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異世界召喚モノの冒頭

 誰かに呼ばれたような気がして振り返るが、そこには誰もいない。


 周りを見ても、真っ白で何もない。

 確かに床に立っているという感触を感じるが、床さえも白い。

 まるで宙に浮いているかのような錯覚に陥る。



 これは夢なんじゃないのか?

 ようやく、ここが夢の中だと気づいた。




「直樹様、直樹様」

 今度ははっきりと名前を呼ぶ声が聞こえた。


 直樹の前方が突如、まばゆく光る。

 とっさに光から目をそらし、まぶたを閉じる。


 まぶた越しに光が弱まってきたことを感じると、直樹はゆっくりとまぶたを開けてみる。



 そこには光の玉が浮かんでいた。


「直樹様、夢の中に侵入するという不躾な行為をお許しください」

 目の前の光の玉から声が聞こえてくる。


「実は、直樹様にお願いがあって、参りました。話を聞いていただけますでしょうか?」

「あ、ああ」

 あまりの光景に思考がついていかない直樹だが、とりあえず話を聞いてみようか肯定の意を示す。


「ありがとうございます。直樹様へのお願いというのは、私の創造した世界へと移住をしていただけないか、というものです」

「移住?」

「はい。私の創造した世界は、ゆっくりと滅びへと向かっています。それを何とかしたいと他の世界の住人を移民としてお招きしているのです」

「移民ねえ」

 光の玉がしゃべることも異常だが、それに輪をかけて言ってることも突拍子も無かった。


「いくつか質問してもいいか?」

「はい、構いません」


「まずは、俺がその話を受けたとしたら、元の世界での俺の扱いはどうなるんだ?」

「直樹様自身を私の世界へとお招きするため、失踪や神隠しといった扱いになると思います」

 神隠しねえ、胡散臭いことになるんだなと直樹は思った。


「じゃあ、次。そっちの世界に行って、戻ってくることは出来るのか?」

「お気に召さなければ、元の世界へとお戻しします。ただし、私の世界と直樹様の世界との行き来は一往復。戻ってきたら、二度と私の世界へと行くことは出来ません」

「一度、そっちの世界を見てから、移住するかを決めることができるということか?」

「はい」


「そっちの世界で俺は何かしなければいけないのか?」

「いえ、移住していただいた後は、ご自由にお過ごしください。特に、何かを強制するということはございません」

「じゃあ。何もしなくてもいいのか?」

「構いません。最低限生活できるだけの準備を整えてございます」


 直樹は光の玉との話を整理してみる。

 移住すると言うことが、光の玉の世界で大きな意味を持つのだということがなんとなくわかった。


 この世界を離れたくない理由があるかを、直樹は考えてみる。

 ざっと思い浮かべてみるが、どれも直樹をこの世界に引き止めるほどのものではない。

 移住して欲しいというのなら、行ってもいいかと直樹は考えた。


「俺自身は移住してもいいかなと思っているが、一つだけ気がかりなことがある」

「気がかりですか?」

「ああ。俺が失踪したことで、両親に心配や迷惑をかけることだ」

「それでしたら、私がお二方の記憶に、直樹さんは遠く離れた地に赴いている、という情報を流し込みましょう。ただ、ご両親以外の方には、失踪と思われるかもしれません」

「それで十分だよ。手間をかけさせてすまない」

 直樹の懸念は、両親のことだけだったので、その措置だけで十分だった。


「では、確認をします。直樹様、創造した世界への移住を承諾してくださいますか?」

「ああ、承諾する」


「では、直樹様の移住の準備を整えますのでしばしお待ちを」

 光の玉が、一定の間隔で明滅し始める。


「なあ、もし俺が聞きたいことがあったら、あなたに聞けば答えてもらえるのか?」

 直樹の問いに、光の玉の明滅が止まる。



「質問によってはお答えできない場合もございますが、出来うる限りお答えいたします」

 光の玉にも思うことがあるのか、答えが返ってくるまでに、しばらくの間があった。

 再び、光の玉が明滅し始める。




「直樹様を私の世界へとお招きする準備が整いました。次に目を覚ました時は私の世界の住人となっています」

 光の玉の明滅が止まっていた。

「近くに移住されてきた方たちのお世話をする者たちおりますので、詳しくはその者たちにお聞きください」


「直樹様、この度は私の願いを聞き入れてくださり、ありがとうございました。それでは、よい眠りを」

 光の玉が徐々に小さくなっていく。

「あっと、聞き忘れてたことがあった。あなたの名前を教えて欲しい」

「私は決まった名を持っていません。直樹様のお好きなようにお呼びください」



「アマテラスって名前はどうだ?」

「アマテラスですか」

「俺の国の神話に出てくる太陽を司る神様の名前だ。太陽みたいな見た目だしな」

 しばらく考えて思い浮かんだ名前にしては安直だと直樹も思っていたが、言葉にしてみると案外悪くない。


「では、この先、私のことはアマテラスとお呼び下さい」

 そう言い残し、アマテラスは直樹の意識から抜け出した。



 アマテラスは、直樹が無事に自分の世界へと移っていったことを確認すると、次の移住候補者を探し始める。


 探し始めながらも、アマテラスは直樹のことを考えていた。

 多くの人はアマテラスの呼びかけを気のせいということで終わらせてしまう。

 存在に気づいても、大半は拒否反応を示す。

 また、興味を示しても、あそこまで質問してくる者は皆無だった。

 数少ない移住の了承者の中でも、残される自分の関係者の事を考える者は極少数でしかない。


 そういった意味でも、直樹はかなり異質な存在である。

 加えて、アマテラスに質問に答える約束を取り付け、名までつけていったのだ。



 アマテラスは、直樹が滅びに向かう自分の世界によい影響を及ぼしてくれることを願った。

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