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男二人の検証

祐二は突然声をあげた。「そうか。古事記が日本書紀のダイジェスト版なら、わざわざ、古事記に日本書紀にない○○わけなどという古名と思われるふしぎな地名を併記したりはしないですよね」

「そうだね。それはいい着眼点だね。○○わけの真実が何であるにしろ、古事記が後宮向けに再編集されたというなら、まるっきり必要のない表記だな」

「つまり、古事記が、日本書紀より以前に書かれた事をしめしている証拠ですね」

「そういうことだな・・・さて、次の五の、表記の違いだね。現代表記なら『海月なす漂える』とか、『くらげなすただよえる』とか『クラゲナスタダヨエル』とか色々表記できるのだが、『久羅下那洲多陀用弊流』と表記しなければならないのは、古事記の編纂時には書き言葉がなかったという事を表していないかな。最初に出来た島『オノゴロシマ』が古事記の表記では、淤能碁呂嶋、日本書紀では磤馭慮嶋と違っていて、前者は漢字音によるふりがなであるのが、明白であるが、後者は、どうやら固有名詞化しているように思える。これは古事記が作られた時代には日本には文字がなく、中国渡来の漢字音(漢字には定まった一つの音しかないのだ。たとえば春という漢字にはシュンという読みしかなくジュンとは読まない)を用いて、日本語の音を書き留めたのが、日本文の始まりであったことは忘れてはならない事なんだ。古事記にはその残滓があると言うことだね。一方日本書紀は、『クラゲナスタダヨエル』という表現を、漢字の音を用いて表記するのが、劣等国的であるのを嫌ってか、この表現そのものがは用いられてない。日本書紀では『洲壤浮標譬猶遊魚之浮水上也』(国の土は遊漁の水に浮かぶようである)とこれを表記しているのだが、これは漢語の表現で、和語でいうなら『クニツチノウカブハミズニウカブサカナノタダヨエルゴトシ』と書くところだが、やはりこれでは田舎臭いから、すっかり漢文に直されてれてしまっていると言う事だろうね。明らかに日本書紀は古事記の表現を気にしているというところかな」


 その時、看護婦長がコーヒーを二つ入れて、部屋に入ってきた。

「ああ、婦長さんわざわざすいません。忙しいところ気を遣って頂かなくても」と、田沼は言った。

「いいんですよ。私は先生のリゾート病院シリーズの大の愛読者なんですから。ここで、先生の作品が生まれるかと思うと、なだかわくわくしてして、楽しいのですから」

「なんだか、気恥ずかしいな。こんな、憂さ晴らしにファンがつくなんて」

「オホホ、先生が照れているのは意外に可愛いですね。ところで、田沼先生、血液検査の方。大分結果が良いようですよ。よかったですね」

「あ、退院はしばらくご容赦。よく調べてくださいよ。絶対悪いとこはあるはずです。あ、ほら、痛い痛い、体中がぎすぎすする」

「はいはい。先生は病気です、病気です・・・そう言うことにして起きましょうね。それではごゆっくり」


 祐司は婦長が出て行ってしまうと、言った。

「婦長さん、先生を、見る目がなんだか妖艶でしたよ」

「よせやい。さ、続き続き」田沼は、差し入れのコーヒーをごくりと一口飲んでから、祐司の顔を見つめて言った。

「どうだい、古事記は明らかに、日本書紀よりもずっと古い書だと。判断して良くはないかな。そうだ、もう一つ忘れてはならないことがある。日本書紀の引用する神々の誕生に引用する「一書」の中に、古事記と思われるものがあることに気がついたかい?」

「え、そんなのがありましたっけ」

「ああ」

「それは、どれですか?」






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