田沼 飛鳥への旅 五
飛鳥サイクリングの拠点、橿原神宮前駅から、午後三時過ぎ、ふたたび近鉄特急に乗って電車で二十分、次の目的地、平城京跡最寄りの大和西大寺駅に着いた。そこから歩いて15分ほど、二人の前に一キロほども先の朱雀門を従えた峨々とそびえる大極澱の広大な広場が拡がった。
「この、二つの建物は、朱雀門が1996年に、大極澱が2010年に再建されたものなんだ。朱雀門は平城京の入り口である、羅生門から、北4キロに建てられた、宮廷の門なんだね。宮殿だけで1キロ四方の広がりを持っていて、都に至っては5キロ四方はあったということは、いよいよ国家の力が実って来たことを表しているね。大極澱が再建されるにあたっては、遺跡の土台を根拠にして、東大寺天害門を参考に設計したということで、正確ではないかもしれないね。ここで天皇は、百済や新羅の使節と接見したんだ。正面が約50㍍、奥行きが20㍍、高さが30㍍ある。平城京という言葉は聞き慣れないが、もちろん奈良の都のことだよ。先ほど見た、大和三山に囲まれた、藤原宮を20年で見捨てて、710年ここに遷都たのだ」
大極殿に入ってみると、30㍍の上に天井がある広い空間が拡がっていた。その下に丸いお堂のような天皇のご座所が北によせられて造られている。その前に相当な広がりがあって、臣達のかしこまっていた場所であったという。
その夜、田沼と沙也香は近鉄奈良駅から歩いて15分、奈良公園の深い緑と池に囲まれた創立百年の歴史を持つ奈良ホテルに泊まった。平日だったので、シングルの部屋を二つとっても、田沼には耐えられる宿代なのだ。食事は比較的簡単な、舌ビラメのポアレ(オリーブオイルで炒めた料理)とホテル特製ビーフシチューとデザートのシャーベットと珈琲で7000円だった。一日歩き回って喉が渇いたので生ビールを飲んだ。、料理についてきたパンを少し食べただけで、そのあとバーに移り、評判のオリジナル・カクテル「マントルピース」を飲みながら沙也香と話しはじめた。