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書紀にみる倭国の新羅侵略 三

 田沼と沙也香はしばらく、この[羅針盤]という極楽寺の喫茶店に入っていたが、この店のママは田沼が詩人でエッセイストであると解るほど親しい。しかし田沼には気が引けた。すでに昼近くになっていたのでこの店の看板メニュー、ヨットマンのランチというサンドイッチとビールを頼んだ。サンドの具はカ二缶の蟹とアンチョビーだ。蟹とタマネギ・アンチョビーとタマネギという組み合わせだ。それにトマトスープが添えてある。

 ママの夫は、登山用品のメーカーに勤めているヨットマンなのだ。この近くにさほど大きくはないが美しい木目のクルーザーヨットを持っていて、田沼はかって数日、伊豆諸島へのクルージングに招待された。そんな夫の気まぐれ人生に感化されたママが自宅の大きすぎる玄関を改造して、ママ一人きりの気ままな店を始めた。気ままだから休業も多い。そんな店なのだ。

 ママがサンドイッチを持ってきた。にこやかに笑いながらママは言った。

「もう、お体は大丈夫なんですか」

「まあ、肝臓が弱いのですがたまの飲料水ていどのビールは許されているんですよ」

「それは良かったですね。うちの浮かれトンボなどは自殺するんじゃないかと思うぐらい、海賊のように飲むので心配してるんですよ。先生も自重なさってくださいね」

 田沼は二カッと笑って答えの替わりにした。

「ああ、ママ。この人は僕の愛人ではありませんよ。僕担当の出版社の社員で山辺沙也香さんという人なんです。誤解のないようにお願いしますね。若い女の子を誑かしているなどとうわさを立てられるとたまりませんからね」

「そうですか。そのような方なのかなとちょっと思っていたのですが、邪推でしたね。ほほほ」

 ママは笑いと共にキッチンに戻っていった。田沼と沙也香は食事の後、店を出た。そして夏が近い、青みを帯びた稲村ガ崎の海辺に出た。それから、今度は稲村ヶ崎の丘の上にある田沼の自宅に向かった。


 田沼の自宅は、元はある文芸評論家の家であったが、十年ほど前、沙也香のいる出版社の紹介で田沼のものとなった。敷地30坪あまりに10坪ほどの南面した小庭がある。文芸評論家は夫婦二人の所帯であったから、一階がリビング・風呂・洗面所・トイレで二階が真ん中に廊下とトイレを置いて二部屋に別れている小さな家である。

 リビングからも洋上はるかに江の島が見えるのだが、二階の西によった部屋からは沈む夕日に富士山と江の島がシルエットがとりわけ美しく、田沼は西側の窓際に和テーブルを置いて書斎としている。もう一室は、客のための部屋としていて、部屋には何もない。田沼は西側の書斎にベッドを置き、本棚を置き本を積み上げ寝起きしているのだ。したがってトイレの手洗いから水を汲み、ポットに水を入れ湧かし、レギュラーコヒーパックやお茶パックでコーヒーやお茶を入れるのである。一階のリビングにはテーブルセットと応接セットが置いてあって、田沼の仕事の応対はもっぱら、こちらの方で済まされる。


 田沼と沙也香は応接セットに腰を下ろした。そして例の大きめの手帳を開いた。

「さて、もう少し、書紀の記事をおいかけるか。新羅は高句麗に占領されそうになり、そこで新羅王は任那王に助けを乞うたね、そこから話が繋がる。


 任那王(任那は諸国であり、ここで言う任那王はどの王であるか不明)は膳臣斑鳩かしわでのおみいかるが吉備臣小梨きびのおみこなし難波吉士赤目子なにわのきしあかめこらを送り、助けさせた。膳臣かしわでのおみらが新羅に到着する途中に軍営しているだけで高句麗の将兵は恐れた。膳臣らは装備を調え、高句麗軍と対峙すること十日あまり、夜の内に地下道をつくり軍備を運び急襲を狙った。明け方になり、軍営が空になっているので逃げたと思い高句麗軍は兵をことごとく出してきた。そこで、後営から騎兵を発進させ地下道から兵を出して高句麗兵を挟み撃ちにし大破させた。高句麗と新羅の反発はこの時に始まったのである。膳臣は新羅に語った。

「汝の国はひどく弱いのに、ひどく強い国と戦った。もし日本軍が助けなかったら、この戦いできっと他人の国になっていたに違いない。今後は天皇にそむいてはならないぞ」と。


 





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