ルーのおかあさん
※注意※
本作では、フクロオオカミを侮蔑する表現が使われておりますが、本作はそれを肯定するものではありません。イジメは、ダメ・ゼッタイ!
しかし、本作にて不快に思われる方がおりましたら、この場にて謝罪させて頂きます。
どうか、お楽しみ頂けますと幸いです。
今年もどうか、よき年となりますように。
カンガルーのルーは、スキップをしながら森を歩いていました。
お昼の森はとてもあたたかで、ルーをお昼寝にさそいますが、ルーはそれでも、少し大きなカゴを手に、前に進みます。
「やあ、ルー、今日もおつかいかい?」
途中で会ったウサギのおじさんが、ルーににこやかに声をかけます。
「そうだよ! おかあさんに、お願いされたの!」
けれども、ルーがそう返すと、彼の顔はくもりました。
「ルー、あのなあ、きみは、おかあさんから、いつ離れるんだい?」
「離れないよ。ぼくはずっと、おかあさんと一緒にいるんだから」
どうしてそんなことを聞くんだろう、とピョンピョンはねながら、ルーは首を傾げました。そんなことをルーに聞くのは、ウサギのおじさんだけじゃありません。みんなみんな、ルーに声をかける度に、そんな悲しいことを言うのです。
確かにルーは、生まれた頃に比べると、だいぶ大きくなってきましたが、まだ親離れの時期ではありません。それに、幼いルーはまだ、おかあさんから離れる日が来るなんて、考えてもいませんでした。
「みんな、なんでそんなことを言うんだろう」
ルーは泣きそうになりながら、ようやく草原にやってきました。
草原の中央では、ねずみたちによるバザーが開かれています。
「こんにちは!」
ルーが元気にあいさつをすると、わらわらいたねずみは、口をそろえて「こんにちは!」と高い声で言いました。
「今日は何をおさがし? こっちの木イチゴなんて、おいしそうでしょ?」
「この手ぶくろはどう? これから冬が来るんだもの」
ねずみたちは、キーキー言いながら、いろいろなものを、すすめます。ルーはそれらに気になって首を伸ばしましたが、すぐにふるふると頭を振りました。
「今日はね、マフラーをさがしに来たの。ぼくの分と、それからおかあさんの分も」
「おかあさんの分も?」
ねずみたちは、集まってヒソヒソと話し始めました。
「きみが言ってる、おかあさんって、フクロオオカミだよね」
「ふくろおおかみ?」
なあに、それ。
ルーは、ねずみにたずねました。
「つまり、違う生き物が違うんだよ」
「しっぽの太さだって違うでしょ?」
「走り方だって違うでしょ?」
「食べるものだって違うでしょ?」
「ムカつくやつを、やっつける方法だって違うでしょ?」
ねずみたちは声をそろえて言います。
「なにもかも、違うでしょ?」
確かに、おかあさんのシュッとしたしっぽと比べて、ルーのしっぽは太いです。確かに、おかあさんは後ろ足だけでピョンピョンはねたりしません。確かに、おかあさんはルーと違って草を食べたりしません。
「でも…、でも………」
「ルー、フクロオオカミなんかと一緒にいたら、いつかきみは、食べられてしまうよ」
一番大きなねずみが、心配そうにそう言って、ぶるりと身体を震わせました。一匹がそうすると、他のねずみたちもぶるぶる震えはじめます。
「おかあさんは、そんなことしないもん!」
ルーは大きな声でそう言うと、カゴを放り投げて、森へ走り出しました。
「おかあさん、おかあさん!」
いつもおかあさんがいる、岩のところまでやってきました。岩の近くのほら穴から、「ルーじゃないか」とキンキン声が聞こえます。コウモリのおじいさんです。
「どうしたんだい。そんなに慌てて」
「コウモリのおじいさん、あの、ぼく…」
おかあさんをさがしてるの、と言おうと思っていたルーは、先ほどのねずみたちの話を聞いて、急に不安になりました。
「ぼく、おかあさんに、似てないのかな…」
コウモリのおじいさんは、それを聞いて、ケタケタ笑いました。
「今さら、何を言っておるんかな、この子は」
やっぱり。ルーは、自分はおかあさんの子ではないのだと、悲しくなりました。
「ルー?」
「あ、おかあさん!」
振り向くと、黄土色のキレイな毛をしたおかあさんがいました。たまらなくなって抱きつこうと走り出しましたが、その前に、「見つけたぞ!」と怒った声がして、ルーは思わずビクリと止まってしまいました。
「なんだい、あんたたち」
おかあさんは、不思議そうな顔で、突然やってきたうさぎやねずみを見ました。彼らは震えながら、「やい、フクロオオカミめ! とうとうやったな!」と言いました。
「これを壊したのは、お前だろう!」
