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純粋な人

作者: 波ル
掲載日:2017/06/04

初めて書いた小説です。

本当に拙いのですが、ぜひ最後まで読んでいただけたら嬉しいです。


「車ってどっちの車線を走る方が良いと思う?」

先輩が車を運転しながらふと僕に聞いてくる。

少し前の車がゆっくり走っているのに退屈して何か話たいのだろうなと思った。

「え、左車線じゃないですか?」

こんな当たり前な質問に、当たり前の答えを求めているわけでは無いのはすぐに分かったが、先輩が話しを続けるためには、この返事が一番良いと思えた。

「俺はね、右車線を走る方が良いと思うんよ。」

「じゃあ、今は間違えているってことですか?」

「うん。綿矢はさ左走ることが正解だと思う?」

あ、いつものだと思った。


先輩はよく、自分が考えた答えをすぐには出さず、僕に意見を求めてくる。

つまり、自分の考えを話したいというより、一つの命題について僕と勝負がしたいのだ。


「日本において言えば左が正解だと思います。でも、国によって違いますよね?そんなことに正解ってない気がしちゃいます。」

この発言で僕の立ち位置は決まった。僕は左もしくは正解はない、先輩は右。

勝負と言っても僕が持ってきた命題ではないので、先輩の意見に僕が納得できるかどうか先輩の一方的な挑戦。

僕には勝ちがない。とても不利益な勝負に見えるが負けた方が楽しいのではないのか?と僕は毎回思ってしまう。


なぜ、負けた方が楽しいかというと、僕は自分の考えが正しいといつも思っている。それはきっと先輩もそうだと思う。

と言っても僕たちは大学の、高校の、部活の先輩後輩で、よく互いを知っているから先輩がそう思っていると断定してるわけではなく、ただ賢いのだ。

賢いと言ってもぼんやりとした感覚ではなく純粋に医学生であるということだけで言っている。

医学生が賢いということを言いたいのではなく、自惚れているという意味での賢さだ。人より幾分かは賢いと僕たちは思っている。

この医学生という同じ肩書きからくる賢さを持った2人が意見に賢さを乗せてぶつけ合い、珍しく負ける。

それは稀にみる自分の中での意識改革で同じ賢さであるが故に悔しくもなく、新しいものが入ってくるみたいで、楽しい。

今回の議題は車線。議題なんて正直何でも良いのだ。


「今日ね綿矢を迎えに行く途中に急に自転車が飛び出してきたんよ。で、慌てて急ブレーキを踏んだんやけど踏みながら思ったわけ、これ右車線走った方が良いなって」

「それ、右走っても右から飛び出してきたら一緒じゃないですか?」

「うん。一緒やと思うやろうなと思ってこの話したいんよ。」

そう言いながら前の車を抜いた。

先輩が嬉しそうに見えた。


「まず原則としてさ、右と左がある時点で必ずどちらかが正解だと思う。」

あ、全否定された。

「右車線を走った方が確実に事故率が下がると思うんよ。」

あ、ここまで繋げるのが目的地なんだと思った。


「何かが飛び出してきた時に接触を防ぐために大事なのは気付くまでの時間、ブレーキ踏むまでの時間、ハンドルの操作やと思うんよ。まあすぐ気付けば一番良いんやけどね。で、車線に関わるのはハンドルの操作だと思う。ハンドルを咄嗟に切る時って右に切る場合がとても多い。綿矢は違うけど右利きの方が多いよね?つまりハンドルの咄嗟な操作の時には右手で操作を行う人の方が多くて、さらに筋肉の構造上引く動作のほうが力が入るからハンドルは右に切る方が多くなる原因やと俺は思うんよ。」

確かに右手で操作するならば、そうだろうなと思いながら、先を読んでみる。


「確かに右に切りそうですね。それに右に座っているから、左に切ると自分自身が怖いですしね。」

「そうなんよね。だから、咄嗟には皆んな右に切ると思うんよ。で右に切ると左車線の場合対向車にぶつかる可能性があって事故率が上がる。右に切る可能性が高いと分かると、右車線の方が単独事故で終わって、安全だと思わない?」

そう聞きながら、ちらっとにやっとこっちを見てくる。

よそ見の方が事故率上がるんじゃ、と思いながらも、隙がないなと納得してしまう。

そうしているうちに右車線と左車線の両方ある理由は歴史的に見ても偶然である。ということを馬車の時代からであると説明を先輩がスピードをあげるのと同時にまくし立ててくる。

確かに何で、昔から統一しなかったのだろう。

いや、きっと統一しようと思った人はいるはず。

その時、統一しなかった理由があるはずで、多分経済的な問題なのではないかと思った。


先輩の右車線が良い理由の補足説明を遮り、

「確かにそうですね。右車線の方が良い気がします。」

と言いながら、僕は少し違和感があった。


その僕の違和感がまさに心から出て、物質に変わって飛び出していくように左から何かが現れる。

それと同時に違和感が解けた。助手席って、、と思った瞬間

先輩がブレーキを踏み、ハンドルを右に切る。

車全体に衝撃が走り、驚きに目を閉じその衝撃が僕の体に伝わった。


目を開け、まず自分の体を見て、全身に電気を走らせるように痛みがあるかを確かめる。

そして、その電気が全身から頭に戻ってくるのと同時に左を確認し、思考が働く。


「あ、右車線を走ったら運転手が死にたくないから左にハンドル切っちゃうのか。」

負けだ、と思って少しニヤつく。


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