佐伯さんの作った夕食 七
佐伯さんはじっと田沼の話を聞いていたが遂に声を出した。「田沼さんのお話を聞いておりますと、古代の日本は随分、韓国や中国と関係を持っていたことに気付かされますね。私なんか、歴史が好きでも魏志倭人伝とかの歴史資料を手に取ったこともないんですよ」
「いやあ、僕も十年ほど前まではそうでしたよ。僕は酒の飲み過ぎで、退屈な病院生活をくり返していました。出版社の山辺沙也香さんに進められるままに詩人の書く一種のエッセイを書くつもりで、歴史の謎を追いかけているうちに、史料のまた聞きでなく、取りあえず、古本で一冊300円ぐらいで買える岩波文庫から出ている「日本書紀」とか・・・これは五冊ですけど・・・「魏志倭人伝・後漢書倭伝・宋書倭国伝・隋書倭国伝ー中国正史日本伝1ー」・・・これは数多い中国史料の日本に関することがらを集めて一冊にした、漢文の原文を収めて200ページくらいの本なんですけど・・・とか、「旧唐書倭国日本伝・宋史日本伝・元史日本伝ー中国正史日本伝2ー」・・・これは前の本の二冊目ですね・・・それから、これも岩波文庫ですが古代朝鮮の倭国に関係する歴史資料、つまり三国史記倭人伝、三国遺事倭人伝、七支刀刻文、広開土王碑文を集めた「三国史記倭人伝」とかを史料に使うようになったんですよ。
ところで、三国史記倭伝というのは、岩波書店が『三国史記』中の日本に関する記事を抜き書きしたものなので、そんな書名は実際は存在しないのですよ。
僕らが本編である『三国史記』を読もうとすれば、三百ページ四冊からなる平凡社から出されている全集『三国史記』を手に入れなければならないのです。少し詳しく当時の事情を知ろうと思えば、当然、その本が読みたくなるわけなので、一冊三千円もする中古本を手に入れるか、図書館で借りてくるかしなければならないのです。・・・で、貧乏な僕は大学の図書館か公立の図書館からそれを借りてくるわけなのです。こうした事情をしれば意外に日本文化の底は浅いと感じるのではないでしょうか。三国史記の文庫本が出版されてはいないのだね!もう少し出版界には頑張って貰いたいところです。・・・出版界といえば先日(2012年)岩波書店のコネ採用がマスコミで問題となっていましたが、僕なんかは岩波書店が嫌いではないだけに『あの岩波までが!』とひどくがっかりしたものです。
これには昔、僕の弟が國學院大學を卒業して新潮社を受けようと思ったら新潮社から採用の指定校に入っていませんと言われて怒っていたの突然思い出しましたね。こうしたやり方は全くフェアではない。以来僕は新潮社を、つまらない会社だと思っていますし、ちゃんとした反省を出さなかった岩波書店も例外ではありませんね。・・・あれあれ、随分脱線してしまった。」
「おほほ、面白いですわ」
「さて、随分美味しい料理を楽しませて貰いました。今日は、この辺でと言うことにしましょうか」