アイラブシスター
今描いてる連載漫画、「ただ今10時ぴったり可愛い後輩にキスをされました。」の気分転換に書いてみました。
チチチチッ…チュンチュンッ
鳥達の鳴き声が聞こえる。そのすぐあとに心地の良い声が途切れ途切れに聞こえてくる。
「ーーいーーー…か」
「しいーーー…か…」
「椎華!」
その心地良い声がはっきり聞こえてくる。
「ん…、おはよ、椎奈。」
「おはよ!椎華起きるの遅いよー!」
腰に両手を合わせてギャルゲの、妹キャラのように振る舞う。椎奈は可愛いから良いんだけど。ギャルゲの妹キャラのようにとか言ったけど本当に妹だしね。まぁ双子だし、誕生日もほぼ変わらないけど。
第一一卵性だから、誕生日だけでなく、身長もほぼ変わらないし、ていうか全くおんなじだ。体重も一緒だし、私は違うと思うんだけど、みんなからは、椎奈と私を間違えて呼ぶことも多々ある。椎奈の方が10000倍可愛いと思うんだけどみんな目が悪いんだと思う。それに、私達は髪型もストレートのロングでおんなじようにくくってる。分かりやすいように変えようとは思わないけどね。あ、自己紹介が遅れたね、私は日比谷椎華。双子の方は椎奈。
「椎華ー!ご飯食べよー!」
「はーい!」
やったぜ。椎奈のご飯だ!何故椎奈がご飯を作っているのかというと、うちの家は、2年前に両親が海外に出張で行ったので、私達2人で、この大きな家に住んでる。この家は本当に大きい。まじで。多分私達はお嬢様というものなんだと思う。父はとある会社の社長で、母はその秘書だ。だから椎奈も料理に慣れてきたものだから、椎奈の料理は本当に美味しい。
「「頂きまーす。」」
2人で声を合わせて、合掌する。
今日の朝食はご飯と卵焼き、納豆とシャケの塩焼きだ。うーむ!旨そうだ!
「うっまー!めっちゃ美味しいよ椎奈!」
「えへへ。そっか、たくさん食べてね!」
少し照れた様子で嬉しそうに笑う椎奈。まじ天使。
「うん!おいひー!」
「もぉー食べながら喋らないの!」
そんな注意をしながらも、椎奈は、嬉しそうだ。
私は言うまでもないと思うが、シスコンだ。だけど、それは椎奈も同様で、私のことが大好きなんだと思う。でも私の好きはちょっと違う訳で、なんとなく想像はついているだろうけど、私の椎奈に対する好きは恋愛感情、いわゆる性的な方
の好きだ。
だから、今だって思ってしまう、彼女の口や、しなやかな身体、長い脚に、細い指。全てを私で壊してしまっているところを想像すると全身がゾクッとして、鼓動が速くなり、身体も熱くなる。
「椎華?どうしたの?美味しくなかった?」
動きを止めた私を心配して見つめる椎奈。こういう時私は胸がズタズタになるほどの罪悪感を覚える。
「んーん。なんでもない、おいしいよ。ちょっと考え事してただけ!」
「そう?」
こんな事で心配にさせてはだめだ。彼女は純粋に姉妹として私を見ているんだ。私も早く大人にならないと。
「「ご馳走様でした。」」
椎奈は素早くお皿の片付けを始める。
「椎奈、私も手伝うよ。」
私は一つの皿を左手に乗せる。
「ふふっ、ありがと。」
椎奈は嬉しそうに笑う。大きさがバラバラの皿を3枚ぐらい左手に乗せてから洗い場に持っていく。椎奈はそれを受け取って、水でさらしてからスポンジで洗う。私に背中を向けて鼻歌を歌いながら。
「椎奈。」
その背中を見た途端私は椎奈の腰に手を回して、優しく抱きしめた。
「ひゃっ!し、椎華!危ないでしょー!?」
もー。と言いながら洗い物を続ける。このままベットにでも連れて行ったら…。椎奈が知らないからって何考えてんだ私。最低だな。
「ごめんごめん。洗い物する椎奈見てたら母性を感じちゃって!」
「母性って何さ!そんなに老けて見える?」
頬を膨らまして拗ねる。可愛いなぁぁぁぁっ!
