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言葉では言い表せられない

作者: 快丈凪


 毎週土曜日の午前10時30分……。俺は必ず図書館に行く。彼女のために。


 彼女は何時も決まって奥から2番目、6人掛けの机の本棚側に座っている。そして俺は、そこから対角線上に座る。


 彼女は毎週図書館で勉強をしている。度のキツそうな眼鏡をかけ、Tシャツにジーパンというラフな格好で黙々と勉強をしているのだ。



 俺が彼女を知ったのはほんの1ヶ月前。その日は蒸し暑い日で図書館が混んでいた。席が空いていなかったので、俺はたまたま空いていた彼女の向かい側に座った。


 小説を読む俺がふと顔をあげたとき、彼女はやっぱり今と同じ様にペンを走らせていた。

 何故だろう……その姿が急に気になった。目をそらそうにも、そらせない。


 電気が走った。


 正に衝撃だった。


 彼女は特別綺麗な訳でもなく、むしろ流行とかには疎そうな方で……言葉ではっきり言えないが、彼女の何かが気になって目が離せなくなっていた。


 俺は彼女に心を奪われたんだ。



 告白や付き合うなんて望んでいない。ただ、彼女の姿を見ていたい……。その一心で図書館に通いつめ、彼女は土曜日のこの時間に来ると分かったのだった。

 そしてこれが、俺の日課になった。


 名前も、学校も、年も、住んでいる所も知らない。でも……何故か気になる……。


 一歩間違えばストーカーかなぁ……。

 そんな事をぼんやり考えながら、また目が彼女を追う。手を伸ばせば……声を出せば……届く所に居るのに……。

 そして、俺は彼女の気配を感じなから物語の世界に入り込んだ。



「あなた、毎週会いますよね?」



 不意に向かい側から声がした。慌てて顔を上げると、目の前にはあの彼女がいた。


「えっ……いやっ……」


 俺は口ごもりながら言葉を探していた。なんで彼女が……いつの間に向かい側に座っていたんだ?いや、そんな事よりも俺のこと、気付いていた……?


「ここ1ヶ月かな……毎週この席に座ってますよね。本が好きなんですか?」

 彼女は左右に小さなえくぼを作りながら俺を見た。

 初めて聞いた彼女の声は、想像以上に柔らかく俺の心を包み込んだ。


「本、好きです。……あの……」

 俺の頭は既に真っ白だった。何も考えられない。

 そのせいか、自分でも思いもよらない事を口ばしった。

「素顔……見せてくれませんか?メガネの下の……」

「えっ……?」

 どう反応すれば良いか分からない顔の彼女。俺は我に返り、

「すいません、失礼ですよねっ……」

 と言って顔を伏せた。


 自分でも段々冷静になり、恥ずかしくなってきた。なぜ初対面の俺に、彼女が素顔を見せないといけないのだ。よりによって、やっと口から出た言葉がこれでは、完全に変な奴だ……。

 でも……なぜか気になったんだ。彼女の眼鏡を外した顔が……。見ないといけない気がしたんだ。何故か……。


 すると彼女はクスッと笑って俺に向かって言った。



「私が眼鏡をとったところを見せるのは、私が本当に好きになった人だけなの」


 そう言うと彼女は微笑みながら自分の席に戻った。


 ……今のって、どういう意味だ?なら、彼女が俺の事を好きになれば……可能性はあるのか?

 俺は自分でも分からないが、急に立ち上がり彼女の側へ行った。彼女は少し驚いていた。


「さっきは失礼しました。もし良ければ、名前を教えてくれませんか?」

 と俺は彼女に尋ねた。すると彼女は、

後藤明日実(ごとう あすみ)よ。因みに高2。アナタは?」

 と言って俺を見た。

棚橋龍一(たなはし りゅういち)……中3です」

 と少し自信無さそうに答えた。彼女が年上だったという事実に怯んだからだ。


 しかし彼女は、

「また来週、会いましょうね、棚橋君」

 と言って席を立ち、図書館を出ていった。



 この気持ちが何なのか分からない。不思議な感覚だ。言葉にあらわせられない。


 でも、あえて言うなら……"運命"。今の俺にはそれしか思い付かないんだ。




 俺は今日、絶対に彼女の素顔を見ると決めた。その時はきっと、この気持ちにもっとふさわしい言葉が思いつくだろうから。






いかがでしたか?とりとめの無いカンジでしたが、「運命」についての話が書きたくてこの話を書きました。自分でも理解しきれない面もありますが、精一杯書いたつもりです。ここまで読んで下さってありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] とても読みやすい文章でした。 主人公の気持ちの表現が、分かりやすくて良かったです。
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