その男、語る
私は今、暗い階段を登っている。
警備の二人に挟まれて、前に長髪の男、後ろに白衣の女の人が狭い階段を一列に進んでいる。
前の男の頭を見上げる。
この人の話は結構長かったので、話の大筋しか覚えていない。
「お前の親父さんは昔こっちで生きてて仕事してたんやけどな、いわゆる・・・・、やったらあかんことやってな、今まで逃げてたんや。
そやけどな、昨日ついに捕まってな、、、、」
階段を登りきると、床が石で敷き詰められていて、壁と屋根は木造の粗末なところに出た。 今は裸足なので一歩一歩が辛かった。
小さな窓からは、小春日の日差しの下に
小さな雑木林が見えた。
「ということは、さっきまで私は地下牢にいたのかな」
少し歩くと、背の低い初老の、警備の人と同じ服を着た人が大きな棚の横に座っていた。
長髪の男と白衣の女の人がその人から何か渡されているところを見ると、荷物の預け所らしい。
長髪の男が荷物を受け取ってこちらを振りむいたとき、ギョッとした。
腰に日本刀を下げていたからだ。
「俺の名前はショウ。 呪術師をしてる。
まあ、色んな仕事を頼まれる便利屋みたいなもんやけどな。
呪術師っていうのはな、、、、」
もうすぐそこは建物の出口だった。
外に出ると日の明るさに目が一瞬眩み、春特有のビュッという風が服の隙間から素肌をなでた。
私は顔が少し熱くなった。
「さすがに恥ずかしい」
服を整えながら、周りを確認していると、
「バサッ」
何かが頭に掛けられた。
「今の時期でもその格好は冷える。
それ着とき。」
改めて、さっきよりも薄着になった、
このショウという男をじっくり見た。
キレイではないが、シュッとしている顔。
ゴリゴリではないががっちりとした身体。
一つに束ね、後ろの垂らした長い髪。
そして腰の刀。
「そういう訳でな、俺がお前の教育と世話任された。 よろしく、倉田綾、、、」
どうやら本当にここは牢獄だったらしい。
建物のまわりは高いで塀で囲まれている。
何やら細々とした手続きをした後、ショウと私と女の人は大きな門を出た。
すると、ショウが草履を脱いだ。
「さすがに裸足はきついやろ、これからまだ結構歩くからこれはいとき。」
女の人がヒューと茶化してショウが頭を叩くという、さっき見た様な漫才をしている間に草履を履いてみる、ブカブカだがこれ以上足が痛まなくなるのはうれしかった。
「んじゃあ、2週間後に百合の館にきてや、
それまでにその子に手出したらあかんで」
女の人は笑顔でそう言い残すと、一目散ににげていった。
「・・・・」
しばしの沈黙の後、ショウが切り出した。
「じゃあ、言ってたやつ見にいこか。」
さっきの話の断片が頭に浮かんだ。
「ここはお前がおった世界ちゃう。
ここはある力を持った人々が鏡の中に作った人工の世界。
信じられんくてもいい、でもな、‘ 今 ’ が知りたいんやったら、俺と来い。」