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詩人、銭湯に行く

 夕暮れ時になって、田沼と祐司は鎌倉市内にたった一つ残っている清水湯という銭湯に行った。都合の良いことに、クリニックから歩いてすぐだ。いくら好きな事とはいえ、頭もだいぶ疲れた。突然田沼が「銭湯に入って、中華そば屋でビールでも飲もう」と言い出して、祐司もそれに喜んで同意した。

 湯船に浸かりながら田沼は言った。「この風呂は古いよ。湯船が真ん中に縦に作られているのはね、銭湯の湯船の湯を洗い湯に使っていた名残なんだよ。戦前は、お湯が出る蛇口などなかったから、湯船に張り付いて身体を洗っていたいたらしい。それでこの構造なんだ」

「そうですか!知りませんでした」

「この銭湯が古くからあった証拠さ。昔からの銭湯はのんびりしてていいね。僕はどうも病院の風呂は手術室みたいな感じで好かないよ。それに、すぐとなりに中華屋もあるしさ、まさに詩人の天国じゃないか!」

「安い天国ですね」

「そう、三文天国・・・むむ、このネーミングはいいな。こんどの詩集に使おうかな」

「本当!先生らしいのどかさですね!」

「色々使えるね。三文教授、三文葬儀、三文夫婦、三文デート、三文娘、三文医者、三文詩人、三文結婚、三文坊主・・・アハハ」

「三文助教授・三文詩人、銭湯で喜悦とかね・・・ハハハ」

「あのね、君は三文助教授でいいけど僕は十両詩人だからね・・・間違えないでね・・・アハハ」


 田沼と祐司は銭湯から出て、三軒先のこじんまりした中華屋に入った。餃子にニラレバ炒めを酒のつまみに頼んだ。サッポロ瓶ビールがあるというので、それを飲むことにした。

 一杯目のビールを一気にうまそうに飲み込んで祐司がポツリと言った。「この先が難関ですね」

「そうだね、難関、難関。しかし突破口は見つかるだろう。粘りが必要だね」

「僕はね、以前の歴史エッセー『磐井の反乱』でさんざん書紀の事・韓国の古代史の事を書いたんだ。今ね、その方向にどうやって入っていこうかとちょっと悩んでいるんだよ。それをそのまま使えば簡単だが、それでは誰も読んでくれなくなりそうだね。どうやったら簡略に書けるか難しいな」

「やはり、ここまでの結論を整理してみるべきですね」

「そうだね。太安麻呂を追いかけるべきだね。太安麻呂は、今までの調査では日本書紀作成に濃厚に関わっていて、書紀完成の翌年から朝廷で書紀について博士として講義を行っているという事は史実と考えていいとおもうのだ。この史実は何らかの不都合があって、日本書紀や続日本紀といった国史から削除されたと考えて良いのではないだろうか。ともかく、太安麻呂などは古事記、その他の書を参考として、藤原不比等の死病による焦りを背景として、日本書紀完成を突貫工事で急いでいたわけさ。日本書紀の原案作成などはだれにでも出来る仕事ではない。いや、ほとんど誰にもできない。最後は安麻呂と唐人の二人だけの作業になってしまったのではなかろうかと僕は推測するんだがどうかな」

「まあ、そんなところですね」

「と、すると、書紀全文の原案作成は安麻呂の自由になったわけなんだ・・・」


 この日は、これだけで二人は別れた。

 

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