「見えないよ。椎奈は可愛い。可愛いよ。」
大事な事だから二度言った。
「もー。私が可愛いなら椎華の方はめちゃくちゃ可愛いじゃん。」
顔を赤くして少し照れくさそうに言う。いやいや、それよりも何言ってんだこの子?私の方が可愛い?椎奈の方が10000倍可愛いだろ!?そんなことを真剣に考えていたら椎奈が、
「よし、終わったよ。顔洗って学校行こうか。」
「うん。」
バタバタと用意をして、玄関に出る。ガチャと、音を立ててドアを開ける。
「いこ、椎奈。」
「うん。」
そう言って私達は手を繋いで登校する。勿論恋人繋ぎだ。私が始めたら、すっかりそっちでおさまった。
「もう5月なのにまだ肌寒いね。」
「そう?結構ポカポカだけど。椎奈は寒がりだもんね。」
高校入りたての頃は、私達は父や母の世話係のような人にベンツで、学校に送り迎えしてもらってたのだが、私が椎奈ともっと時間をかけて登校したいと言ったら、椎奈も『私もそれ思ってたの!』とか言い出して(あの時は本当に嬉しかった)2人で登校するようになった。ついでに言うと私達は高校2年だ。
ある通りを抜けると、私達と同じ制服の、女子生徒がゾロゾロと歩いていて、(女子校だから)口々に喋っている。ここはお金持ちの学校とかでは無くて、普通の私立の学校だ。(私立の時点の時点で、金かかってんだけどね。)
「ひーびーやー姉妹!」
そんなことを言って私達に抱きつくこいつは、バカで能天気な私達の親友の加賀なごみだ。
「なごちゃんおはよ。」
「なごみ痛いから辞めて。」
「おう椎奈おはよ!椎華もおはよ!辞めねぇぜ〜!」
「はぁ、おはよ。」
私が観念したような溜息をつくとゲラゲラ笑ってた。
「て言うかさ、お二人さん恋人繋ぎじゃんか。噂の信ぴょう性が上がっちゃうよー?」
噂とは、私と椎奈が付き合っているという馬鹿の妄想だ。
「別にいいよ。周りがどう思おうと私が椎奈と一緒にいることが駄目だとは思わないし。ていうか一緒にいたいし。あいつらは好きに思えば良いんじゃない?」
「そうだよねー。第一私達が付き合うとかありえないよね。姉妹なんだし近親相姦に、なっちゃうよー。」
そんな言葉に私の心臓は止まりそうになるくらいにショックを受けている。胸が痛い。それでも返す言葉を言う。冷静に、普通に、おかしくないように。
「うん、ありえないよね。あいつら凄い妄想するよね。」
そう言って投げ出すように笑った。本当は胸が痛くて泣きそうになっているのに。笑えないのに。目頭が熱くなっていく。早く、教室に…じゃないと涙が溢れてしまう。
「そういえば椎華、私達用事あったよね。だから声かけたんだったわ。んじゃなー椎奈!」
そう言ってなごみは私の腕を強く引く。あぁ良かった。なごみが私の気持ち知っててくれて良かった。
「おい椎華。大丈夫か?」
「くっぅ…。ズッ、グスッ。な……み。なご…み、ありがとぉ」
ボタボタと、涙が床に落ちる。すると、なごみが私を強く抱きしめる。一瞬びっくりしたけど今はなごみの優しさを噛み締めることにする。私が泣いている間、
なごみは黙って、私を抱きしめながら頭を撫でてくれた。
「ズッ、ありがと。なごみ。」
そう言って抱きしめてもらっていた手を掴んで離す。
「いや、もう大丈夫か?」
少し悲しそうにしていたように見えたが気のせいか?
