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風属性の剣使いの異世界物語  作者: SHIN=ALICE
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月下の風。

あれから数時間経った後だ。

族長に貸してもらった部屋のベッドで寝転がって、窓から差し込む月の光に照らされた俺はエルザ達に魔法を教えて貰った時の事を思い返していた。


俺はあの感覚が気になって仕方がなかった。

不思議に思うと同時にもう一度味わいたいと思っていた。


エルザに魔法を使って見せてもらったあの後、もう二度見せてもらった。

俺としてはまだ物足りなかったが、それ以上はエルザの魔力量が足りないので無理に見せてもらうなんてことはしなかった。

見た感じエルザも少し気だるそうだったので、かなりオドを消耗したのだろう。


それを見てたサージはエルザの気だるさの原因...風魔法の特徴について少し教えてくれた。


風適正者のオドは他の属性の適正者より自然回復速度がとても早く、他より短い時間でオドが全回する。

しかし、魔法を使う際の消費量はとても多く、初級魔法であっても連発するのは難しいのだ。


それを子供であるエルザが三発も放って見せたので、彼女の魔法の才能はかなり優れているのだろう。


戦闘においては威力に欠けている初級、中級の風魔法は使い物にならないというが...。


俺も魔法を使ってみたいと思い、エルザにコツか何かあるのかと聞いてみたのだが。


『詠唱しながら一つ一つちゃんと言葉の意味を理解して脳内でしっかりとイメージする。そして、体内のオドが膨れ上がったかなぁと感じた時に放つ!って感じかなぁ...?』


と、前半はともかく...後半は全く分からないような説明をされた。

エルザいわく、膨れ上がる感覚はやってみればわかると言っていたが、放つ時の感じは難しいらしい。

族長ことお爺ちゃんに一年間教わってやっと放てるようになったという。


サージは一応、風適正ではあるものの放つ感じがわからず魔法が未だに使えない。


衛士になるなら紋章を刻んでから鍛錬中にフィロードさんに教えて貰えば?と言われたのだが...。



考えれば考えるほどに使いたいという衝動に駆られる。


俺はまだ起きていた族長に風に当たってくると言い外に出た。


少しだけ村の外に出たかったが、入口付近で見回ってるフィロードさんに止められるだろうな。

なので、俺は昼間にエルザとサージの二人と行った空き地に足を運んだ。


時間としては日が沈んで四、五時間したぐらいなので他の住民が完全に寝静まってるわけじゃないのだろう。

ただ、寝ている人も多いかもしれないので静かにしなくてはな。

誰にも見つからないように。


何故なら俺は紋章を持っていない事を理由にエルザとサージから魔法を使うことを止められているからだ。


それなのに魔法を使ってみようと思っているわけなのだが...。


魔法を使ったことが無い人が魔法を使ったらどうなるか。


使った事がない人が魔法を使うと、体内に溜まったオドを放出するゲートと呼ばれる扉のようなところがオドの扱いに不慣れなために必要以上の量のオドを外に放出してしまうかもしれない。

