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短編まとめ

本屋でお尻に見とれまして

作者: 真咲静

ツヤツヤプリンとしたお尻が強調された青年コミックの装丁をうっかり見つめてしまいました。

ハッと自分の脳内に巣くう変態が表に出かけていることに気がつき、その装丁から目を離し頭を上げたら、彼と目があった。


彼は本屋で会うことが多い男性で、多分、買っている本の発売日が同じ日だから会うのだろう。

ただ時間帯も合うのが不思議だけど、私の単調な行動と同じように、やはり彼も基本的に単調な行動をしているのだろう。

単調な行動、普通な日常生活とも言う。


で、発売日が被る私達はどこの誰だか分からないけど、顔は知る仲ではあるわけで……なんつーか気まずい。


プリンとした尻を見ていただけに……気まずい。

だからと言うか、そそくさとそこを離れてみた。


その後ろ姿を彼に見られているとは知らずに。



***




その人はいつも本屋で会う人だった。

買っている本は色々なジャンルみたいだが、出版社の関係で俺が本屋に行く日は大抵いる。

そして、彼女がチェックしている本は面白いものが多い。

彼女が買う本があまりにも多ジャンルなため、気になり、彼女が去った後についチェックしてしまったのだ。

今日も今日とて彼女の視線の先に目を向けて、ちょっと驚いた。

ムチムチでプリンとしたTバックの尻が前面に出た装丁。その持ち主であろう女性が潤んだ目で背後を見ている絵。

所謂、青年コミックと言うやつで、俺もたまにデジタルでお世話になる本だ。

どうしてデジタルかって? それは下世話な話で……

つか、待って、え?

あの彼女、こんなのも見ちゃうのか?

読んじゃうのか?

混乱した頭を上げてみたら、彼女と目があった。

心臓がどくりと高鳴った。

一瞬表情を変え、走り去る彼女をただただ見送った。

心臓の高鳴りに気をとられながら。



***


逃げる必要なかったんじゃないの?

うっかりお尻見ちゃっただけだもん。

逃げる必要は……なかった。

なかったよね。


家まで帰ってきて、冷静になればなるほどに自分のアホ加減に呆れる。

しかも一冊買い忘れたし……一番楽しみにしていた一冊を忘れるとかバカだし……本屋、明日も行こう。



本屋では彼に会わなかった。

正直安心していたら、いたらだ。

帰り道にばったり。

安心していた自分を殴りたい……

いや、気にしなければいいんだ。

気にしなければ……


「あの……」

ひぃぃぃぃー!!


話しかけられた。



***


今日は発売日じゃないから本屋には寄らない。

でも、給料日後だし、たまには自炊じゃなくて居酒屋にでも寄ろうかと行きつけの店の前に立った時だった。


小さなアっと驚く声に振り返ると、そこには彼女がいた。

あ、また本屋行ったんだ。

一冊分の紙袋。

驚く声が聞こえたってことは彼女も俺を認識してるのかもしれない。

つか俺、ここが声かけ時じゃないか?


「あの……いつも本屋でお会いしますよね?」




***




「あの……いつも本屋でお会いしますよね?」


話しかけられてしまったぞ!


課長、どーしましょー?

沖君、大丈夫だ。いつも通り、うまい茶を頼む。

はい。ってここにお茶はありません。

脳内だから自由にお茶だせるだろ。

かしこまりました。

お茶、おいしいですね。課長


駄目だ。脳内課長は仕事しやしない。

とりあえず返事しなきゃ。


「そう、ですね。いつも本屋さんでお会いしますね」

「俺、○○社の本をよく買うんですけど、やっぱりあなたも?」

「そうです。やっぱり、いつも同じ日にお会いするんで、私もそうなのかなって思っていたんです」

「あ、立ち話もなんですし、俺飯がまだなんですよ。え、と」

「沖です。沖優海おきゆみと言います」

山上博人やまがみひろとです。沖さん、もし良ければ一緒にいかがですか?」

そう言って山上さんは目の前の扉を指した。


課長、どーしましょー? 食事に誘われました。

ここで断ったら次はないぞ! 彼が好みだから昨日逃げたんだろ? なら、答えは一択しかない。行け!