今は私を心配そうに見てる。私(達)は身長は高い方で167.8だけど、なごみはめっちゃ高くて、173ぐらいある。顔は綺麗だから女に見えるけど、でかい。
だから普通は私を見下げる形になるのだが、壁に体重をかけて腰を低くして私と目線を合わせやすくしてくれる。
「ん。もう大丈夫。ありがと。」
鼻水をすすってから、柔らかく笑ってみせる。
「そっか。なんかあったら言えよな。」
「できるだけ、何もないようにしたいんだけどね。」
柄にも無く真面目言ってくれるから恥ずかしくなって冗談を言ってみる。
「本当になー、椎奈は気付いてねぇみたいだけどお前のメンタルは豆腐だもんな。」
なごみは私の冗談に乗ってくれる。本当にいい奴だ。
「じゃそろそろ戻るかー!」
伸びをしてスタスタと歩いていくなごみの後を追っていく。なごみと私は同じクラスで椎奈は隣のクラスだ。
ガラッ
扉を開けて2人で入って行く。入ると、ていうかさーやら、昨日のドラマ見たー?とか、色々な話が聞こえてくる。
「あ、椎華〜!なごちゃん〜!」
だらし無い格好でポッキーを貪り食べる、集団に呼ばれる。
「だらし無い格好しすぎだろもう少し気ぃ使いなよ。」
私がそういうと、おかしな意見を言われる。
「何に気ぃ使うのさ、男もいないなら机にでも気ぃ使うの?男ほしぃーー!!」
こいつらはパラリラ軍とか言われてて、男ほしぃーーが、口癖のバカだ。
「ていうかさー、日比谷姉妹となごみみてたらこいつらにやられテェーってたまに思うんだよね!」
「あ、わかるわー!」
「おい、お前等そっちに走ったの?」
私が言えないけど何言ってんだこいつら。
「日比谷姉妹は金もあるし性格も顔もいいだろ!将来有望だなぁー!」
そんなことをパラリラ軍の1人が発すると、なごみが口を開く。
「それは分かる。こいつら可愛いよな!!嫁に欲しい!特に椎華!」
「私は椎奈派だわー」
なんて馬鹿な会話が始まる。そうだったなごみはこう言う奴だった。
ガラッとドアが開く音が聞こえる。そっちを見ると1人の女の子が私となごみを見て、気まずそうに下を向く。なんだ?まぁいいか、話題を変えるが、このクラスはほぼ全員が椎奈と私の噂がデマだと知っている。
「ウラー席つけぇ!」
担任が教室に入って来てみんな席に着く。学校はいつも通りですぐに昼休みになる。
「はぁ、疲れたぁぁぁ。」
なごみは伸びをして学食のラーメンを口いっぱいに食べる。
「はい、椎華。お弁当食べよ?」
「ふふっ。ありがと!」
嬉しそうに笑うと椎奈も優しく微笑んでくれる。
「「頂きまーす」」
私は椎奈特製弁当を食べる。
「うまぁ!美味しいよ椎奈。この肉巻き美味しい。」
流石私の嫁。(妹だけど)
「そう?ありがと!もっと食べてね。」
幸せそうに私を見て笑う椎奈は本当に可愛い。
「「「ご馳走様でした。」」」
3人で手を合わす。
立ち上がって、学食をでようとすると、「ねぇ日比谷椎華となごちゃんがさ抱き合ってたんだってさ」なんて、聞こえて来た。それはなごみも聞こえていたようで、血相を変えた。
「なご…み。」
「ーーっ!」
心配そうに見つめると、なごみは顔が真っ赤だった。
「ん?どしたの2人とも。」
椎奈がこっちを不思議そうに見る。
「「なんでもない!」」
2人でハモらながら、答える。
「えー」
不服そうに眉を寄せる椎奈。可愛い。そんなこんなで心配だけど、教室に入って行く。すると教室に入った途端視線が私となごみに集められる。
「え、なに。」
怖い。なんか異様な空気で息苦しさある。するとパラリラ軍の1人が私達に駆け寄ってヒソヒソと話し出す。
「なんかさ、あんたらが抱き合ってたとか言う噂が流れ始めて付き合ってるんじゃないかとか、いわれてんだけど。まじ?」
2人で顔を見合わせる。そして苦い顔をする。
「え、まじなの?」
心配そうに見つめてくる。
「確かに抱き合ったっちゃ抱き合った。でも付き合ってない。ただのスキンシップじゃん。」
なごみがそう言う。すると
「スキンシップって感じの雰囲気じゃ無かった!日比谷さん泣いてたし!」
私達を見て気まずそうに下を向いた女子生徒だった。
「…ざけんな。」
なごみが拳をぎゅうっと強く握る。
「ふざけんじゃねぇーぞ!下らないことで私達の友達関係崩そうとしてんじゃねぇーよ!こいつが泣いてたのは、こいつが彼氏に振られたからだよ!それをあやしてただけだっつーのに、ばかみてぇな噂流しやがってこのクソ野郎!」
本気で怒ってるなごみを見たのは久しぶりだ。ていうかちょっと待て、彼氏に振られたってなんだよ!
