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田沼 飛鳥への旅 三

 そのとき田沼の耳には鐘の音が聞こえて来ていた。その音は北側に大和三山を見渡す展望台の右手から聞こえてきていた。田沼と沙也香は、展望台のそちら側・・・つまり東側に歩いて行った。今、咲き誇る薄桃色の山ツツジ越しに下界を眺めてみると、寺が見えた。

 田沼は声を発した。「ああ、あれがきっと飛鳥寺あすかでらだな!飛鳥寺はいまでこそ小さな寺だけど、日本最古の寺であるという歴史的な重要性を持つだけに奈良時代以前は広大な寺域を持った寺だったらしいね。この寺は当時政権を握っていた蘇我氏が造った寺なんだ。蘇我氏は、この丘の東側の斜面に、当時の都である、板葺いたぶきの宮を見下すように、豪壮な邸宅を構えて『上の宮門みかど』『下の宮門みかど』と呼ばせていたらしいね。2007年だったかな、ちょうどこの下のあたりから大規模な邸宅の遺跡が出土して、それが実証されたようだね。蘇我氏はやがて中大兄皇子なかのおうえのおうじ(後の天智天皇)と中臣鎌足(藤原鎌足)らによって滅ぼされるのだが、皮肉なことに中大兄皇子側は飛鳥寺を要塞として、この丘の蘇我氏の邸宅を攻めたと言うことだ」


 二人は、丘から降りてきてふたたび自転車に乗った。丘の下には、用水のような細さで飛鳥川が菜の花に飾られて流れていた。快適な畑の中の道を走ったが、さきほど、丘の上から見えた飛鳥寺がなかなか見つからず、地元の農協が開いている休憩所で休んで名物の柿の葉寿司(サケ、さばの寿司を柿の葉で包んである)を食べた。店の人に聞くと、あの赤い屋根の向こう側ですよと、指さす近さだった。


 飛鳥寺に二人は着いた。さっきの鐘の音は、観光客の鳴らす音であった。絶え間なく、鐘はつき鳴らされていた。有名な飛鳥大仏はここに安置されているのだが、二人は堂内に入らなかった。田沼が今日知りたいのは、飛鳥の都の概念だったからである。今ある飛鳥寺にしても、後世建て替えたものに過ぎないのだ。今のところ薄日は射しているが、天気予報では雨である。先を急がねばならない。


 この飛鳥寺の門の前、百㍍ほど先に、蘇我入鹿首塚と呼ばれている五輪等塔が赤く咲いたレンゲ畑の中に、寂しそうに立っていた。中大兄皇子に板葺きの宮で誅殺された時に首が飛んで700㍍も先のここまで飛んできたという伝承があるのだ。おそらくは、この五輪塔は入鹿に関わるものではあるまいと、田沼は思うのだが、田沼は花が飾られた五輪塔に、この調査の成就を願って手を合わせた。



 


 

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