そう言って、割れたガラス玉を見せつけます。そのキレイなガラス玉には、見覚えがありました。近く行われるお祭りで、みんなでこれを囲んで、おどるのです。
「何を言っているんだい、あたしゃそんなもの知らないよ」
「フン、しらばっくれても、だめだぞ!」
うさぎたちは怒っています。ねずみたちも、そうだそうだ、とおかあさんを責めました。
「ええい、うっとうしいね! そんなガラス玉ひとつで、なんだっていうんだい!」
「なんだとう!」
うさぎは言い返しましたが、おかあさんが怒って毛をさかだてたのを見て、キャッと悲鳴をあげました。そうして、自分ひとり、すたこらさっさと逃げていきます。ひとりが逃げたので、他の者たちも、顔を見合わせて、慌てて逃げはじめました。
残ったのは、おかあさんとルーだけです。
「おかあさん!」
ルーはおかあさんの近くに行こうとしました。けれど、おかあさんは、ルーに「来るんじゃないよ!」とほえました。
「あっちへ行きな!」
「おかあさん、どうして?」
ルーはしくしく泣きました。けれど、おかあさんはやっぱり近寄ろうとすると、怒ります。
「あたしはね、お前のおかあさんじゃないんだよ! さんざん世話をしてやったが、もうウンザリだ! さあ、あたしがお前を食べてしまわない内に、さっさとお行き!」
それでもうじうじとルーがその場に残っていると、おかあさんは、ルーのしっぽにかみつきました。
「痛い!」
思わずルーは、草原へと走り出しました。
草原に着くと、うさぎたちがひょっこりと顔を出しました。
「ルー! 無事だったのか、とうとう食べられてしまったのかと思ったよ」
おかあさんはそんなことしないよ、とは言えませんでした。なにしろ先ほど、食べてしまうぞ、と言われたばかりなのです。
黙ってしまったルーに、うさぎたちは「まあ、食べられる前に逃げられて、よかったじゃないか」「そうだよ、その通りだ」と口々に言います。
「でも、ぼく、これからどうしたらいいんだろう」
ルーは、しょんぼりしました。行くあてなんて、無いのです。
うさぎたちは顔を見合わせました。
「それなら、ほんとうのおかあさんをさがしにいきなよ」
「うん、それがいいよ」
「ほんとうのおかあさん…」
ぽつりとつぶやいたルーに、うさぎたちは、それがいい、それがいいと、しきりにすすめます。すすめられると、そうしなくてはいけないような気がしてきました。なにぶん、どうすればいいのか、幼いルーには分からなかったのです。
「でも、ほんとうのおかあさんって、どこにいるの?」
首をかしげたルーに、一匹のうさぎが言いました。
「ぼくらは知らないけど、ねずみなら知っているかもね」
そんなわけで、ルーはねずみたちのところへやってきました。
「やあ、ルー」
「食べられなくてよかったね」
「うん…」
ルーはしょんぼりしてから、うさぎたちから聞いた話を、ねずみたちに話しました。ねずみたちは、「それはいい!」と手をたたきます。
「それなら、カンガルーの群れをさがすといいよ」
「カンガルーの群れ? それは、どこにいるの?」
「ごめんね、ぼくらは知らないんだ。コアラたちなら知っているかもね」
ねずみたちにお礼を言って、ルーはコアラたちに会いにいきました。
「コアラさん!」
「なんだあーい」
コアラたちはねむそうです。ルーは、ドキドキしながらたずねました。
「カンガルーの群れを知ってる? ぼく、カンガルーをさがしているの」
ルーの質問に、コアラたちは、不思議そうに顔を見合わせました。
「カンガルーなら、そこにたくさんいるじゃなあーい」
そう言って、コアラたちはみんな寝てしまいました。ルーは、彼らを起こさないように、小さな声で「ありがとう」と言って、教えてもらった方向を見ました。
そこには、ルーと同じ形をした、ルーよりずっと大きな生き物が、たくさんいました。
ルーは、その群れにむかって、一歩近付きました。けれども、それ以上進むことができません。
ルーにはどうしても、そこには自分のおかあさんはいないように思えたのでした。そうして迷っているうちに、カンガルーの群れは、どこかへ行ってしまいました。
結局、ほんとうのおかあさんを見つけられなかったルーは、とぼとぼと歩いて森へ行きました。
どうしたらいいのか分からなくなってしまったのです。
気がついたら、ルーは最後におかあさんと別れた、あの岩のところにいました。
「ふああ、よく寝たー」
奥から、コウモリのおじいさんの声がしました。
「コウモリのおじいさん…」
「おお、ルーじゃないか。今日はよく会うね」
コウモリのおじいさんは、そう言ってケタケタ笑うと、ルーの上をくるくると飛びました。
「ねえ、おじいさん、ぼくのほんとうのおかあさんを知らない?」
