光悦
「おいっ お前ら!!!」
低く、仰け反るような大声にビクっとなる。
「全員、そいつからはなれろ!
動けるヤツは動けへんヤツを避難させろ!」
そう言うと、ショウは刀を口にくわえ、黒い手袋をはめた。
「キーーーーーーー!! 」
さっきの気色悪い声を出しながら、化け物が彼に突っ込んで行き、モリのような前脚を振り下ろした。
ショウは刀を手に持ち、スルリと回転しながら避けた。
「ドサッ」
振り下ろした前脚の先が地面に落ちた。
いつ斬ったのか、全くわからなかった。
「キィァー」
化け物は何が起きたか分からずにたじろいだ。
その隙にショウは化け物の腹の下に入り、ズバッと脚を三本、切り落とした。
化け物は体制を崩し、前のめりにドォーーンと倒れた。
途端に砂埃が舞い、私は顔を腕で覆った。
目の端で、奇妙なものが見えた。
もがく蜘蛛の怪物の空を、彼が飛んでいる?
いや、飛ぶと言うよりも、空中を? 走ってる?
そのままショウは体制を変えると、縦にクルクルと回転しながら落下し始めた。
私はその姿に魅入っていた。
刀を抜いてから、その刃が怪物の頭を縦に真っ二つにするまで。
私は今、色々なことを感じていた。
父がどうなったのかという不安
これから私がどうなるのかわからない焦り
目の前の生き物が血を吹いて生き絶えていくのを見る恐怖
だが、一番強く感じていたのは、なぜか、ゾクゾクという高揚感だった。
そして、その目には、醜い怪物の死骸の前に血だらけでたたずむ、刃を持った男の姿が映っていた。