鎌倉プリンスホテルの夢から覚めて
「先日はごちそうさまでした」と、祐司は言った。
「いやあ、あの日は楽しかったね。しかしあの料理を前にノンアルコールビールは、ちょっと残念だったなあ。早く良くなりたいなあとあの時ほど思ったことはないね」
「まあ、普段のご乱行のたたりですからね、しかたありませんね」
「一句 行く年を数え数えちゃ酒を飲み 龍 だね」
「また、レストランなどのご馳走、よろしくお願いいたします」
「働かざる者食うべからずと言う言葉を知っているかい」
「むむ反省・・・」
「良くお勉強したら、またご褒美あげるからね。さて、またお勉強お勉強」
「・・・京都産業大学教授の森博達と言う人が、書紀の言語の使い方で、執筆者を想定した中公新書の『日本書紀の謎を解く・述作者は誰か』という本があります。けれど、学校雑務で、この年末忙しいもので、まだあまり読めていないんですが、氏のいうところでは、文章の分析だけで、それが帰化人の手になるものか日本人のものであるかわかるそうですよ・・・ま、これはおいおいまとめて、持ってきます」
「それは面白そうだね、そう言う専門的な研究は専門家の智恵を借りたいね。もう少し後の方で、僕らの思索とつきあわせると、なにか良い結論が出るかもしれないな」
「そうですね、それがよいですね」
「古事記、日本書紀は相当な部分、出雲の神話について、書いているんだけど、僕にはこれがまず最初に変だと思えるんだ。僕がもしもだよ、書紀編集者だったら、強力な他国である出雲国の事は削除か、軽く触れるだけですますだろうな。それで、まずこの編集のおかしさについてもっと検証しようと思っているんだけど、どうかな」
「そうですね、そう言う視点ですか、書紀は国家的意図をもった書ですから、強大な敵国を描いては書の目的をそこないますね、印象深い出雲の国が古事記や書紀にあるというのは、ある意味編集の失敗ですね」
「僕が考えるにはだね、日本書紀にはこのような編集の失敗と考えられる箇所が数多くあるんだ。つまりそれはやがて、大和朝廷の権威を突き崩す爆弾のように作用するんだ。その一例が、平安中期に関東に一夜王朝を作った、平将門の乱であり、その他の反乱や謀反だと思う。こんな乱の元因が、継体天皇の不思議な天皇相続などの記事である可能性がある。継体天皇に比べれば平将門はもっと、天皇に血が近いからね。・・・こんな仕掛けを仕込むのは、多くの執筆者では出来ない。そこにある特定人物が執筆者にいると思うんだが、その答えはもっと後に出そうと思う」