表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/33

1話

 今日は高校の文化祭。

 1年生の僕──小鳥遊紫暮(たかなし しぐれ)は、準備のために着替えていた。

 僕のクラスでは、劇を行う。

 王子の衣装に着替え終わったので、皆がいる所に移動。


「小鳥遊、やっぱ王子の服似合うよなぁ」


 友達に言われた。複雑である。

 数分して、劇が始まった。

 ブザーが鳴る。


「頑張れよ~」


 君は裏方でいいよな...。

 と、恨み言を呟きながら、ステージの階段を上る。


 ***


 ...あれ?記憶が飛んでいる...。

 気がつくと、教室に戻っていた。

 まだ衣装を着ている。


「おー!お疲れ紫暮!練習の時より演技凄かったぞー。さっさと着替えてこーい!」

「え...?あ、うん」


 後ろから友達に声をかけられびっくりしたが、...良かった、劇は無事に終わったんだ。

 でも、なんで記憶がないんだろう?

 ...ま、いっか!着替えてこよう。

 そう思った時、足元が突然光りだした。


「えっ!?」

「...ん?どうし──ってうわ、なんだ!?」


 あっという間に光に飲まれた僕は、気を失ってしまった。


 ***


 声が聞こえる。

 たくさんの声が。


「.......っ!?」


 がばっと身を起こすと、暗い、広い部屋の中にいた。

 周りにはローブを着た人達がたくさんいる。

 どうやら、僕を見て驚いているらしい。


「ど、どういうことだ...」

「なぜ、男が...!?」


 ...え、それ僕のこと言ってます??


「失敗か...!くそっ!」

「...はぁ...。一週間後にまたやんないとなぁ...、めんどくせぇ...」


 なんなんだ。失敗?


「あの...」

「「うわっ」」


 声をかけてみると、さらに驚かれた。


「元の世界に帰して頂けませんか?どうやら僕は皆様の求めていた人物とは違うようですし」

「...それはできません。本当に申し訳ないのですが、貴方にはこの世界で暮らしてもらいます」

「.....え」


 一生?


「勿論、生活に必要な物は全てこちらで用意します」

「嘘.....だろ...」

「どうぞ、こちらへ」

「.......」


 ローブを着た人達の中の1人が、手を差し伸べてきた。


「ひ、1人で歩けます...。大丈夫です...」

「...そうですか」


 その人についていくと、ある扉の前で止まった。


「ここです。ところで、その格好は...」

「え?あ、これはただの衣装なので...」

「成程。では、どうぞお入りください」


 扉を開けると、少し広い部屋があった。


「あの、皆さんは何を行っていたんですか...?」

「聖女召喚です。男である貴方が召喚されてしまったので、失敗ということになります」

「あ.....。.....そ、そうですか。あと、ここは何処なんですか?」

「王城の地下です。明日、改めて話をさせて頂きますので、どうかご了承を」

「は、はい」


 そう言って、ローブを着た人は去っていった。

 え、入っていいんだよね...?


「し、失礼します...」


 特に誰がいるわけでもないのに、何故か挨拶をした。

 取り敢えず、置いてあるソファーに腰掛けた。

 時計を見ると、9時40分。

 明日改めて話す、と言われたので多分夜の9時40分だ。


「はあ...」


 思わず深いため息をついてしまう。

 まず、着替えたいのだが。

 この王子服のままでいると、場違い感が半端ないのだ。


「聖女召喚...。男...。失敗...」


 声に出してそう言うと、ノック音が聞こえてきた。


「ど、どうぞ」

「失礼します。護衛を連れて参りました。それと、お名前を伺っておりませんでしたので...」

「な、名前?あ、小鳥遊紫暮ですけど...」

「では、小鳥遊様。こちらが、小鳥遊様の護衛人です」


 後ろに居たのは、僕よりも10センチほど──あ、僕の身長は163cmです──高い、真っ赤な髪色、そして朱色の瞳の人だ。


「...アドル・カーデントと申します」


 そう言うと、アドルさんは微笑んだ。

 優しい人オーラが溢れ出ている...。


「では、私はこれで」


 ローブの人(仮)が、一礼をして部屋から出て行った。

 ...え、この人は?


