1話
今日は高校の文化祭。
1年生の僕──小鳥遊紫暮は、準備のために着替えていた。
僕のクラスでは、劇を行う。
王子の衣装に着替え終わったので、皆がいる所に移動。
「小鳥遊、やっぱ王子の服似合うよなぁ」
友達に言われた。複雑である。
数分して、劇が始まった。
ブザーが鳴る。
「頑張れよ~」
君は裏方でいいよな...。
と、恨み言を呟きながら、ステージの階段を上る。
***
...あれ?記憶が飛んでいる...。
気がつくと、教室に戻っていた。
まだ衣装を着ている。
「おー!お疲れ紫暮!練習の時より演技凄かったぞー。さっさと着替えてこーい!」
「え...?あ、うん」
後ろから友達に声をかけられびっくりしたが、...良かった、劇は無事に終わったんだ。
でも、なんで記憶がないんだろう?
...ま、いっか!着替えてこよう。
そう思った時、足元が突然光りだした。
「えっ!?」
「...ん?どうし──ってうわ、なんだ!?」
あっという間に光に飲まれた僕は、気を失ってしまった。
***
声が聞こえる。
たくさんの声が。
「.......っ!?」
がばっと身を起こすと、暗い、広い部屋の中にいた。
周りにはローブを着た人達がたくさんいる。
どうやら、僕を見て驚いているらしい。
「ど、どういうことだ...」
「なぜ、男が...!?」
...え、それ僕のこと言ってます??
「失敗か...!くそっ!」
「...はぁ...。一週間後にまたやんないとなぁ...、めんどくせぇ...」
なんなんだ。失敗?
「あの...」
「「うわっ」」
声をかけてみると、さらに驚かれた。
「元の世界に帰して頂けませんか?どうやら僕は皆様の求めていた人物とは違うようですし」
「...それはできません。本当に申し訳ないのですが、貴方にはこの世界で暮らしてもらいます」
「.....え」
一生?
「勿論、生活に必要な物は全てこちらで用意します」
「嘘.....だろ...」
「どうぞ、こちらへ」
「.......」
ローブを着た人達の中の1人が、手を差し伸べてきた。
「ひ、1人で歩けます...。大丈夫です...」
「...そうですか」
その人についていくと、ある扉の前で止まった。
「ここです。ところで、その格好は...」
「え?あ、これはただの衣装なので...」
「成程。では、どうぞお入りください」
扉を開けると、少し広い部屋があった。
「あの、皆さんは何を行っていたんですか...?」
「聖女召喚です。男である貴方が召喚されてしまったので、失敗ということになります」
「あ.....。.....そ、そうですか。あと、ここは何処なんですか?」
「王城の地下です。明日、改めて話をさせて頂きますので、どうかご了承を」
「は、はい」
そう言って、ローブを着た人は去っていった。
え、入っていいんだよね...?
「し、失礼します...」
特に誰がいるわけでもないのに、何故か挨拶をした。
取り敢えず、置いてあるソファーに腰掛けた。
時計を見ると、9時40分。
明日改めて話す、と言われたので多分夜の9時40分だ。
「はあ...」
思わず深いため息をついてしまう。
まず、着替えたいのだが。
この王子服のままでいると、場違い感が半端ないのだ。
「聖女召喚...。男...。失敗...」
声に出してそう言うと、ノック音が聞こえてきた。
「ど、どうぞ」
「失礼します。護衛を連れて参りました。それと、お名前を伺っておりませんでしたので...」
「な、名前?あ、小鳥遊紫暮ですけど...」
「では、小鳥遊様。こちらが、小鳥遊様の護衛人です」
後ろに居たのは、僕よりも10センチほど──あ、僕の身長は163cmです──高い、真っ赤な髪色、そして朱色の瞳の人だ。
「...アドル・カーデントと申します」
そう言うと、アドルさんは微笑んだ。
優しい人オーラが溢れ出ている...。
「では、私はこれで」
ローブの人(仮)が、一礼をして部屋から出て行った。
...え、この人は?
