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田沼 飛鳥への旅 二

 京都に着いた二人は近鉄に乗り換え様としたが、特急券+スイカで事済むと思っていた考えは甘かった。ここではスイカは通用しない世界だった。特急の発車時間が迫っていた、田沼は柄にもなく声を荒げて、駅員に詰め寄った、それが関東風のとがった声なので、回りの関西人は思わず振り返ったほどだった。「乗車券はとりあえず途中までで結構です」関東弁に押された、鉄道員はなだめるような優しい声で言った。

 特急で1時間、橿原かしはら神宮駅まで、急いで行かねばならない。なんとしても今日の計画を成し遂げたい気持が、普段温厚な田沼を猛獣のようにした。あとからこれを思い出すと、いまでも田沼は恥ずかしい気持に包まれるのであった。ああ、関東の野人だなあ僕は!と思うのであった。

  

 京都駅から約1時間特急電車で吉野方面に南下し、昼前に橿原神宮前に二人は降り立った。

田沼はやや興奮した口調で沙也香に言う。

「最初は次の駅の飛鳥で降りる予定だったのに、橿原で降ろされてしまった。ここから乗り継がねば、次の飛鳥駅に行けないとは知らなかった!ところで、この橿原神宮は記紀の伝承にある、神武天皇が東征を終えて最初に宮を造ったところなんだよ。奇しくも、僕らの飛鳥の最初の出発点が橿原神宮前駅であることは、合理主義者である僕をも感動させるものがあるね。もっとも、この橿原神宮は、明治23年に、地元有志の神宮建立運動に明治天皇が賛同して出来上がったようだから、歴史的建造物とはいえないんだが・・・」

「本当!なんだかわくわくしますね。ここで自転車を借りるんですよね」

「そう、飛鳥の里をめぐるには自転車が一番のようだよ」

「雨が降りそうな気配がありますね」

「大丈夫!ここ一番の時は、僕は運に強いんだ。僕は強烈な晴れ男なんだよ」

 

 二人は、橿原神宮駅から西側の畝傍うねび山の麓の橿原神宮に向かわず、自転車を東に走らせた。

距離にして2キロ弱、自転車で15分ほどの甘橿丘あまかしのおかが最初の目的地である。

 

「さあ、丘の上に到着だ!目を開けてご覧!」

「・・・あら!目の前の平野に点在して拡がっているのは、大和三山ですか。」

「そう、沙也香君を驚かそうと思ってね内緒にしていたけど、大和三山、かの有名な畝傍山・耳成山・香具山の三つの山だよ。この岡に立って北を眺めると平野に・・・この平野は、飛鳥の宮のあと、都となった藤原京の跡地なんだが・・・三山が、洋上に大きな船を浮かべたように見えることで知られているそうだよ。僕も大和三山を見るのは初めてのことなんで、感動だよ。万葉集に歌があるね。・・・香具山は畝傍うねび愛しと耳成みみなしと妻をあい争うらしき、神代よりかくてあるらし、いにしえもしかにあれこそ、うつせみも妻を争うらしき・・・これは、後の天智天皇である中大兄なかのおおえの皇子の作と言われている有名な歌だ」

「とても良い眺めですね」



 


 

 

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