「小鳥遊様、大丈夫ですか?」

「...え?」

「顔色が悪く見えたので...」

「.....まあ、急に召喚されたと思ったら、対象の人物じゃなかった上に帰れないんですから、多少は落ち込みます」

「...普通の人なら、怒って当然です」


 その通りだ。

 でも、怒ったって帰れるわけじゃない。


「...あ、そうだ。ステータス的なのを見るにはどうすればいいですか?」

「『ステータス表示』と言いながら、右手を空中にかざすと表示されますよ」

「わかりました...。『ステータス表示』」


 言われた通りにすると、本当に出てきた。


 ─────────────────

 小鳥遊 紫暮/タカナシ シグレ 職業:聖女 Lv16

 攻撃力:52000 体力:180000 魔力:5320

 防御力:4500

 ・聖属性魔法Lv99

 ・回復魔法Lv85

 ・支援魔法Lv56

 《スキル》

 ・治癒

 ・状態異常無効化

 ・浄化

 《称号》

 ・女子高校生

 ・神の愛し子

 ・聖なる光

 ・召喚者

 ─────────────────


 .............................。

 うん...。だよね...。

 僕、女だもの...。

 ウィッグ着けてこの衣装来てたらそりゃあ男だと思われる。

 しかも、僕の声は男と言われても問題ないくらいだし。

 というか、称号に女子高校生ってあるけどなにこれ??

 Lvが16なのは多分僕の年齢だ。向こうではこれは存在しなかったから、年齢をLvとして表示したのだろう。


「どうでしたか?」


 あ、これ他人には見えないのか。

 アドルさんには、話した方がいいかな。

 ...いや、ここはひとまず男のフリをしてよう。


「いえ...。ただの普通の人ですよ、僕。アドルさんの職業ってなんですか?」

「自分は、騎士ですが...」

「そうですか」


 はあ、どうしよう。

 うん、やっぱまずは普通の服に着替えたい。


「あの、着替えとかあります?普通の...」

「着替えですか...。ここには無いと思います。手配しましょうか?」

「...大丈夫です」


 残念。あ、そうだ、外套を外したらいいんじゃないか!?

 外して、隅に置いてあった立ち鏡をちらっと見た。

 ...なんか、貴族っぽい。

 まあいいや...。


「アドルさんは僕の護衛人らしいですけど、僕なんかに必要なんですかね?別に命を狙われているわけでもないし...」

「万が一の為に、です。私は扉の前に居ますので、どうぞ休んでください」

「...え、僕が寝てる間ずっと部屋の前に居るんですか...?」

「そうですが?」

「え」


 この人、僕の世界に生まれてたら社畜と化していただろう。


「アドルさんも休憩とか取らないと...」

「私は大丈夫です」


 どや顔で言われて、僕は言葉を失う。

 何言っても駄目だ。


「それでは」

「は、はい」


 アドルさんが部屋を出た。

 現在の時刻は10時40分。1時間も経ってた。

 ベッドにそっと体を倒す。

 うわ、めっちゃ寝心地良さそう。

 疲れていたんだろう、僕はそのまま寝てしまった。


 ***


「おはようございます、小鳥遊様」

「んぁ...?はっ!あ、アドルさん、おはようございます...」


 7時か...。

 って、あのまま寝ちゃったのか!

 ウィッグ大丈夫か!?

 .....よし、大丈夫だ。ガチガチにしといて良かった。


「9時に王太子様との面会があります」

「.....え、おうたい、し??なんで??」


 思わずタメ口になってしまった。


「王太子様が小鳥遊様に会いたいと仰っていましたので...」

「ま、マジですか...」

「マジですね」


 ちょ、笑顔で言わんでも...。

 .....あ、王太子に会うんだよね...?

 聖女ってこと隠して、その後バレたら処刑もんじゃね?

 え、やば、どしよ。

 .....やっぱり、話すべきか...?

 でも、話しても既に僕を男として認識している人達が信じるだろうか。

 魔法の使い方全然わかんないし。

 アドルさんには話すか.....!?


「.......た、小鳥遊様?」

「はいっ!!?す、すみません、なんでしょう?」

「...散歩に行かれますか?まだ外に出られていないようですし」

「...いいんですか!?行きたいです!」


 ***


「すご.....」


 僕は王城の中庭に連れてこられた。

 様々な花達が風に揺られている。

 綺麗だなぁ...。


「あれ?」


 枯れてしまっている花を見つけた。

 ...薔薇だ。

 僕は花の中で、薔薇が一番好きだ。

 だからというわけではないが、治してあげることはできないか?


「枯れてますね...。庭師が植え替えに来るでしょうし、放っておきましょう」


 アドルさんが言う。

 でも、この薔薇が可哀想だ。

 本当なら、周りと同じように、美しく咲きたいだろう。

 どうしても治してあげたかった僕は、


「.......治れ」


 何故か、そう言っていた。

 その瞬間、枯れていたはずの薔薇がどんどん白くなって、すっかり周りの薔薇と同じようになった。


「「...!?」」


 僕も、アドルさんも驚いた。

 まさか、僕が聖女だから?


