遭遇
そう言えば、どこへ行くのかは聞いていなかった。
けれど、さっきまで木造の粗末な一階建ての家しかなかったのにいきなり雰囲気の違う建物が現れて驚いた。
それはガラス窓のついたレンガ造りの大きな洋館だった。
「この建物は誰かのお屋敷ですか?」
「まあ、、、そやな。
俺はここに住まわしてもらってんねん。」
もう辺りは真っ暗で、正面の扉の周りが白橙色に淡く光っていて扉の右の方に「鶯ノ館 (うぐいすのやかた)」と書かれている。
扉の前まで来ると、さっきまで私の腕の中でじゃれていたイタチみたいなのが急に私から下りて、タッタッタッっと森の中に消えてしまった。
彼は観音開きの扉を両手でスゥーーっと開いた。
最初は中は真っ暗闇だった。
けれど、すぐに、ボッボッボッっという音と共に壁のロウソクに火がついていき、玄関が明るくなった。
中は意外にも半分ぐらいが木造で、靴を脱ぐ場所もあった。
「おーーい。トキヨさーん」
少し時間が経っても、誰も来なかった。
「トキヨさん、この娘を風呂にいれてやって下さい。
ハルはまだですか?・・・・・・分かりました。
俺は着替えてきます。
あと、夕食お願いします。」
おかしい。
周りを見ても誰も居ない。
この人は大丈夫か?、という不安でいっぱいになった。
不意に左手の袖が引っ張られた気がした。
見ると、袖が少し宙に浮いてるので、ビクッとした。
「引っ張られる方に行ったら風呂場あるから。
まあ、とりあえずさっぱりしてき。」
言い終えるなり、彼は正面の向かいにある幅の広い階段を少し早足で上っていってしまった。
「ふ〜〜〜う」
大きく息をついた。
浴室は白いタイル張りで大きな浴槽が一つだった。
まだ色んなことが頭の中を、グルグル回っていた。
これから私はどうなるんだろうか?
グラグラした不安定な地面の上で、今にも奈落の底に落ちそうにしている気分だった。
「う〜〜ん」
頭をワシャワシャとかきむしる。
「やっぱり父さんに会おう。
そうしないとさっきまで見てきた生き物も別の世界のことも自分のことも分からない。」
そう考えて、ザバァっと浴槽から出たときだった。
「師しょ〜〜う、戻りま・・・・」
同い年ぐらいの男の子の声がした。
「ダッダッダッダッダッ」
足音が大きくなってきた。
「おい!! 誰やっ、っあ?」