今日の課長は積極的です。

脳内会議終了。

「私もご飯まだなんです」

思いきってのってみます。


***



家の近くにこんなに安くてうまい居酒屋があるなんて思いもしませんでした。

「ここおすすめなんだ」と言われて目の前のガラス戸が古めかしい音をたてて開かれる。

そこには古きよき日本の居酒屋があり、胃袋を刺激する匂いが漂う。


「よう、兄ちゃん!! 今日は美人連れかい? うちなんかをデートに使うもんじゃねぇよ」


しゃがれた声のおじさんに迎えられた。

素晴らしい!!

理想的居酒屋です。


「大丈夫ですよ。ちゃんとこの店も好きそうですから。いつもの席空いてる?」

「あーすまん。ご新規さんが入ってる。今日ならカウンターの奴らが遅いから、カウンターに座ってくれ」

「やった。カウンター席ですか! 沖さん、どうぞ」

待てが解かれた犬のような、ブンブンした尻尾が見えるよ。山上さん。

そんな山上さんを生暖かい目でみる私とおやじさん……おやじさん? ふーん、そういうことですか。照れちゃうじゃない。

「何か食べれないものありますか?」

「内臓系は苦手です。あっさりしたのが好きですよ」

うん。夜ご飯はあっさりじゃないと三十路過ぎた辺りから胃もたれがね……年かな。

まぁ、お酒ももたれるから……程々かなぁ。

さてさて、楽しい夕飯になればいいなぁ。



***



「とーっても美味しかったです」

そう言って彼女はふらりと立ち上がった。

カウンターの上には勘定の半額を少しかける割りきれる金額。

「大将は素敵だし、料理とお酒は美味しいし、皆さん楽しいから、またお酒が進みました」

ヘラっと笑った彼女に後から来て、いつもの俺の定席に座ったおじさん達も店のおやじさんも、もちろん俺も顔がゆるむ。

まさにいい時間を過ごした。

「この兄ちゃん抜きでもまたこいよ」

「またあったら、俺達おすすめも飲んでみてな」等とそれぞれが鼻の下を伸ばしているのをみると、いい加減にしてくれと思う。


て言うか、口説き過ぎですよ。



***




思った以上に楽しい時間がすぎた。

絵に描いたようなおやじさんに、店、常連客、そして山上さん。

盛り上がるとかじゃなく、この場所に居場所をひとつ作ってもらえた気がして嬉しかった。

店を出て、二人で歩いているのが、なんだか気恥ずかしい。

私の気のせいじゃなきゃ、彼は私に好意を持ってくれていると思う。

あのお店のおやじさん達の様子込みで間違いないとは思う。


「沖さんとご一緒できて、本当に楽しかったです」

「私も山上さんとご一緒できて、とても楽しかったですよ。あのお店、私も常連客になってしまいそうです」


えっと

会話が終わっちゃいそう。


「……沖さん……、もしあのお店に行くとしたら、また俺と一緒に行ってもらえますか?」


もう一声。

心の声が反映されたような視線を向けてしまう。

大人なんだもの。

こんな出会いだっていいじゃない。


「お店に行くだけですか?」


***



「お店に行くだけですか?」


……あれ?

今がチャンスなのか!?

お酒て潤んで、頬が赤くって、本屋で見る彼女とは違いすぎて、はっきり言って惚れ直してしまった。

でも、今のは彼女からきたチャンスだよね?

のっても大丈夫だよね?


「お店だけじゃなくて、俺と付き合ってくれますか?」


「よろしくお願いします」


彼女から差し出された手。

俺は胸を最大限にドキドキさせながら、その手を握りしめた。


***


キタコレ!!

告白してこいとばかりに促すと、見開いた目が戸惑いとピンクなオーラが漂ってくる。

ほら、こい。

くるんだ。

今なら、もれなく私がついてくる。


「お店だけじゃなくて、俺と付き合ってくれますか?」


キター!

告白きた!

くっそかわいいなぁ。


「よろしくお願いします」


手を出せば、両手でその手を握りしめられた。

たまんねー。かわいいなぁ。山上さん。




そして思わず、そのぽかりと空いた口を奪った。


***


本屋でお尻が全面に出た装丁を、うっかり見ていたら、彼氏ができました。

その彼は本屋で趣味にひた走る私をよく知っていて、だからかなんか心が広くて、私のときめきのツボを良く押してくれる。


本屋万歳。

そして、お尻の装丁万歳なのです。



別作品を書いている途中でうっかりよそ見。

2013年最終作品です。

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