「ちょっ!ちょっと待って!彼氏にって…おい!」
抗議の視線を送る。
「え、椎華彼氏いたの…?私に黙ってたの?なんでさ!なごちゃんには、言うのになんで私に黙ってたの!?椎華のばかぁー!」
「えっ椎奈!?ち、ちがうんだってば!そう言うんじゃ無いの!黙ってたって言うか、えっと、その、!」
椎奈の泣き顔にオロオロする。
「もう!椎華のばかぁぁぁぁっ!!」
椎奈は走り出す。
「…馬鹿。椎奈に馬鹿って…。うぇぇぇっ、どうしようなごみぃ椎奈に嫌われたぁぁぁっ!」
ボロボロ涙をこぼす私を見てなごみはオロオロとする。なごみと私の噂はチリの様に跡形もなく消え去って日比谷姉妹が喧嘩したという噂に塗り替えられたのだった。
下校時間
「し、椎奈ぁ〜。一緒に帰ろ…。」
となりのクラスのドアに隠れて椎奈を呼ぶ。
「…1人で帰る。」
そっぽを向いて1人で下足へ向かって行く。
「…え。」
私にはショックが強すぎて頭が追いつかなかった。
結局頭が追いついて整理するまで(単刀直入に言うと、体が動くまで)4分かかった。
「…はっ!追いかけなきゃっ!」
やっと気付いて下足へ走る。
「追いかけんの遅いよ、椎華。」
目の下をぐっとして、目に涙を溜めながら怒ってくる。
「はぁはぁ、待っててくれたの…。良かった…。」
良かった…、本当良かった。
「早く帰ろ。」
グイッと腕を強く引く。強く握りすぎて痛い。
「ねぇっ、痛いよ椎奈!」
「………。」
「椎奈?」
椎奈は黙って私の腕を強く引く。早足で歩くから、すぐ家に着く。
ガチャリ。
「靴脱いで。」
「分かってるけど…。」
なんかめっちゃ怒ってない?ここまで怒ることじゃ無いでしょ。そんなことを考えながら私はノロノロと靴を脱いだ。
「ここ、座って。」
椎奈はリビングのソファーを指差す。
「え、うん。」
私は素直に座る。すると椎奈は喋る。
「椎華…。彼氏、出来てたの?」
「えっ…。」
やっぱその話題か。なごみがあんなこと言うから…助かったけど。
「別れて泣いたって、言ってた。」
「彼氏なんか出来たことないよ!それに…あれは、訳があって。」
「訳って何?なんで泣いてたの?なんでなごみにばっかり頼るの?私にもっと…もっと頼ってよ!」
涙を流しながら大きな声で叫ぶ。なんで泣いてたのって…。あんな理由で椎奈に頼れる訳無いでしょ!
