体温
「カチャリ」
やっと手錠を外してもらえた。
さっきの騒ぎの後、ショウは後片付けや事後処理みたいなことを終わらせて、私を連れ出した。
塀の外の光景は異常だった。
まるで時代劇の世界に入り込んだようだった。
地面は土、建物は一階建の木造、行き交う人々は男も女も子供も着物姿だった。
道行く人たちが、薄い色の使い古したものを着ていたところに、生活感が出ていた。
しばらく歩き、馬小屋のようなところに入った。
「オヤジ、4番のやつ頼む」
店の人は一匹の馬を連れて来た。
どうやら馬借屋みたいな店らしい。
「ちょっ、この手錠外してもらえませんか?
落ちそうで怖いんですけど。」
馬の上で後ろに乗せられて、掴むところもなく、足も中に浮いていた。
ショウは無言で私と前と後ろを交代した。
ショウが手綱を持つと後ろから抱かれるような格好になった。
「俺に体重預け、その方が安定する。」
言われたとうり、後ろにもたれてみる。
背中と腰に彼に触れて、男の人のゴツゴツとした身体と、ヒトの温もりが伝わってきた。
少し恥ずかしかった。
そのまま馬を走らせて、町を出て、畑を抜け、小さな集落みたいな場所で馬を降り、今は木がうっそうと茂る山の山道の入口にいた。
もうすっかり夕方だった。
「手首痛ないか?」
「あ、はい、大丈夫です。」
鍵あるんだったらもう少し早く外して欲しかった。
「まだ結構歩くからな、頑張りや。」
薄暗い山道を歩いていると、細長い光る魚みたいなのが空を泳いでいたり、黒茶色の形がよくわからないものが蠢めい(うごめい)ていたりしている。
「あの、ショウ、、、さん?
あの、変なものが見えるんですけど。」
ショウはこっちを振り向いた。
「言うて無かったな、一応、俺の弟子ってことになってるから先生か、師匠って呼んでや。
自分、ああいうん見んの初めてなん?」
「はい、、、」
「さっきまで付けとった手錠な、あれは ‘‘流気封じ” (るきふうじ)、つまり、妖モノが見えなくなるやつやねん。
初めてってことは、自分の親父さん、自分の髪留めとか腕時計に ‘‘流気封じ” 仕込んどったんちゃうか」
脇のところに、小さなイタチみたいなのがスルスルと入ってきた。
頭を指で撫でてあげると、コロコロと可愛く懐いてきた。
「父は、、、、今、どうしていますか? 、、、、、せんせい?」
「、、、今んところ、尋問受けてるやろうな。
その先は知らんな。 牢屋に入れられるか、首切られるか、どう転んでもただではすまへんな。」
「父はそんなに、一体何をしたんですか?」
「もう少し、こっちの世界に慣れたら教えたるよ、ほれ、あれが俺の家や。」
小高い山の中、予想外のものが現れた。