1話
今回が初のオリジナル長編になります。ヘタレなので生温かい目で見守って下さい。
誤字・脱字があれば教えてもらえると助かります。
暇つぶしの一つにでもなれば幸いです。
――僕には悪へ……じゃない。間違い間違い。僕はツンシュンでもなければ、護衛が付けられる立場でもない。
全く……もう少しで巨大な企業を敵にするところだった。
改めて、だ。
――僕には困った体質がある。
もしかしたら、人からは羨まれるような体質かもしれない。
でも考えても見てくれ、どこぞで名前の書いてある帳面を持つ高校生の事を。
――あぁ、すまない。話がそれたね。ともかく僕には厄介な体質がある。『物語の旅人』という体質らしい。
コレはストーリートリッパーとも、ブックトラベラーとも言われてるらしい。
つまりは、僕以外にも似たような症例を持つ人間が居るという証拠な訳だ。
――しかし、僕は僕以外に自分と同じような人を見たことがない。だから、僕はこの体質の改善なんて出来ないと思ってる。
――ほら、そんな事を言っている間に、また僕はどこかへ行くみたいだ。はぁ。一体どんな場所に行くのだろうか?全く、面倒だ。
――ともかく、いったんここでお別れだね。
――君とはまた出会いそうだからね。さよならとは言わないよ。それじゃあまた今度。
――数時間前。
蔵元遠花はお気に入りのワンピースを着て、久しぶりの買い物をする為に、市内の繁華街を目指し、電車に揺られていた。
(久しぶりに街に出るな~。夏も近いし、新作のワンピース出てないかな?)
先週まで期末テストと、その準備に追われまったく遊ぶ暇なんて無く、それでなくても遠花にすれば、少し身の丈合わないレベルの高い高校に通っている。
さらに付け加えるなら、遠花は来年受験を控えている。進学を希望している彼女にとって、遊んでいられる環境ではなくなっていた。
そんな状態にありながらも久しぶりの休日が巡って来た。たまには息抜きもしなければと、最近考え出していた遠花にとって、まさしく天啓とも呼べる日になった訳である。
そして当日が今という訳だ。
遠花は友達がいない…という訳ではない。しかし、今日はみんなでワイワイと買いものをするというより、自分の欲しいものをじっくりと見定める買いものをしたい気持だった。その為、市内の繁華街にある遠花お気に入りのショップ を何件も見る予定でいた。
(あー楽しみだ!本当に楽しみ!)
期待に胸ふくらませる遠花。顔も自然と綻ぶ。
しかし、彼女の想いとは裏腹に、彼女の持つ『特異体質』が無情にも、彼女の一日を狂わそうと、チリチリとあるものを引き寄せてしまっていた。
「着いた!」
思わず口にしてしまった遠花だが、自宅の最寄り駅から1時間も揺られてしまえば、口にしたくもなる。ちょっとした息抜きのつもりで愚痴った。そうでもしないとスッキリとした感じで、遠花好みな夏の新作の服を見つけられそうにない気がしたからだ。
「よっしゃ!行くよ!」
さらに気合いを入れなおした遠花は駅の改札へと向かう。歩く速さは次第に速まり、まずは駅周辺にあるショップから攻略していこうと、頭の中にはすでにマッピングされたルート図まで思い浮かべていた。
ともかく足早に目的地を目指す遠花の足が不意に止まる。
――嫌な予感がする。
目の前に見えるのは何の変哲もない書店。遠花にとってある意味天敵になる場所である。
(前回来た時にはこんなところに本屋なんてなかったと思うけど…)
遠花は嫌な予感を持ちつつも、その先に見えるお気に入りのショップを目が捉える。
(今から回り道しても…)
それくらいの時間を使うくらいならと、遠花はそのまままっすぐに書店を横切ろうとした。
――その時だ!
自分の足裏が違和感を捉えた。さっきまでアスファルトの感触だったのに、明らかに違う。一歩目で感じた違和感を確かめるために、視線を足元に下げる。
視線の先が捉えたのは日に焼けた畳だった。普通の畳とは違いふわふわとする畳に戸惑いながらも、遠花は現状を確認しようと近くの襖を開けてみる事にした。
(はぁ…。やっぱりこうなっちゃたか…。時間かけてでもいいから遠回りするべきだった)
書店の前を通る事を後悔しながらも、この場からの脱出を模索し始めた。その一歩として、襖に手をかけたのだが、ここでもまた遠花は、
(ここは開けないような気はする……)
今度はその直感に従い手を離した。そしてその場から離れようとした時。
バァッンッ!!