「なんでって…聞きたい?」
ソファーから離れて、押し倒した椎奈の頬に手を添える。
「え…。」
椎奈の目は湿っていて、微かに揺れていて動揺を隠せていない。少し怯えているのか震えている。
「…やっぱ椎奈にはまだ早かったかな。とりあえず彼氏は出来てないし、泣いてたっていうのは忘れて。」
私は微笑んで、震えている椎奈の頭を撫でる。あんなことしたんだ。少しは想像したんだろう、それを踏まえて怯えたんだ。私にそういう事をされたら嫌だという事だろう。私は自分の部屋に戻る。広いリビングに椎奈を置き去りにして。
パタンッ
自室の扉がゆっくりと閉まる。
「はぁ…。やっぱり漫画のように幸せになんてなれないんだ…。諦めたいなぁ、無かったことにしたいなぁ、もう……やめたい。」
私の目は熱くなる。それとは裏腹に私の体と心は驚く程に冷たくなった。頬に涙が伝い顎に溜まり青いカーペットに音も立てずに落ちる。
ピリリリリッピリリリリッ
スマホから着信音が鳴る。誰だ…。そこにはなごみの名前があった。誰かにすがりたい気持ちでなごみの電話を受け取った。
「もしもし、なごみ?」
「…泣いてたのか?」
探るように私に聞いてくる。
「うん。もう…椎奈の事は諦めることにしたの。現実は漫画みたいにはいかないよね。」
乾いた笑いを漏らすとなごみは強い声でいう。
「私は漫画みたいにはいかなかったけど思い通りにはなったよ。」
「そっか、」
「ねぇ、椎華、今から会おうか。」
なごみに頼ったら椎奈がまた…なんでこんなに心配になってんだよ。やっぱ無理だよ。
「なごみぃ…無理だよ…諦めるなんて無理だよ。まだ好きなんだよ、嫌いになんて…姉妹としてみるなんて無理だよ、助けてよぉ…。」
グスグスと泣きながらなごみに訴える。また迷惑かけちゃった。ごめん、なごみ。ごめん、ごめんね椎奈。こんなお姉ちゃんでごめん。
「今お前の家の前にいんだけど。出てきなよ。」
また頼ってしまう。最低だな私。それでも誰かにこのどす黒いものを体から出させてほしい。溜め込むのはやっぱりしんどい。
ガチャッ、
「なごみ…!」
「…酷い顔だよ、椎華。」
そんな事を言いながらも抱きつきかえしてくれる。
「椎華どうした…の…。ーっ!?なんでなごちゃんがいるの!?」
「椎奈…。え、えっとまだ悲しいみたいで!あはは…」
ごめんなごみ、そのネタさっき思いっきり終了させちゃった…。
「私が泣き止ますから、なごちゃん帰っていいよ。」
椎奈は無理やり私となごみを離れさせる。
「えっちょっ!?」
なごみが焦る。私も焦ってます。
「なごちゃん、バイバイ。」
聞いたこともない冷たい声で椎奈は言う。
バタンッ
ドアの音の大きさにびっくりしている間もなく、強い力で引っ張ってくる。乱暴にソファーに投げつけられる。
「…っ!痛いよ。どうしたのさ、し…」
「椎華!私言ったよね!私をもっと頼ってって!」
なんでそんなに頼って欲しいんだよ。頼ったらそれはそれで怯えるくせに。震える癖に…。最後に傷ついて泣くのは私じゃないか。椎奈のせいで傷ついたのになんで繰り返し繰り返しに私の心をぐちゃぐちゃにするの。もう、痛いのは嫌だ。もう椎奈のことなんてなかった事にしたい。
「なのになんでなごみにばっかり頼るの!?」
プツンと、私の大事なもの全部を繋ぐ糸を切られたような気がした。
「私が泣くのは全部椎奈のせいなんだよ!?椎奈には無理だ!泣き止ますのも、あやすのも!椎奈は私を楽しませるか、苦しませるかしか出来ないんだよ!椎奈が私を選ばないから!怯えるから!」
悲惨な叫び声がリビングに響く。
「私怯えてなんか…!」
ガタンッ
椎奈の胸ぐらを掴んで床に押し倒す。
