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太安麻呂の後ろ姿

 鎌倉の段葛だんかずらは、由比ヶ浜の方から鶴岡八幡宮に向けて車道より一段高く、中央に作られた歩道だが、今日は道際の何千本という桜が満開で、トンネルのようだった。さすがの鎌倉も夕方になると人がまばらだった。三人は鶴岡八幡宮の方に向けてそぞろ歩いた。桜が時折さらさらと、道に降ってきた。田沼は沙也香の方を見てつぶやくように言った。

「鎌倉に幕府が出来るまではね、鎌倉は小さな平地の少ない街だったから、山をくずして街を広げたんだ。山を崩してしまったんで、少し雨がふると水はけが悪くて道がぬかるんで困ったそうだ。それで土手道みたいなこの段葛と呼ばれる道を造ったという事だよ。施主は、源頼朝の恐妻、政子だという話なんだ。長男頼家の武運長久の願いをかけたというけれど、それは叶わなかったんだな。その悲しいエピソードは修善寺物語という戯曲になっているよ」

「私、桜の頃、ここに来たことがないんですけど、夕日に桜のトンネルが輝いてきれいですね」

「桜はいいね。僕はね、桜の頃になると、ここを散歩して、八幡宮前の蕎麦屋、繁茂はんもで蕎麦をサカナに一杯やるのが好きなんだ。それが僕のお花見なんだ。そこはね、御成通りの老舗の酒屋、高崎屋本店の主人に教わった店なんだ。店構えは派手ではないけれど、地元の人に人気があるんだ。僕も気に入っているんだ。今日は、そこへ行こう」

「ところで田沼先生、これからの話はどう進めるつもりですか・・・ちょっと先が見えないようなんですけど・・・」と、祐司が口を挟む。

「ああだ、こうだいろいろ考えていたけれど、暗闇の向こうに光が見えてきたよ」

「どういう構想ですか」

「ああ、ちょうど良いね、質問に答えると考えがまとまるね。日本書紀作成には、どうも太安麻呂が中心的に関与しているみたいだというのが今の結論だよね・・・ところで、祐司君にはわかっているだろうけど、書紀作成者Xは、そうとうの曲者くせものだと言うことだね。大嘘もつくけど、真実も匂わせる・・・嘘はどれで、真実はどれなんだろうね。書紀作成者Xの頭領である、太安麻呂は何故こんな一貫していない史書を作ったのだろうか。細かい作業になるけど書紀の真実に合わない点をあぶり出して、考察しようと思うんだ、そして真実をほのめかしている点も探し出すんだ。それが終わったら、日本書紀に対しての総合的な結論に入ろうと思うんだ」

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