勢いよく開けられた襖は柱に当たるとビックリするほどの衝撃音を放つ。遠花はその音に驚いて身を竦ませる。そして音のした方を恐る恐る見ようとしたのだが、それは叶う事がなかった。
「お願いします!助けてください!」
「おふぅっ!」
突然のお願いと共に遠花の横腹を強烈な衝撃が襲った。襲われた遠花は女子高生が出すような声とは思えない声を出し、畳に顔を叩きつけられてしまい、両手で顔を覆った。
はっきり言ってお願いなんて聞いていられる状態ではない。完全に油断していたところを、脇腹めがけてタックルされ、比喩表現抜きで美しい「く」の字を生み出した。さらにその勢いそのままに、自分の顔の中でも自慢であった、人よりちょっと高い鼻と綺麗なおでこは、不思議な畳に叩きつけられてしまい、打ちつけた鼻とおでこは見事に真っ赤に染まっていた。――――流血的な事は一切なかったが。
「痛いじゃないか!いきなりぶつかってきて!君を助ける前に僕が助かりたいよ!」
「お願いします!助けてください」
「だから…僕は…」
遠花はそう言いながら、自分の体を折り曲げてくれた原因に視線をやった。声から相手は女性ではないかと思っていた。しかしその姿は――。
「……男の子?」
「違うよ!私は女!ちゃんとした女性よ!」
そうは言うが、遠花からすればどう見ても男の子にしか見えない。髪は短く切り揃えられ、刈り上げてはいないものの、活発そうなイメージを与える。体格もそれほど大きくなく、平均的な体系とも言える遠花よりも小さい。つまり遠花よりも年下の男の子と思ってしまう。
「……んで、少年は何から私を助けて欲しいのかな?」
「だから私は男じゃなくて女なの!」
二人が言いあいをするように話していると、バタバタこちらに向かってくる複数の足音が聞こえた。その音に気付くと少年のような女性はみるみる青ざめていき、
「早く!早くここから逃げるのよ!」
遠花の手を取って、その部屋から逃げ出そうとした。
「どこに行く気だ!もう逃げられないからな!今日はわざわざ皆さんに来ていただいたんだ!お前も諦めてお見合いに参加するんだ音珠美!」
「嫌よお父さん!私はまだ一人でいたいの!それにどうせ嫁入りするなら私の好きなようにさせて!」
――はぁ?
遠花は今目の前で行われている一連の流れを見て呆れるしかなかった。
(なに?これはいったいなに?あの子の我儘に巻き込まれて私はこんな事になってしまったって事なのか?)
正直言って帰りたい。このまま黙って消えられないだろうか?遠花は心からそう思ったが、一つ疑問にも思った。
(あの子があそこまで嫌がるような人ってどんな人かな?)
遠花はまだ高校生。花も恥じらう…とまではいかないものの、それでも他人の恋愛事には興味深々になるお年頃だ。週刊誌で芸能人などの恋愛系のゴシップは、ついついチェックしてしまうくらいだ。だから、
(一体どんな人がこの音珠美さんの相手なの?)
と、気になってしまった。
「まぁまぁそんなキツイ言い方しなくてもいですよ」
「あぁ…。その通りだ」
「そうだな。無理しなくてもと言いたいところだけど、話くらいはしませんか?」
「音珠美さん次第ではありますが…」
「風越さん、真壁さん、朝陽さん、三雲さん」
何やら喋りながら遠花がいる部屋に入って来たのは、それぞれジャンルは違えど間違いなく美男に分類される男たちが現れた。
(うわ~。四人ともチョー美形だよ!風越さんは爽やか系担当で真壁さんは寡黙な感じ。朝陽さんは軽そうな感じがするけどカッコいいわぁ~。三雲さんはなんか掴みどころのなさそうな人だな~)
遠花が四人を見る目は、完全に芸能人を見る一般人の目とさほど変わりなくなっている。それぞれがそれぞれの魅力を引き出している四人の姿に完全に引き込まれてしまっている。
――ん、ちょっと待て。
ここで一つ遠花は気付いた。
(風に壁に陽に雲……んで、僕にぶつかって来たこの子が音珠美さん……ってことは!)
――ここは、ネズミの嫁入りの世界か!
ここにきて遠花はようやく巻き込まれた世界がどこなのかに気付いた。