草原の思い出
ツイッターでやっていた #一次創作文字書きお絵描き60分一本勝負企画 に参加しようとして、60分で書き上がらなかった作品です。(約70分かかった)
ちょっと荒いですが、企画の趣旨に沿ってこのまま掲載します。ただし、上記企画には時間内に仕上がらなかったため参加していません。
「俺は肉が好きだな。野菜は、うんまあ、たべてやらないこともない、ぞ」
「私は、果物が好き。お肉は食べるけど、どっちかというと果物かな」
「俺は野原を走り回るのが好きだ」
「私は、花冠を作るのが好きよ」
広い花盛りの草原で、小さな影が2つ寄り添って座っていた。どちらもまだ5、6歳と幼い、男の子と女の子。
男の子は浅黒い肌、真っ直ぐな短い黒髪で、頭には三角の耳がぴこん、と立っている。彼は獣人族の中でも強い勢力を持つ犬族の王子、名をクロードという。
隣に座る女の子は同い年くらいの、こちらはフワフワの真っ白な巻き毛の娘だ。
彼女は「メリィ」と名乗った。
けれど、メリィについてはそれだけしか知らない。クロードがお忍びで遊びに来ていた草原で、たまたまいたメリィと遊んでいただけだから。
けれど、クロードはひと目でメリィに囚われてしまった。
「メリィは可愛い物が好きなのか?」
「うん!大好き!」
「そうか。俺は、メリィが大好……ごにょごにょ」
「え?なあに?」
けれど、そんな二人はまだ子供。クロードが言えずにもたもたしている間に帰らなければいけない時間が来て、肝心の一言は最後まで言い切ることができなかった。
「殿下、可愛らしい子羊ちゃんでしたね」
迎えに来た侍従が言った。
「子羊?」
「ええ、遠目ではありましたが、あの白い巻き毛は羊族でございましょう?」
クロードはショックを受けた。
なぜなら、犬族は犬族としか結婚できない掟があるからだ。
獣人の住むこの国では、ほぼ人と同じように暮らしていても、やはり狩るもの*狩られるものの違いは純然と残っているのだ。
その上、食生活の違いもあり、他の種族との結婚は慣例としておこなわれないのが普通だった。肉食獣の獣人は肉類を、草食獣の獣人は野菜や果物を好む傾向があるのだ。
つまり、身分が釣り合っていてもメリィとは結婚できない、ということになるのだ。
メリィとクロードは、それきり会うことはなかった。
*****
そして、10年が経った。クロードは立派なイケメンに成長していた。
今では王太子として立派に活動しているクロードだが、浮いた噂一つないのが王と王妃の密かな悩みだった。
クロードのおかげで、今まで決して仲がよいとは言い切れないでいた草食獣の獣人族とも友好な関係を築くことが出来た。王族として、未来の王として臣民から絶大な人気を誇るに至っている。
そんなクロードの周りで争いが起きないわけがなく、王はクロードを呼び出し、ついに結婚するように言い渡したのだった。
(メリィ・・・・・・すまない、君を妃に迎えたいと今までがんばってきたが、年貢の納め時のようだ。そもそも、君はいまどこにいるのかすら俺にはわからないけれど)
王の選んだ婚約者との初対面の日、婚約者が待っている部屋の扉の前で、クロードは軽く目をつぶって心の中でそう語りかけた。
どこにいるかもわからない彼女を思うのはもうこの扉までだ。この扉を開けたら、婚約者を愛せるように努力しよう。
そう決意を新たにクロードは扉を開けた。
部屋の中にいたのは、真っ白い女性だった。
肌は抜けるように白く、髪もふわふわと真っ白。かわいらしい顔の中に、黒い瞳と桜色の唇が映える。
女性はほっそりとした体を折り曲げ、クロードに美しく礼をした。
「お久しぶりです、殿下」
しかし、クロードには彼女に見覚えがない。
「失礼、あなたが私の婚約者になるメリッサ嬢ですね?初対面だと思うのですが」
絵姿さえ見ていなかったので、本当に初対面のはずだ。しかし、メリッサはちょっとだけ眉を下げて寂しそうな顔をした。
「覚えていらっしゃらないですよね。幼い頃、一度だけお会いしました。殿下がお忍びでいらした、あの草原で」
そう話すメリッサに、懐かしくて渇望していた人の面影が重なる。
「君は・・・・・・まさか、メリィ?」
クロードが震える声で聞くと、メリッサはぱあっと満面の笑顔を浮かべた。
「はい、そうです殿下」
「でも、メリィは羊・・・・・・」
いいかけたクロードの腕を侍従が引いた。
「殿下、メリッサ様は犬族でいらっしゃいますよ。殿下は柴犬の系統ですが、メリッサ様はプードルの系統でいらっしゃいます。メリッサ=アーノルド侯爵令嬢、ほら、財務大臣のアーノルド様のお嬢様です」
言われて見れば、財務大臣はプードルの系統で、白いくるくるした髪をしていた。
「では・・・・・・メリィと、いや、メリッサ嬢と俺の結婚にはなんの障害も」
「ございませんよ」
クロードは降ってわいた幸福をなかば信じられないでいた。けれど、婚約者として紹介されたのはたしかに夢見ていた女性その人だった。それも、信じられないくらい綺麗になって。
やがて、そっとメリッサの手を取ると、クロードは跪いた。
「メリッサ嬢、いや、メリィ。メリィはメリッサの愛称だったんだな」
「はい殿下。私もあの日たまたまあそこへ遊びに行っておりました。あの日のことは、私にはとても大事な宝物なんです」
「俺もだ。あなたを幸せにしたい一心で、今までがんばってきたつもりだ」
きゅ、とメリッサの指先を握り直す。
「メリィ、あの日最後まで言うことが出来なかった言葉を今ここで伝えてもいいだろうか。
俺は、メリィが大好きだ。・・・・・・結婚して欲しい」
メリッサはクロードのその言葉に幸せそうな笑顔で頷いて見せた。
クロード:獣人の国の犬族の王太子。柴犬っぽいらしい。髪は黒の短髪ストレート、三角のお耳がぴんとたっていて、しっぽは巻き尾。メリィを勝手に羊と思い込み、泣く泣く諦めていたが、せめて彼女の幸せを願おうと草食獣と肉食獣の間での和平条約を成功させる。まったくの勘違いだったのだが。
結婚後はめろめろ溺愛系の旦那様になる予定。
メリッサ:財務大臣のアーノルド侯爵の娘。プードルの系統なので、小さい頃から髪の毛は真っ白でふわふわ。羊ではない。クロードは「子羊は角がない」ということで角の有無はスルーしていたが、瞳孔が四角くないことには気がつかなかった(笑)
クロードと会った直後、クロードの正体を聞いて知っていたため、クロードのお嫁さんになれるよう努力をしてきた根性の人。勘違いな方向でがんばってきた婚約者よりも幸せになって欲しいものです。
あ、しっぽは小さくてぴこぴこしていて、ドレスに隠れてます。耳は垂れ耳なので、やっぱり髪の毛に混ざっています。