それだけでも魔力枯渇を起こす可能性があるのだ。


それだけでなく、適正属性すら分からない俺が他の属性の魔法を使ってしまったら...。


そもそも何故、適正属性というものがあるのかというと、相性といえばいいのだろうか、自分に合う属性といえばいいのか表すのが難しい。

適正でない属性を使うと、魔力の消費量は倍増する。

つまり、魔力の枯渇や全損を引き起こしかねないのだ。


色んな属性を使ってみれば自身の適正属性が分かるかもしれないが、適正属性があるように、不適正属性というものもあるのだ。

適正が火属性なら高確率で水属性が不適正であるように、得意があれば不得意がある。


そして、不適正な属性を使うと魔力が倍どころの消費量では済まずにオドを全損するなんていう事もある。

不適正属性は使わないと分からないが適正属性は幸い紋章を刻むことでわかる。

そのために人は皆、適正以外の属性を使いたがらない。


不適正な属性がない者も、そうとは知らずに生涯を終えるのだろうな。

無駄なリスクを避けるために...。


この二つが重なり、オドを全損し亡くなった若者がいた。

それが多くの者が挑戦することを止めた原因なのだろう。


が、俺がやろうとしている事はその若者と同じだ。

同じ末路を辿る可能性もあるのだ。


俺はエルザに見せてもらった『風刃』の呪文しかわからない。

必然的に魔力消費量が多い風魔法を使うわけなのだが...。


何故だろうか...風が適正だと感じたのだ。

風魔法を使える感じというより風魔法が使って欲しいという感じがした。

変だけど魔法が使われたがってる、そんな感じがしたのだ。


「俺には放つイメージは湧かない...。」


独り言を呟きながら俺は右手を前に突き出した。


「だが、想像力ならあるつもりだ。」


右手をグーのように握ってから親指と人差し指だけを立てた。

子供が鉄砲だと言って作る形だ。

元の世界でも銃なんか使ったことがない学生なんだがな。

放つイメージならこれが最適な気がしたのだ。

エルザはイメージが大切と言っていたからこれで放てるだろう。


「────風よ。」


彼女の唱えた呪文を真似る。


オドが膨れ上がるってこの感じか。

ゲートが開いたのかなんなのか、体中を見えない何かが巡って力が漲る。

恐らくこれがオドだろうな。


十分に膨れ上がった、あとは放つだけだ。

俺はエルザの放った魔法を強くイメージして呪文の残りの部分を唱えた。


「鋭い刃を以て切り裂け!」


体が怠い事はない。

むしろ絶好調とでも言うべきか。

リスクはあれど、やる前から...いや、エルザの魔法を見た時からこれだと感じたのだ。

俺には風しかないと。


好奇心もないとは言えなかったが、やれば何かがわかると思ったのだ。

こう言うのも変だが、体が風魔法を使いたがったのかな。

知らないはずの魔法を。


「『風刃(エアエッジ)』!」


銃の引き金を引く瞬間をイメージして魔法を発動させた。

最後のフレーズ、魔法の名称を叫んで。


右手が緑色に煌めき出して...

次の瞬間、予想外の事が起きた。


魔法は発動した。

風が複数もの刃を形作り、俺の前方に向かって飛んで行った。

そのうちの一つの刃が切り裂ける草だけでなく、近くの木を...初級魔法の『風刃』では切り裂けるはずのない木の幹に深い切り跡を残し四散した。


体に気だるさなどない。

魔力は枯渇していない証拠だ。


ゲートは正常に働いた。

無駄に疲れたなんて事はない。

必要最低限の量のオドを使ったはずだ。


適正も風で間違いないだろう。

風魔法の威力は確かに予想外な威力を発揮したが...。


だが、気になったのはそこではない。



放った瞬間だった。



脳に電流でも流れたような痛みとともに過去の記憶の断片が蘇った。



俺は...



以前、魔法を使った事があった!?


「こ...れは...!?」



過去の俺の記憶がフラッシュバックする。


俺が十七だった時の事だ。


登校中に俺の近くを歩いていた女性が持っていたカバンを顔を隠した男が取って逃げたのだ。


ひったくりだ。


気が付いた俺は走って追いかけたが追いつく前に停めてあったバイクに跨り、発進してしまったのだ。


何を思ったのか自分の学生カバンを思いっきり、相手を吹き飛ばさんとばかりにぶん投げたのだ。


その時に腕の周りを風が渦巻いた気がした。

同時に力が漲った感じがあった。


偶然かと思ったが投げた学生カバンを見て驚愕した。

そして、普通じゃない事が起きたのだと確信した。


学生カバンはプロ野球選手の投げた玉なんかより二倍以上も速い...有り得ない速度で飛んだのだ。

無論、バイクと乗っていたひったくり犯は吹っ飛び男から無事にバッグを取り戻し女性に届けることが出来たのだが。


あの時の現象は奇跡か何かかと思っていた。

だが、今思うと魔法であったのだ。


あの時も偶然かと思いながら、力が漲った感覚は先ほど『風刃』を放った時のように全身をオドが巡って膨れ上がったのと同じ感じのものだった。



以前にも魔法を使った事があるという事実。

しかし、それが何を意味するのか。

この世界に来てしまった原因だとしたら?

だが、それ以上、俺の記憶が戻ってくることはなかった。


魔法を使った事がある...。

あの時だけだったのか?

全部思い出せればわかるかもしれないのにな。




俺は思い出した記憶の中と同じように、呪文を唱えずにイメージだけ魔法を使おうとした。

使う魔法は風属性の初級魔法『風刃』。

手を突き出し銃の形に似せて魔法のイメージをした。

そして、『風刃(エアエッジ)』とだけ呟いた。


手は緑色に煌めき、風の刃が放たれた。


「呪文を唱える必要なんてないのか...。」


俺は上級者でも扱える者が少ない無詠唱による魔法の発動を可能にしていた。

無詠唱という言葉も知らずに。


魔法で色々試したかったが、記憶を取り戻した時に発生した痛みがまだ残っていたので、今日は帰って後日に試すことにした。


せっかく使えた魔法で少し名残惜しいが、俺は空き地を後にしたのだった。




────────────




「おやおやぁ?もう無詠唱の魔法が扱えるとは...クククッ...こちらも実に面白いですねぇ...ウヒヒッ」


黒いローブを羽織った者が上空からリオンを観察していた。


「えぇ...面白いですねぇ...えぇ実に...!近々、魔物でも送り込んでみますかねぇ...ヒヒッ」


その者は随分と愉しそうににやけていた。

宙に浮いたまま落ちる気配はない。


「あぁ...しかし、他の子達も実に面白い...フフッ...君たちにはたっくさん楽しませてもらいますよぉ...?」


不気味にフワフワと浮いていた者はさらに高度を上げたかと思うと、今度は空の彼方へと飛び去った。


黒いローブが夜の空に同化して、気付く者など居なかった。

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