毛野臣送還後の任那について 六
祐司は言った。「那の津に、物資を集めさせているのは、新羅に警戒を抱いているからでしょうかね?」
「どうみても、毛野臣の強制送還以来、任那は百済と新羅の狭間にあって、じり貧の一途だからね。恐らく大和朝は任那の行く末を悲観的に見ていたと思うよ。そうして任那を踏みにじり躍進する新羅に警戒感を強く抱いていたことも間違いない。それがこの筑紫増強の記事になっていると考えられるね。・・・さて、そろそろ、夕食の時間だね。」
広々とした食事処からは、すでに暗くなった庭を諸所におかれた庭園灯が、ほどよく照らしているのが、見えた。
「この旅館の離れの松風の間はね、当初明治天皇をお迎えするために黒田藩の跡継ぎが大磯に建てた物なんだけど、のちに三井家が、ここにそれを移したと言うことらしい。この松風の間では、しばしば将棋の名人戦が行われるんだ。したがって、ここの設備や料理は当然一級で期待できるものだ。」
「戦前は三井財閥の迎賓館といった趣だったそうですね」と。祐司が言葉をはさんだ。
「そうだ、戦前は大磯・平塚あたりは、政財界の別荘地だったんだ。車で30分ほどの秦野の鶴巻温泉は明治22年にできたという説や大正の始めにできたという説があるのだけれど、詳しくは解らないようだ。まあこのころ三井財閥が少し離れてはいるが温泉がでるというので迎賓館を造ったということだ。」
沙也香は言った。「私、京料理とか懐石とか言った日本料理はとても好きです」
「それに日本酒もだろう」
「やだ、お酒はたしなむ程度ですよ!」
「ウワバミがよく言うよ。ウワバミさん、この旅館には純米吟醸の山口のお酒『純米大吟醸・獺祭磨き二割三部』が、置いてあるんだ。これはね、お米を77%も削った心を使った旨い酒だよ。君も飲むか?あ、いらない?あ、そう。」と田沼は混ぜっ返した。
「先生は意地悪ですね。それでいつまでもお嫁さんが来ないんですよーだ。」
「アハハ、よけいなお世話だ。・・・やはり、日本料理には日本酒だと僕は思うのだが、リゾート病院の院長から、酒を飲むなら、ウイスキーか焼酎のどちらかを少々にしろときつく言われてるので、ほんの少し純良の酒を飲んで、それからウイスキー水割りと行くか。料理はノドグロの西京焼き・松茸捥・ふろふき大根・和牛朴葉焼き・里芋ごま揚げ・カボチャ・ハモ・イカとホタテとまぐろのお造り・金目鍋、松茸と蟹の炊き込み御飯・・・まだまだあるねえ・・・よしよし。それでは乾杯」