
「⋯⋯そうだな」
メガネクイッをしながら橋良さんが言った。
通りは人がとても多く、複数人で行動している人達は何人か迷子になりそうだ。
ソース?
僕です。
人混みに押されて、知らない所に来ちゃいました。
路地裏のような場所だ。
店の方に行っても、彼らを見つけられる気もしないし、通信機器もここにはないし、オワッタ。
ここから動かない方がいいかな⋯⋯、僕がいなくなったことはすぐわかるだろうし、探しに来てくれると思う。
「ねえ」
後ろから少年の声が聞こえた。
え、怖っ、めっちゃ怖っ。振り返りたくなっ。
「あの時のおにーさんでしょ?」
「⋯⋯?」
怯えながら振り返ると、見覚えのある顔が見えた。
「君⋯⋯いつぞやの魔王の弟くん?確か⋯⋯ぶ、ブルー⋯⋯ブルードくん?」
「ブラードだよ。おにーさんも迷子なの?」
「"も"ってことは君も?ていうかまた?」
「お兄ちゃんと一緒にお祭りに来たんだけど、はぐれたの」
「⋯⋯じゃあ一緒に探そっか」
「うん!」
***
無理でしたorz
人多すぎる。アドルさん達も見つからなかった。
結局さっきいた路地裏っぽい所に戻って、作戦会議を行うことにした。
「おにーさん、それ何?」
ブラードくんが、射的で手に入れた魔具を指さして言った。
「これ?なんか、空中に文字が書けるらしいよ。射的で貰ったんだけど」
「⋯⋯!それ、貸して!」
「え?⋯⋯ど、どーぞ」
箱からペンを出し、空中に何かを書き始めた。
「行け!」
すると、書かれた文字が空へ飛んで行った!!
「⋯⋯これ、文字書くだけじゃなくて、人の居場所もわかるんだ。頭の中でイメージしながら相手の名前を書いて、『行け』と念じたり命令したりすると、なんとなく気配がわかるようになるの」
「ふ、ふへぇ⋯⋯。でも、魔王さんなら見つけられない?魔力で何かしら探ったり」
「お兄ちゃんの⋯⋯というか魔族の魔力は、人間とは違う。だから、魔力を使ったら人間にバレて、大変な事になる。⋯⋯ってお兄ちゃんが言ってた」
「ああ⋯⋯だから前回も⋯⋯。居場所はわかった?僕もついてった方がいい?」
「だいじょーぶ!ありがとうおにーさん!」
ペンを返し、ブラードくんは人混みに紛れて行った。
よし、僕もこれを使って⋯⋯!
アドルさんをイメージしながら、『アドル』と空中に書いた。ボタン押しながらじゃないと書けないようだ。
「行け!」
文字が飛んでった。
フルネームじゃなくても良かったのか。
数秒後、強い気配を感じた。
なんだろう。こんな、ぶわぁあああってな感じのが脳内に⋯⋯。
⋯⋯まあ、とりあえず向かいましょう。
***
いた。広場に。
「すみません。迷子になってました」
「あー!シグレー!」
「探しましたよ⋯⋯」
「無事でしたか!良かったぁ⋯⋯」
「はあ⋯⋯手間をかけさせるな」
再び謝り、僕も皆が座っているベンチに座った。
「ねー、あの黒髪で身長高くて優しそうな若い人ってシグレの友達?」
「⋯⋯はい??」
「探してる時に、その人が『あの人は無事です、迷ってしまっただけですから。すぐに、魔具を使ってあなたがたの所に向かうでしょう』って言ってきたんだー。途中で、似た雰囲気の子供が『お兄ちゃーん』って言って抱きつかれてた」
oh......魔王サン??
接触しちゃって良かったの??
「じゃあ、その人の言葉を信じて、ここに留まっていた⋯⋯?」
「いいえ、見ず知らずの人でしたし、簡単には信じられませんでした。しかし、『魔具を使って』で思い出したのが、そのペンは人の居場所も特定できると聞いたことがあるので⋯⋯」
「あ、はい、それで特定しました」
あの時、悩んでいたのはこの事か。
「合流できたし、もーいっかい行こ!」
「そうですね」
「はい」
「ええ」
「はぁ⋯⋯」
橋良さんだけため息をついた。
「でもちょっと待ってください。ナイトは途中参加ですよね?どこで落ち合うとか決めてましたっけ?」
僕の質問に、全員固まった。
「⋯⋯⋯⋯ま、まあ、このペンがありますし!」
「そ、そうだね〜!」
『ナイト』と空中に書く。行け、と今度は念じてみた。
飛んでった。スゴーイ。
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯あれ?結構近くです」
広場をうろつくと、ナイトがりんご飴を持って看板地図を見ていた。
「⋯⋯ナイト⋯⋯」
「⋯⋯紫暮?って、皆も!?」
「こめん、集合場所とか決めてなかった」
「あー⋯⋯まぁいいよ。⋯⋯まさか、忘れてたりはしてないよな?」
「⋯⋯⋯⋯シテナイヨ」
「⋯⋯してないよ〜⋯⋯」
「⋯⋯してませんね」
「⋯⋯してない、わ」
「してたな」
「「「「「橋良/橋良さん⋯⋯」」」」」
***
それからは、6人で祭りを楽しんだ。
王太子様一向とばったり会ったり、王太子様を逃した女子四人が再び僕達に白羽の矢を向けてきたり色々と大変だったが、それはまた別のお話。
***
紫暮が召喚された国とは別の、小さい国。
小さい国⋯⋯ではあるが、国民は皆魔力が高く、強い。
城の中で、魔術師達が魔法陣を作っている。
やがて、その魔法陣は光り始めた。
「⋯⋯さあ、来るぞ。あの国を救い給え、黒魔道士よ!!」
魔法陣はさらに光る。
魔法陣の中心に、誰かが立ち尽くしている。
「おお、来たか!?」
「⋯⋯⋯⋯?」
「黒魔道士様、ようこそお越しくださいました。我が国は信仰の深いキドネスト王国を魔物から救うため、黒魔道士様をお呼びしました。どうか、力を貸していただけないでしょうか」
やけに整った顔を持つ、赤毛の青年はこう返す。
「俺が黒魔道士?何それウケる。面白そうだしいいよ」
新キャラまた増えます。多分これからも増えます。わかんなくなりますよねごめんなさい。私もそうなります(でも増やしちゃう)。
今回のゲストは、橋良くんです!
橋良「⋯⋯⋯⋯」
作者「⋯⋯最初の質問です。好きな食べ物は?」
橋良「⋯⋯特に無い」
作者「⋯⋯ア、ハイ。次です。なんで生徒会長になったんですか?」
橋良「⋯⋯家庭の⋯⋯事情だ」
作者「⋯⋯エッ、ハイ。最後です。あなたは勇者ですが、嬉しいと感じてますか?」
橋良「微塵も思ってない」
作者「(初対面に敬語なし⋯⋯これは見下されているッ!)⋯⋯ありがとうございましたー!」
橋良「⋯⋯(誰だこいつ)」




