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日本書紀のミステリーに挑む 一

田沼の住む、稲村ヶ崎の山のあたりでは夕時、日暮らしがカナカナと鳴く日が多くなった。夏もそろそろ終わることが感じられた。

 そんなある日、田沼から祐司と沙也香に電話がかかった。「料理上手の押しかけおばさんの佐伯さんが、あの二人を呼びなさいとうるさいんだ。それで明後日の夕方ごろどうかな」二人それぞれに、いくらかは異なるが、そのような内容を伝えた。

 六時頃、沙也香と祐司はちょうど同じ時に江ノ電の稲村ヶ崎駅に降りた。そこで二人は鉢合わせして

「ア!」と同時に声をあげた。なぜだか知らないが二人は顔を赤らめた。

 軽い挨拶を交わして、それから二人は、一緒に歩き始めた。祐司はチラチラと沙也香を見ていたが、ボソボソと沙也香に言った。「・・・そろそろ・・・田沼先生の検証も終わりそうですね・・・この取り組みが終わると僕たちはあえなくなりますね、実は僕はね・・・」と言いかけたところで声がした。「ああ、君たちやっと来たか。余り遅いんで、佐伯さんが様子を見てこいと、女房の様にうるさいのだよ。それでここまで歩いてきた訳なんだ。・・・まてよ女房といえば、彼女は僕の女房の座を狙っているわけではないだろうな」田沼が目を見開いてそう言ったので二人は思わず笑ってしまった。田沼は独り言のように言った。「『孤独と言う名の自由、結婚と言う名の不自由』だから愛と自由が好きな詩人はいつも悩むんだ」

 沙也香はそれを受けて言った。「人間はオオカミと同じで群れなければ生きていけない動物なんですよ。一匹オオカミは獲物を捕らえることができないから死ぬしかない。名前だけは『一匹狼』なんてかっこいいけれど生きる術をもたない者なんじゃないですか?今のままでは先生は一匹狼ですよ」

「そんなこと言うけど沙也香君だって祐司君だって一匹狼じゃないか。君たちも子を連れた家庭という群れを作ったらどうかね」沙也香は、うろたえたように祐司を見た。祐司も沙也香を見た。

 その高台からは、夕暮れ時の海に浮かぶ江の島と大空に立ち上がった入道雲が、赤一色で描かれた絵のように拡がっているのが見えた。


 田沼は話題を変えた。「佐伯さんは張り切っているぞ。アワビの刺身・サザエ壺焼きエスカルゴ風・湘南鯛の焼き物と鯛のあら汁・湘南わかめと太刀魚のカルパッチョ・秦野ピーナッツの甘辛煮、エトセトラ・エトセトラだよ」

「美味しそう!」と沙也香は叫んだ。


 佐伯さんがいつものニコニコ顔で待ちかまえていた。

「のんびり召し上がってくださいね。皆さんのお口にあうかどうか心配なんですけど・・・」

「結構・結構、我々はいつもはカップラーメンなどをすすっているような人間ですから、絶対佐伯さんの腕前にひれ伏すに違いないですよ。それでは暑い夏を生きながらえたということでビールで乾杯!」


 いつの間にか、家の外は暗くなっていた。早くも秋の虫があちこちで鳴き始めている。

「さて座興に、日本書紀探求を始めるか。・・・日本書紀中のミステリーのハイライトは何と云っても磐井の乱だね。君たちには言うまでもないことだが、この席には、新参の佐伯さんがいるので一応説明するよ。時は継体天皇の時、九州の磐井という豪族が天皇の新羅侵攻を妨げた。また新羅・百済などの毎年の貢ぎを横領した。そこで天皇は兵を遣わして磐井を撃った、それを世に磐井の乱と言うのだ」




 

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