「小鳥遊様、大丈夫ですか?」
「...え?」
「顔色が悪く見えたので...」
「.....まあ、急に召喚されたと思ったら、対象の人物じゃなかった上に帰れないんですから、多少は落ち込みます」
「...普通の人なら、怒って当然です」
その通りだ。
でも、怒ったって帰れるわけじゃない。
「...あ、そうだ。ステータス的なのを見るにはどうすればいいですか?」
「『ステータス表示』と言いながら、右手を空中にかざすと表示されますよ」
「わかりました...。『ステータス表示』」
言われた通りにすると、本当に出てきた。
─────────────────
小鳥遊 紫暮/タカナシ シグレ 職業:聖女 Lv16
攻撃力:52000 体力:180000 魔力:5320
防御力:4500
・聖属性魔法Lv99
・回復魔法Lv85
・支援魔法Lv56
《スキル》
・治癒
・状態異常無効化
・浄化
《称号》
・女子高校生
・神の愛し子
・聖なる光
・召喚者
─────────────────
.............................。
うん...。だよね...。
僕、女だもの...。
ウィッグ着けてこの衣装来てたらそりゃあ男だと思われる。
しかも、僕の声は男と言われても問題ないくらいだし。
というか、称号に女子高校生ってあるけどなにこれ??
Lvが16なのは多分僕の年齢だ。向こうではこれは存在しなかったから、年齢をLvとして表示したのだろう。
「どうでしたか?」
あ、これ他人には見えないのか。
アドルさんには、話した方がいいかな。
...いや、ここはひとまず男のフリをしてよう。
「いえ...。ただの普通の人ですよ、僕。アドルさんの職業ってなんですか?」
「自分は、騎士ですが...」
「そうですか」
はあ、どうしよう。
うん、やっぱまずは普通の服に着替えたい。
「あの、着替えとかあります?普通の...」
「着替えですか...。ここには無いと思います。手配しましょうか?」
「...大丈夫です」
残念。あ、そうだ、外套を外したらいいんじゃないか!?
外して、隅に置いてあった立ち鏡をちらっと見た。
...なんか、貴族っぽい。
まあいいや...。
「アドルさんは僕の護衛人らしいですけど、僕なんかに必要なんですかね?別に命を狙われているわけでもないし...」
「万が一の為に、です。私は扉の前に居ますので、どうぞ休んでください」
「...え、僕が寝てる間ずっと部屋の前に居るんですか...?」
「そうですが?」
「え」
この人、僕の世界に生まれてたら社畜と化していただろう。
「アドルさんも休憩とか取らないと...」
「私は大丈夫です」
どや顔で言われて、僕は言葉を失う。
何言っても駄目だ。
「それでは」
「は、はい」
アドルさんが部屋を出た。
現在の時刻は10時40分。1時間も経ってた。
ベッドにそっと体を倒す。
うわ、めっちゃ寝心地良さそう。
疲れていたんだろう、僕はそのまま寝てしまった。
***
「おはようございます、小鳥遊様」
「んぁ...?はっ!あ、アドルさん、おはようございます...」
7時か...。
って、あのまま寝ちゃったのか!
ウィッグ大丈夫か!?
.....よし、大丈夫だ。ガチガチにしといて良かった。
「9時に王太子様との面会があります」
「.....え、おうたい、し??なんで??」
思わずタメ口になってしまった。
「王太子様が小鳥遊様に会いたいと仰っていましたので...」
「ま、マジですか...」
「マジですね」
ちょ、笑顔で言わんでも...。
.....あ、王太子に会うんだよね...?
聖女ってこと隠して、その後バレたら処刑もんじゃね?
え、やば、どしよ。
.....やっぱり、話すべきか...?
でも、話しても既に僕を男として認識している人達が信じるだろうか。
魔法の使い方全然わかんないし。
アドルさんには話すか.....!?
「.......た、小鳥遊様?」
「はいっ!!?す、すみません、なんでしょう?」
「...散歩に行かれますか?まだ外に出られていないようですし」
「...いいんですか!?行きたいです!」
***
「すご.....」
僕は王城の中庭に連れてこられた。
様々な花達が風に揺られている。
綺麗だなぁ...。
「あれ?」
枯れてしまっている花を見つけた。
...薔薇だ。
僕は花の中で、薔薇が一番好きだ。
だからというわけではないが、治してあげることはできないか?
「枯れてますね...。庭師が植え替えに来るでしょうし、放っておきましょう」
アドルさんが言う。
でも、この薔薇が可哀想だ。
本当なら、周りと同じように、美しく咲きたいだろう。
どうしても治してあげたかった僕は、
「.......治れ」
何故か、そう言っていた。
その瞬間、枯れていたはずの薔薇がどんどん白くなって、すっかり周りの薔薇と同じようになった。
「「...!?」」
僕も、アドルさんも驚いた。
まさか、僕が聖女だから?
