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太安万侶を捕まえた。

「そうだ、そうだ。森博達もりひろみち氏は、『日本書紀の謎を解く・述作者はだれか』というこの本において、結局中国人の名前を出すだけで終わっているんだ。しかし良く考えてみるならば、日本書紀には日本書紀の創作意図があるのであって、その意図を具現するためには、中国人一世に相当まかせたが、任せっきりにはできなかっただろう事は推測できるね。まず、日本語の日本書紀漢字原案が作られるか、編纂者と中国人執筆者が二人で協議しながら文を書いたとどちらかだと思われる。そのどちらにしても倭臭をけすために、最終的には中国人一世が重用されたというのが、実際なのではないだろうか。森先生の思考はそこまで到達していないのだ。だから『述作者はだれか』と言う答えが出てこない。、その文案をまとめた人を述作者というべきで、それを中国語に直した人は翻訳者と言うべきなのだね。この本では、その翻訳者を相当克明に掘り出しているが、背後にいるはずの舎人親王や太安麻呂の動きが見えてこないのだね。僕が日本書紀を読んだ限りでは、日本書紀には濃厚な創作意図が感じられる。それは、朝廷の意志を反映している一方で、それに反する述作者の個人的意図が隠されているようにも見える。、これらの叙述の機微は朝廷の高い位置にいない中国人一世の手に余るはずだ。また、このような表現を必要としないと思われる」

 祐司は田沼の言っていることに全面的には賛成ではなかった。それでこう言った。

「でも、それは少し言い過ぎのような気がします。なぜなら、書紀の文書中に、執筆者ならではと考えられる条があると森先生は述べておられるのです。ええとそれはですね・・・ああ、ここだここだ。少し『日本書紀の謎を解く』から森博達氏の文章を引用して見ますね・・・中国人述作説の扉を開ける鍵は巻14の『雄略紀』にある。安康天皇の暗殺の経緯を描いた書紀の雄略即位前紀に、安康天皇が皇后に『吾妹』と呼びかける条がある。そこに、注があって、【妻のことを妹というのは、過去の風習か?】とあります。奈良時代においては、妻を『吾妹わぎも』と呼ぶのは、一般的な慣習なのですが、ところが、書紀の述作者は、それを不思議に思って【過去の風習か?】と変な注を記しているのです。書紀研究者である、江戸時代の本居宣長もとおりのりながも、この条に注目して『いもとは古い時代には夫婦であれ、兄弟であれ、他人どうしであれ、男が女をよぶ呼び方である。(中略)さて、夫婦の間で、妻を妹と言うことは、世の人もよく知っていることである。しかるに書紀には安康天皇が皇后を吾妹と呼ぶ条の注に【妻の事を妹というのは、過去の風習か?】とあるのはどういうことであろうか。妻を妹と呼ぶのは平安の京の時代になっても、使っている慣習で、それ以前の奈良の京の時代にはもっと常識であった。このようにわざとらしい注を書くのは、中国書風にするためであろうか?』と書いています。宣長が非難するような、この奇怪な注は、宣長のいうように中国書風にするために書き加えたものだろうか。巻1~巻13のβ群にも『妹』が用いられているが、そのところには『注』などはない。巻14に至って始めて『妹』に注がつけられている。巻14から始めて注がつけられる文字に『せん』や『吾子』などもあります。こうなったのは書紀の作成が巻14から始まって、しかも中国人の手によっているからです・・・と、まあこんな具合なのです。僕が考えるには、この注を付した中国人は、この注を書くとき、相談すべき日本人を持たなかったに違いないということです。もし、日本人が補助者として、傍らにいるならば、中国人は『この、妹とかく文章は変ではありませんか?』とたずねて、この疑問を解消できたはずではないでしょうか。この注が『古くは妻を妹と呼んだ』という中国人向けの注でなくて、『過去の慣習か?』と疑問符であるのは、ここの部分では、中国人は日本文章の翻訳者ではなくて、孤独な述作者であった証拠なのではないですかね。数人でワイワイ言いながら、編集したのであれば、このような注が発発生する余地はないはずです。書紀述作は、結構地味なもので、たいした予算が組まれていなかったから、相談者もいないひどく個人的なものになってしまった様子がうかがえませんかね?そうして、それが未完成のまま、完成品として納本しなければならぬほど、書紀編纂はせっぱつまった事情、または短期間の『やっつけ仕事』であったということもうかがうことができないでしょうか?」

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