「怯えてるよ。今だって震えてる。気づかないふりしてるだけなんじゃないの?馬鹿みたい。苦しんで泣き叫ぶ私に気づかないふりして椎奈は私を置いて先に進まんでしょ?知ってるよ。今までもそうだったもん。
影で泣いてる私に気付くそぶりも見せずに先を歩いて行くんだ。」
ここまできちゃったらもう止まらない。涙も言いたいことも。
「気づかないふりってなにさ!?なにに気づかないの?分かんないよ!」
胸ぐらを掴む力を強くする。
「黙れよ…。」
そのまま無理矢理キスをする。多分このことは忘れないだろう。冷え切った柔らかい唇に驚きと戸惑いで大きく揺れる潤んだ瞳、力の抜けた体。それと、ガタガタと震える体。その全てが愛おしくて。それ以上に苦しくて。口を無理矢理開けて、自分の舌をねじ込む。やっと抵抗する意識が戻ったのか、腕で私を離そうとする。ろくに力なんて入っていないけど。
「ーっやだぁ!」
ヒュッヒュッと、呼吸が出来ていなかったのか、息を吸うのに必死だ。私を見る目は先程とは違い、拒絶と恐怖で満ち溢れていた。
「あはっ、あはははっ!やっぱり…」
無理だよ椎奈。もうダメなんだ。ボタボタと、床に大粒の涙が落ちる。
「ごめんね…ごめん…こんなお姉ちゃんでごめんね…。生まれてきちゃって…ごめんね。」
「椎華…。」
そんな声で呼ばないで。
「椎奈…好きになっちゃってごめんね?」
今笑える精一杯の笑顔を、椎奈に見せる。出来るなら全部やり直したい。生まれた頃から。絶対に椎奈の事は好きになんてならないから。
「っばかぁぁぁっ!!」
バキィッ!
思いっきりグーで殴られた。思考が追いつかなくて、椎奈に殴られた痛みだけが私の脳をゆらす。痛い。
「…え?」
「私はっ、全部嬉しいよ!こんな馬鹿なお姉ちゃんに生まれてきてくれて!す、好きって言ってくれて!椎華は馬鹿だよ?でも、それ以上に優しくて笑う顔が誰よりも綺麗で!2年以上ご飯を食べた時は、必ずいっつも美味しいって言ってくれて、私が泣きそうになった時は誰よりも早く気付いてくれて!さっきだって、無理矢理キスした時ごめんねって、ちゃんと謝ってくれたもん!それに!キスしてくれた時嬉しかったの!無理矢理だけど、怪我するような事、体を傷つけることなんてしなかったもん!好きって言ったことごめんとか言うな馬鹿ぁぁっ!」
はぁはぁと息を荒げて、言う。あぁなんでこんなこと言うのかなぁ、諦められないじゃん。
「じゃあ私は、この気持ちをどうすればいいのさ!?椎奈自分が言ってる意味分かってる!?このまま苦しめって言ってるようなもんじゃん!」
「じゃあ私と付き合えば良いじゃん!こんなことする前に、告白しろ馬鹿!このクソ馬鹿野郎!!」
「は?」
は?何言ってんの、この子。今なんて言った?付き合うとか言う単語が出てきたんだけど。
「だっだから、もぉ…!」
顔を真っ赤にする。なんだそれ、そんな簡単にいくもんなの?こんな簡単で良いの?
「椎奈。好き。私と付き合って。」
真っ直ぐに伝える。これでふられるとか無いよね?
「良いよ。あんなことする前に言ってよ!馬鹿…。」
本当に漫画みたいにいった。なごみありがとう。
でも今は黙って椎奈を抱き寄せる。
「椎奈っ椎奈っ!」
「も、もぉっ何さ!」
「キスしたい。さっきの続き。次はもっと優しくするから。」
椎奈は黙って目をつぶってくれる。柔らかい唇にキスをする。先程とは違ってあったかい。可愛い。口を離すと少しの沈黙の後に椎奈が口を開く。
「椎華…何かあったら私に言って。私以外あまり頼らないで。」
あぁ、可愛いな、なごみに後でメール送らないと、まずはじめに感謝の気持ちと椎奈と付き合ったこと、私の気持ちあと、私は妹を愛してるということを。