「今のは...小鳥遊様が...!?」
「.............いえ、違いますよ...。きっと、遠くで誰かが治してくれたんですね!」
「ですが、確かに今のは聖女様の力...」
「さ!次はどこに行きましょうか!!」
移動してる間に、僕が熱心にありもしない事を説明すると、なんとか納得してくれたようだった。
廊下の時計を見ると、7時34分。
あと約1時間半か...。
「ここは、王城付きの騎士達の訓練場です。見ていかれますか?」
「はい」
中庭から少し離れた、グラウンドみたいな所。
そこでは、騎士さん達が懸命に剣を振っていた。
「あれ...?あ、アドルさんじゃないですか!」
「アドルさんだ!」
「おはようございます!」
こちらに気づいた騎士さん数人が挨拶をしてきた。アドルさんに。
「アドルさん、騎士団長か何かですか...?」
「元騎士団長です」
「え」
マジか...。騎士団長だったのか...。
なんで護衛人なんかやってるんだろう...。
「ん?その人は...もしかして、昨日の夜召喚された人...!?」
「男だった~とか言ってたけど、結構女顔じゃねぇか?」
「女装似合いそうだよな」
いや、女ですけどね。
「小鳥遊紫暮です。よろしくお願いします」
とりま笑っとこ。
「「かわいい...」」
...騎士さん達、訓練しよ、訓練。
「何歳なんだ?」
誰かが聞いてきた。
「16歳ですけど...?」
「若っ!」
「その歳で召喚されたのか...。辛いだろうな...」
「俺達が支えてあげるからなっ...!!」
優しい人達なんだろうが、距離を置きたくなってきたのは何故だろう。
「小鳥遊様、そろそろ向かいましょう」
「あ、はい!じゃ、じゃあ、また今度...」
「「またなー!」」
元気な人だなぁ...。
***
現在、9時10分。
僕は物凄く広い部屋にある豪華なソファーに座っている。後ろにはアドルさんが居る。
.....予定だと9時からだよね?
まあ、王太子様なんだし忙しいんだろうけどさ。
「すまん!遅れた!!」
ドンッ!!と扉が開いたと思ったら、男性がズカズカと入ってきた。
そしてソファーに、どすんと座った。
この人が王太子様...?
青髪に青い瞳。すんごいイケメンだけど...。
「んで、タカナシシグレというのはお前か?」
「は、はい。小鳥遊とお呼びください」
「じゃ、タカナシ。今回の件に関してはすまなかった。我々の責任だ」
「え...」
王太子様は頭を勢いよく下げた。
「ちょっ...!?王太子様っ!!?」
「.....お前、歳は?」
頭を上げながら、そう聞かれた。
「じゅ、16です」
「.....そうか...。俺は来月で20歳になるが、もしもお前の立場にいたら大激怒していただろう」
「.......お、王太子様は悪くありませんよ...!僕は、気にしてませんから...」
勿論、そんなわけはないが。
怒っているわけではないし、取り敢えずそう言った。
というか、これでもう僕は聖女とバレるわけにはいかなくなったな。
「...ありがとう。何か欲しいものがあれば、なんでも言ってくれ」
「.....じゃあ、平民が着ているような服を」
「.......そ、それでいいのか...?」
「はい」
「わ、わかった。おい、手配しろ」
「はっ」
王太子様の後ろにいた数人の護衛人さんの内の1人が部屋を出て行った。
「...もうこんな時間か...。すまない、次の仕事があるので、失礼する。アドル、タカナシを頼んだぞ」
「承知いたました」
「じゃあな、タカナシ」
「はい!」
王太子様と、護衛人さん達も出て行った。
「はーー!!緊張したー!」
「お疲れ様です」
疲れてはないけどね。
はあ、これからどうしようか。
聖女であることは隠さないといけないし...。
剣士にでもなろうかな...。
剣士...。剣士.....?
お、いいじゃん!
皆僕を男だと思ってるんだし、剣術を学べば暇もできないだろう。
「よし!剣士になるぞー!」
「はいっ!?」
2人しか居ない広い部屋に、僕の声が響いた。
どうも、柊です。
色々とおかしな所あるかもしれませんが、ご了承ください...!
誤字・脱字等ありましたら、ご報告ください。




