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露天風呂そして満天の星 十一

「ここに、河辺臣は遂に兵を引いて退き、野営した。これに兵達は、河辺臣を軽んじて、指揮に従わなくなった。新羅の軍将は自ら野営に侵入して河辺の臣らと、従ってきている婦を生きながら虜にした。こうした有様で親子夫婦でもお互いに哀れむこともできなかった。

 新羅の闘将は言った。「汝は汝の命と婦と、どちらが大切か」と。河辺臣は答えて言った。

「何で一人の女を取って、禍を取ることがあろうか。何と云っても自分の命ほど大切なものがあろうか」

 そうして河辺臣は女を闘将の妾とすることを認めた。闘将は露わな場所でその女を犯した。女はやがて帰ってきた。河辺臣は、女の元へ行って親しくしようとしたが女は大層恥じ恨んで言った。

「以前、君は軽々しくも私の身を売りました。今、なんの面目があって会うことができるのですか?」と。そして遂に従うことがなかった。この婦人は坂本臣(和泉の豪族)の娘で甘美姫うましひめと言った。


 同じ時に捕虜となった調吉士伊企儺つきのきしいきな(調吉士は百済からの帰化人氏族)は人となり猛く、服従の様子を見せなかった。新羅の闘将は、刀を抜いて脅かしながら強引に袴を脱がせ、尻を日本に向けさせて「日本の将わが尻を食らえ」と言えというが、伊吉儺は叫んだ「新羅の王、わが尻を食らえ」と。脅かして再度言わせるがやはり「新羅の王、わが尻を食らえ」としか言わないので遂に殺されてしまった。その子、舅子おじこも父の遺骸を抱きかかえながら殺されてしまった。(舅子は恐らく少年だろうね!)したがって諸将は伊吉儺の死を惜しんだ。妻の大葉子おおばこも、ともにとりことなったが、この出来事を傷んで歌読みした。


 韓国からくにの上に立ちて大葉子は 領符ひれ振らすも 日本に向きて


 (韓国の城の上に立って 大葉子は 日本に向いて 永遠の別れに襟飾りの白布を振っている!)


 ・・・まさに古代のロマンだね。何という悲しさなんだろうか!こうした歌を残して、長きに渡った任那と日本の関係はついに途絶えたのだ。このあと書紀は任那の記事を記載しない。・・・この任那という諸国とつねに良かれ悪しかれ濃厚な関係を保ったのは、大和国であると書紀は書き続けるが、ついに僕は最後まで、大和王家が軍兵の送り手だとはどうしても思えないのだよ。つねに韓地に関与しつづけてきたのは筑紫を主としてきた人々なのではあるまいか。君たちはどうかな」

 祐司は言った。「そうですね。磐井が殺されたあとも、任那への援軍の主力は筑紫の軍船であったようだし、また活躍しているのも筑紫国造である事を書紀自体が書いているのですからね!」

 沙也香も言った。「忘れた頃になると、筑紫の君をヒーローとして登場させる書紀は奇妙ですわ。私には、それが歴史から消去された倭国に対する、太安麻呂の哀歌のように聞こえるンです」

 「さあ、どうやら僕らの追求を終える時が来たようだ。この探求のラストシーンは、万座プリンスホテルの本館混浴露天風呂の満天の星の下で迎えようと思うけどどうかな」

 沙也香は言った。「え!混浴ですか?」

「そう、混浴を三人で!・・・・・・しかし、驚かなくても良いよ。女性には温浴用巻タオルがあるからね。もっとも自分はそんなのはいらない。ボデイに自身があるというのであったら、オジサンはカンゲイします」

「この、ヒヒジジイめ!」と、沙也香は田沼の頭を軽くこづいた。

「あ、痛い!ごめんごめん。冗談です」


 三人は食事を終えた後、海抜二千㍍という雲上の硫黄分たっぷりの黄色をおびた白濁の湯に向かった。

 

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