ルーが泣きそうになりながらたずねると、コウモリのおじいさんは、不思議そうな顔で、木の枝に止まりました。
「ほんとうのおかあさん? それなら、ルー、きみの後ろにいるじゃないか」
コウモリのおじいさんは「もしかして、迷子になっていたのかい? ああ分かった、それで泣きそうなんだね」とケタケタ笑います。
ルーが振り返ると、そこには、おかあさんがいました。黄土色の毛がキレイな、いつものおかあさんです。
おかあさんは、あまりにルーが心配で、ルーの後をついてきていたのでした。
「おかあさんだ!」
ルーは、走り出しました。
「おかあさん! おかあさん!」
その胸にとびこむと、おかあさんもギュッとルーをだきしめます。
「バカな子だねえ、カンガルーの群れについていけばよかったのに」
「いや! ぼく、おかあさんと一緒にいるもん!」
離れようとしないルーに、おかあさんは、そっと涙をこぼしました。
その時、またも「見つけたぞ!」とうさぎやねずみの声がしました。
「やい、今度はルーを食べようとしている!」
「食べようとなんてしてないよ! おかあさんは、そんなことしないもん!」
ルーが言い返しても、「ルーも、食べられなくなかったら、早くこっちへおいで!」とうさぎたちは手招きします。
「そのフクロオオカミは、きみのおかあさんではないんだよ!」
「おいおい、何を言っておるんかね」
木の枝に止まっていたコウモリのおじいさんが、バタバタと飛んできます。
「このふたりが、親子に見えないっていうのかい?」
ねずみたちがキーキー鳴きました。
「だって、見た目がぜんぜん違う!」
「じゃあ、きみときみ、ワシには見た目が同じに見えるが、親子なのかね」
指名されたねずみとねずみは、顔を見合わせて、「違うよ」「うん、違うよ」と言い合いました。
「でも、そこのフクロオオカミは、大事なガラス玉を割ったんだ!」
うさぎが怒ります。コウモリのおじいさんは、はて、と首を傾げました。
「ワシの記憶では、それを割ったのは、そこのうさぎのオヤジだった気がするよ」
「え」
うさぎたちは、うさぎのおじさんを見ました。うさぎのおじさんは、しばらくそのままジッとしていましたが、やがて「ごめんなさい」と耳をペタリとたおしました。
「大事なガラス玉なのに!」
「なんてことだ!」
先ほどまでおかあさんを責めていたうさぎたちは、うさぎのおじさんを責めはじめました。
「まったく…」
おかあさんはため息をつくと、うさぎの群れに入っていき、うさぎのおじさんの首を、ばくりとかじりました。
「あ」
うさぎたちは、みんな固まります。当然、うさぎのおじさんも固まっていました。そのまま、おかあさんは、ぺっとうさぎのおじさんを吐き出しました。
うさぎのおじさんは、倒れたまま動きませんでしたが、しばらくすると自分が生きていることに気付いて、起き上がりました。
「ああ、まずくて食えたもんじゃないね。でも、これで十分こりただろう。許しておやり」
「でも、ガラス玉が…」
「そんなもの、カケラをひっつければいいだけじゃないか」
「おお!」
うさぎたちは、ポンと手を打ちました。それじゃあ早速直さなければ、とそろって帰っていきます。その中には、うさぎのおじさんもいました。
「調子のいいやつらだこと。まあ、いいけどね」
「あれはあれで、がんばっているんだよ」
おかあさんとコウモリのおじいさんは、やれやれと頭を振りました。
「さて、ルー、帰ろうか」
「うん!」
ルーはおかあさんに、笑顔で答えました。それからもじもじします。
「おかあさん、ふくろ入りたい」
「お前は、もうおかあさんのふくろに入れるサイズじゃないねえ」
困ったように笑ったおかあさんは、「背中に乗っていくかい?」とたずねました。ルーは、笑って、「うん!」と返事をしました。
あたたかい背中の上で、ルーは目を閉じます。
「おかあさん、ぼくね、おかあさん大好き」
「あたしもだよ、ルー」
おかあさんとルーは、とても幸せそうでした。
あくる日、ルーはまた、おつかいを頼まれて、森を歩いていました。
うさぎのおじさんは、「早く離れなよ、食べられちゃうよ」とまだ心配そうです。
ルーは笑って返しました。
「おかあさんは、そんなことしないよ」
読んで頂き、ありがとうございます!
人生初の童話です。漢字や言葉を気をつけてみましたが、まだまだ足りない感が満載です。難しいですね!
でも、真っ直ぐなストーリーを書けた分だけ、自分の心も真っ直ぐ精一杯込められたような気がします。
2015年が、皆様一人ひとりにとりまして
素敵な年になりますように!
また明日、少しでも、笑って過ごせますように!
そんな祈りを込めまして………