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早川祐司、大学の図書館に行く

 翌日、朝から早川祐司は鎌倉女子大学の図書館で調べ物をしていた。裕福なこの大学の図書館は緑の岡に建てられていて、良く磨かれた広いガラス窓からは生い茂るケヤキや銀杏やメタセコイアなどの大木がテニスグランドの前で赤や黄に色づいていて、ゆらりと日射しを浴びているのが見えた。

 検索用のパソコンで「日本書紀私記」と入力して出てきた本を、司書の女性に出して貰うと、解説なしの漢字の羅列であった。これではさすがに田沼先生にも手強いであろうし、病気悪化ということにもなりかねない。現代語訳とは行かないまでも、解説つきの本はないかなと検索してみると、吉川弘文館からでている「日本書紀私記書目解題」と、言う本が良さそうである。


祐司は、ぶ厚いその本と「日本書紀私記」を持って学内の自分の研究室にもどった。12月の学園は今、冬休み中で、人の気配がなく、がらんとしている。通り抜けて行く風が、黄色く枯れ残ったモミジや銀杏やらの五万坪の敷地の木々を騒がせて行く。サザンカが所々でクリスマスツリーのように赤い花をびっしりつけている。吹く風に黄葉が一斉に道に降りしきる。

 コーヒーを飲もうと、ポットに水を入れて湧かす間、この「日本書紀私記」解題はどのような人が書いているのであろうかと、パソコンを立ち上げて「北川和秀」という人名を入力してみた。

 学習院大学卒、国文科助手を経て、群馬県立女子大学の国文科教授になった。とある。これは2008年の時点の記入であるようだ。写真も載っている。まだ40代のように見える人だ。祐司は、その経歴が、あまりに自分に良く似ているので驚いた。だからどうということではないが、なにか仲間を発見したように思えたのだ。

 祐司の研究室は教授の眺めの良い、中庭を見下ろす研究室に比べ、一階のもみの木の下のくらがりが見えるだけの部屋だが、その緑の裏庭を眺めながらコーヒーを飲むのは悪くない。コーヒーの味が一段と引き立つように思えるのであった。コーヒーを飲みながら祐司は思った。今日は、これからこの本にざっと目を通したあと、田沼先生の所に、この本を届けなければならない。田沼先生は詩人であるが、不思議な分析力のある人だと、改めて思った。詩人という人がどのような人か、田沼以外には詩人と呼ばれる人を知らない祐司だが、詩人という人々には何かそのようなまぶしいさがありそうに思えた。田沼は、じみな自分の生活に飛び込んできた輝かしい何かであった。

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