「今のは...小鳥遊様が...!?」

「.............いえ、違いますよ...。きっと、遠くで誰かが治してくれたんですね!」

「ですが、確かに今のは聖女様の力...」

「さ!次はどこに行きましょうか!!」


 移動してる間に、僕が熱心にありもしない事を説明すると、なんとか納得してくれたようだった。

 廊下の時計を見ると、7時34分。

 あと約1時間半か...。


「ここは、王城付きの騎士達の訓練場です。見ていかれますか?」

「はい」


 中庭から少し離れた、グラウンドみたいな所。

 そこでは、騎士さん達が懸命に剣を振っていた。


「あれ...?あ、アドルさんじゃないですか!」

「アドルさんだ!」

「おはようございます!」


 こちらに気づいた騎士さん数人が挨拶をしてきた。アドルさんに。


「アドルさん、騎士団長か何かですか...?」

「元騎士団長です」

「え」


 マジか...。騎士団長だったのか...。

 なんで護衛人なんかやってるんだろう...。


「ん?その人は...もしかして、昨日の夜召喚された人...!?」

「男だった~とか言ってたけど、結構女顔じゃねぇか?」

「女装似合いそうだよな」


 いや、女ですけどね。


「小鳥遊紫暮です。よろしくお願いします」


 とりま笑っとこ。


「「かわいい...」」


 ...騎士さん達、訓練しよ、訓練。


「何歳なんだ?」


 誰かが聞いてきた。


「16歳ですけど...?」

「若っ!」

「その歳で召喚されたのか...。辛いだろうな...」

「俺達が支えてあげるからなっ...!!」


 優しい人達なんだろうが、距離を置きたくなってきたのは何故だろう。


「小鳥遊様、そろそろ向かいましょう」

「あ、はい!じゃ、じゃあ、また今度...」

「「またなー!」」


 元気な人だなぁ...。


 ***


 現在、9時10分。

 僕は物凄く広い部屋にある豪華なソファーに座っている。後ろにはアドルさんが居る。

 .....予定だと9時からだよね?

 まあ、王太子様なんだし忙しいんだろうけどさ。


「すまん!遅れた!!」


 ドンッ!!と扉が開いたと思ったら、男性がズカズカと入ってきた。

 そしてソファーに、どすんと座った。

 この人が王太子様...?

 青髪に青い瞳。すんごいイケメンだけど...。


「んで、タカナシシグレというのはお前か?」

「は、はい。小鳥遊とお呼びください」

「じゃ、タカナシ。今回の件に関してはすまなかった。我々の責任だ」

「え...」


 王太子様は頭を勢いよく下げた。


「ちょっ...!?王太子様っ!!?」

「.....お前、歳は?」


 頭を上げながら、そう聞かれた。


「じゅ、16です」

「.....そうか...。俺は来月で20歳になるが、もしもお前の立場にいたら大激怒していただろう」

「.......お、王太子様は悪くありませんよ...!僕は、気にしてませんから...」


 勿論、そんなわけはないが。

 怒っているわけではないし、取り敢えずそう言った。

 というか、これでもう僕は聖女とバレるわけにはいかなくなったな。


「...ありがとう。何か欲しいものがあれば、なんでも言ってくれ」

「.....じゃあ、平民が着ているような服を」

「.......そ、それでいいのか...?」

「はい」

「わ、わかった。おい、手配しろ」

「はっ」


 王太子様の後ろにいた数人の護衛人さんの内の1人が部屋を出て行った。


「...もうこんな時間か...。すまない、次の仕事があるので、失礼する。アドル、タカナシを頼んだぞ」

「承知いたました」

「じゃあな、タカナシ」

「はい!」


 王太子様と、護衛人さん達も出て行った。


「はーー!!緊張したー!」

「お疲れ様です」


 疲れてはないけどね。

 はあ、これからどうしようか。

 聖女であることは隠さないといけないし...。

 剣士にでもなろうかな...。

 剣士...。剣士.....?

 お、いいじゃん!

 皆僕を男だと思ってるんだし、剣術を学べば暇もできないだろう。


「よし!剣士になるぞー!」

「はいっ!?」


 2人しか居ない広い部屋に、僕の声が響いた。


どうも、柊です。

色々とおかしな所あるかもしれませんが、ご了承ください...!

誤字・脱字等ありましたら、ご報告ください。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